第104話 暗雲の気配
今日も司令部では日常と変わらない業務がこなされていた。
サクラの横をレイラが通った時、サクラがレイラに声をかけた。
「ね~、レイラ。何か聞いている?お隣さんの状況について、情報を持ってない?」
「なにブル?あ~先日勃発した戦闘の結果を知りたいのね。第3作戦軍司令部当たりから情報が上がっていないの?」
「そうなのよ、戦闘が東部作戦軍管轄で勃発したこと以外、戦果も被害も何にも言ってこないのよ。こっちから聞くわけにもいかなくてさ~。レイラは古巣あたりからの情報を持っていないかな~っと思って聞いてみたの。で、何か聞いていないの?」
「そ~ね、まだ、これと言って聞いていないわ。あ~そうだ、状況分析室の連中がおかしなことを言っていたわね」
「何、それ?」
「なんでも、共和国の連中は、戦況が有利になってもこちらに前進してくる気配がないのが不思議だと言っていたわ」
「何、ちょっと待って。それじゃ~、戦況は共和国に有利に展開しているの?」
「どうもそうらしいわよ。でも、共和国側はこっちの戦力を押し返すだけで、そこから動かないらしいの。だから、うちの連中は互角に戦っているとうそぶいているとも言っていたわね」
「でも、そうなると、不気味ね。共和国は何を考えているのかしらね?」
「それがわかれば苦労はしないわよ」
「それもそうよね。で、こちらジャングル方面への影響は何かあると考えているのかしら?」
「全くの不明なのよ。共和国は、ジャングル方面に展開していたと思われる1個軍団が受けた鉄砲水の被害が、かなり甚大だったようよ。それがなければ、今頃ここまで敵さんが来ていたかもしれないし。ま~、共和国側にしても前進できない理由があることだけは確かね」
「ね~、レイラ。それって、もしかしたらうちと同じじゃないの」
「どういうこと?」
「だから、うちは今補給に困って、軍団の維持すら、そろそろ難しくなってきているわよね?共和国も補給が続かないんじゃないかなって思って。そもそも、先の工作員の補給港への工作も、本来ならば一時的に使用を制限させ、そこを占領して、攻勢をかけようとしていたんじゃないかなっと思うのよ。私ならば、ここゴンドワナみたいに補給の難しい地域での大規模戦闘はできる限り避けたいわよ。もし、しなければならないのならば、自分たちの補給ルートだけじゃなく敵の補給ルートも奪って活用したいなって思うのよ。でも、あれだったじゃない。ある意味での功績かもしれないわ。誰も評価はしないけど」
「ブル、あなたは、先の工作は、補給港の占領計画の一環だと言うの?もしそうならば、あそこまで壊れたんじゃ、使えないからね。敵さんの計画もおじゃんだったってこと」
「もしそうならば、この後どうなることやら。敵も味方も補給に難ありの地域で、今持っている弾を撃ち尽くしたら、その後何もできないわよ」
「そうなると、この後かなりまずいことになりそうよね。第3作戦軍司令部辺りから、かなりの無茶を言ってくるわよ。何か防波堤のようなものを作っておかなくちゃね」
「使いたくはなかったけれど、そうなる前に皇太子府のコネを使わせてもらうしかなさそうよね。帝都の軍上層部の関係は逆に使われそうだから、そっちには気づかれないようにしますか」
司令部は通常に機能しており、各方面からの情報は逐次入ってくる。
ジャングルのような僻地にあっても情報が遮断されているわけではなかった。
そこに、いつものように通信担当の幕僚が帝都からの情報を持ってきた。
「旅団長、帝都の統合作戦本部から、各方面での戦況報告が入ってきております。第1作戦軍管轄では回廊での小競り合いはあるが、依然にらみ合いのまま。第2作戦軍管轄では沖合に展開している海軍と共和国海軍との戦闘はあったが、上陸される危険性は一切なし。第3作戦軍管轄では東部正面軍が敵との戦闘に入り、継続中。中部正面軍は敵共和国軍の威力偵察があれど、本格的な戦闘には至らなかったと。最後に西部正面軍は逆に敵に対して2個師団をもって威力偵察を敢行し、現在本格的な戦闘に推移しそうだと連絡が入ってきております。詳細につきましては、第3作戦軍司令部からの続報を待てとのことです。通信文は以上です」と言って、暗号が解読された通信文の入ったファイルを手渡された。
サクラは、それを受け取り、サインをし、レイラに回した。
レイラもそれを一読し、先の幕僚にファイルを返し、「どうやら、全面戦闘をしでかしたいようよね。あそこは何を考えているのよ」
「あちゃ~、言った傍からこれじゃ~ね。弾を撃ち尽くしたらじり貧決定じゃないの。第3作戦軍司令部から何を言ってくるかわかったもんじゃないわね。レイラ、どうしよう」
のんきに話し合っている二人に向かって速足で近づいてくるのがいた。
マーガレット副官である。
彼女はこの基地の補給を担当して、今朝戻ってきた部隊に補給物資の受け取りの確認に行ってもらっていた。
司令部の扉を勢いよく開け、ややきつい口調で、報告を始めた。
「旅団長、よろしいでしょうか?」
「マーガレット、お疲れ様、で、何かしら。その様子だとあまりいい話じゃなさそうよね」
「はい、今回の補給は予定通りの物資が入りました。しかし、補給を担当していた士官が言うには、ドラゴンポートに西部正面軍の補給参謀が来ており、うちに回る補給物資をすべて西部正面軍へ回せと言ってきたそうです。近々第3作戦軍司令部から指令を出させるとかなり強い口調で言っていたと報告が上がっています。何か手を打たないと、うちが干上がることになります」
「なに、西部正面軍はそんな無茶を言っているの。自分たちのミスで大陸に展開している全部隊に迷惑をかけているのに、傍若無人にもほどがあるわね。何か自衛しないとまずいわよ。何か手はない、レイラ」
「そうよね、これは、早急に手を打たないととんでもない事になるわね。まずは、状況の分析から始めるわよ。マーガレット、クリリン手伝ってね。何しているの、ブル、あんたも来るの」と言って、レイラはサクラたちを連れて旅団長室に向かった。
今までひと時の平和だった司令部にも徐々にきな臭くなってきた。
いずれ、そう遠くない未来に、ここにも暗雲が立ち込めることは誰の目にも確かであった。
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