第100話 閣下からの感謝状

 俺らは、閣下と別れ、鎮守府を後にした。

 鎮守府を出る際に基地にルートが見つかったことと、計画どおりに簡単な補修をしながら帰還することを伝えた。

 今回は、アプリコットもジーナも余計なことは一切報告しなかった。

 何でも、もし、報告していたら、レイラ中佐あたりがここまで飛んできそうだと思ったとのことだ。

 俺としては、何らいつもと変わりはなかったので、彼女たちが何を問題視しているのかがわからなかった。

 もしかしたら、ウインチの資産登録をしないで、タダで入手したことが問題なのだろうか?

 でも、あれは、扱い上ゴミをもらっただけだし、海軍さんもそう言っていたから問題はないはずなのだが、ま~、これもいつものことなので、気にせずに基地に向けて帰還していった。

 ウインチも手に入れたので、補修箇所は7箇所と決め、ここまで作成してきた地図のコピーに丸をつけた。

「だいたい1箇所半日程度でお願いしますよ。補修確認が出来次第、次のポイントに向かい、1日あたり2箇所で計算すればいいかな」

「そうですね、簡単に補修ができるところもあるでしょうから、そのように計画を組みましょう」

 俺とエレナさん、それにマキアさんとで打ち合わせをしていた。

 アプリコットとジーナは、帰還後の報告書に鎮守府の件をどのように盛り込むかで、こそこそと話し合っているようだった。

 何もそんなに深刻に考えなくともいいのにと俺は思うのだが、軍のしきたりでもあるのだろうか?俺にはわからなかった。

 そんなこんなで、最初のポイントに到着。

「それでは、みなさ~ん。この前の橋の時のように怪我のないようにお願いしますよ。では、手はずに従って、始めてください。マキアさん、ウインチの運転には十分に気をつけてね」

「メーリカさん、新兵の事故には十分に気をつけてね。特に第3、第4分隊には注意を常に払っていてね。俺も気をつけておくが、あそこは新兵だけじゃなくて、指揮官にも経験がないし、工事の経験が圧倒的に少ないので、よろしく」

「隊長、わかってますよ。旧山猫の連中は、隊長からの扱いにもすっかり慣れていますので大丈夫でしょうが、あの連中は、まだ慣れてなく、戸惑っているのが多いからね」

 などと、話しながら補修を続けたが、最初のポイントはやや時間が掛かり4時間も費やしてしまった。

 しかし、次のポイントがすぐそばだったので、移動時間によるロスが少なく、助かった。

 2箇所目は比較的簡単に補修が済み、初日は計画通りに2箇所の補修が済んだ。

 二日目以降は、うまくいったりいかなかったりで、結局予定していた日数より3日も余分にかかりながらも、全員が怪我もなく無事に基地に帰還できた。

 俺らは、そのまま司令部に赴き、制作した地図を提出しながら報告を済ませようとした。

 すると、いつも以上にサクラ旅団長の視線が鋭いのに気がついた。

「ルート探索、ご苦労。で、あなたたちは、鎮守府で今度は何をやらかしたのかしら。その件もしっかり報告はくれるわよね」

 みると、アプリコットとジーナが自信なさげに狼狽えた。

 なので、俺が答えた。

「??、はい? 私には、とんと覚えがないのですが。鎮守府から抗議でも入ったのでしょうか?」

「抗議なら、謝れば済むから、何が起こったのかすぐに分かるので、少しは安心できるのよ。

 逆よ、逆。鎮守府の副鎮守府長のゴードン閣下からの感謝状をうちの補給部隊が預かってきたわよ。これはなにかしら?これを受け取ったうちの幕僚たちが状況の確認に走ろうにも、あなたたちはのんびりジャングルの中で大好きな工作中だったでしょ。みんな、これは新手の嫌がらせか!などと疑っていたのだから。だってそうでしょ?陸軍と海軍とは帝都で派手にやりあったばかりなのよ。それに、いましている補給だって、クリリンに無理を言って無理やりしているようなものだし、下手をすると補給が止まるのではと、一時大騒ぎになったのよ。クリリンの伝手を使って帝都経由で状況の確認をしている最中なのよ。で、その元凶たるあなたたちにその件についての報告が今に至るまで全くないわけでしょ。どういうことですか」

「どういうこともないのですが、どうしたのでしょうかね」

「それを聞きたいのは私の方よ。どういうことなの、なぜ、ゴードン閣下から感謝状が来るのよ」

「それは、私にもわかりません。鎮守府にて、ゴードン閣下とは非公式にお会いしまして、和やかに世間話をした記憶しかないので、なぜ、閣下から感謝状が来るのか、私にも皆目見当がつきません」

「ちょっと待ちなさい。今、あなたは、現地でゴードン閣下にお会いしたといったわね」

「はい、世間話しか話せませんでしたが、非公式な扱いですが確かにお会いさせて頂きました」 

「だから、なぜ、あなたが事実上、現在の鎮守府トップにいきなり行って、会えるのよ、おかしいでしょ。ありえないことでしょ。今、あそこの鎮守府は、補給経路の変更でとんでもなく忙しい状況なのよ。鎮守府長も帝都まで駆り出されていて、ゴードン閣下はあなたのようなアポイントもない者に会えるわけないはずよ。なのになぜあなたは会えたのよ。そればかりか、なぜ、あなたは閣下から感謝状までもらえたのよ。大体、いつもいつも、あなたは、ありえないことばかりをしでかすのよ。しっかり報告しなさい」

「ブル、いいから、少し落ち着きなさい。私が彼に尋問するから、ね。いいわね、そこで、落ち着いて聞いてなさい」

 『尋問』??ちょっと待て、穏やかじゃないな。

 俺のほうが聞きたいよ。

 作戦終了の報告に上がっただけなのに、なぜ、元情報部の人に尋問されなければならないのだ。

 勘弁してくれ。

 そのとき、メーリカが助け舟を出してくれた。

「隊長、隊長、もしかしてアレの件じゃないですか。ほら、何でしたっけ、アレ、ん~~と、そうだ、ウインチと言ったっけ、あれの件で海軍さんはかなり喜んでいましたよね。感謝状はそれくらいしか考えられませんよ」

「それもそうか、その件かな」

「あなたたち、なんですか、その件って」とかなり鋭い口調でレイラ中佐が聞いてきた。

 俺、悪いことはしていないよな~とは思ったが、そこは大人の対応で、

「はい、帰りの補修の件ですが、工数的にかなりきつかったので、ダメもとで、海軍の基地で使用していると思われるウインチの借用に行きました。その際に閣下とお会いできる機会を得ました」

「だから、何故、ウインチとやらを借用に行って、閣下とお会いできるのよ、それに、借用に行って何故、感謝されなければならないのよ。さっぱりわからないので、私たちにわかるように説明をしなさい」

 やばい、レイラ中佐もかなり怒っているようだ。

「はい、海軍基地でも、ウインチの絶対数が足らなく借用はできませんでしたので、代わりに壊れているものから修理して使えないかを聞き、廃品置き場でのゴミ漁りの許可を頂き、2台のウインチを作ることに成功しました。そこで、1台を海軍さんにお礼としておいてきたところ、現地の海軍さんからかなり感謝されたのは覚えております。感謝状につきましてはその件かと思います。それ以外に心当たりはありません。また、なぜ閣下にお会いできたのかは全く心当たりがありません。なんでも、私は海軍ではかなりの有名人だとかで物珍しさからと思われます」

 そのあともかなりいろいろ聞かれ、俺じゃ埒が明かないと言わんばかりにアプリコットやジーナにまで尋問が及んだ。

 しかし、彼女たちも最初からいたわけじゃなく、ほとんどわからないのは同じで、この件は、おやっさんが後にマキアさんからの報告を聞いて解決するまで司令部では悶々としていた。

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