第99話 閣下との面会
「少尉、リーサから聞いて、ここまで来ましたわ。庁舎まで来てもらうのは、時間がもったいないからね」
「こちらがいろいろしてもらっているのに、わざわざ出向いてもらい申し訳ありません。でも、正直助かりました」
「あ、それよりも、ちょっと待って。先ほど、会えなかった副鎮守府長のゴードン閣下にお時間がもらえたのでご一緒してもらったわ。ご紹介させていただけますか」
「こんな格好で、お初にお会いすることをお許しください。私はサクラ大佐旗下で小隊長を拝命しておりますグラスと申します。階級は少尉です」
「いや、なに、わしのほうこそこんなところまで乗り込んでの挨拶だ。不躾で申し訳ないのはこちらの方さ。この基地で副鎮守府長をしているゴードン 准将だ。貴殿の噂は色々聞かされておるが、配属される寸前の事故でもめげずに敵の英雄を捕虜にするなど、おおよそ今までには考えられないようなことをする士官だと理解している。昨今はいけ好かない陸軍軍人が多い中にあって、流石に戦地特別任用で任官される人は違うと感心しておったのだが」
「閣下、今の表現は色々と問題が…」
「お~~、すまん、ちょっと帝都で喧嘩をしたばかりでな。気分を害したのならお詫びするが」
「いえ、お詫びには及びません、閣下。私には、閣下が私のことを評価して下さったことしか聞いておりませんから。それに、今は完全に正式な面会ではありませんから、どこにも記録は残りません。気にしないでください」
「ほ~、やっぱりできる御仁は違うな」
「え~、そうですね。私もそう思います」
ここまで、横で聞いていたマキアさんが肘で俺をつついて「隊長、これ、新手のいじめですか?何でも、褒め殺しなる高等テクニックがあるそうですが、もしかしてこれがそうですかね。でも、直接怒られるよりはいいですね」
「そんなの俺が知るかよ。それよりも、俺は直接怒られた方がいいぞ。これではよくわからん」
「そ~そ~、少尉は私に何か御用があったとか。なんでしょう?」
「お~、そうだった。閣下との面会で舞い上がっておりました。先の面会の時にウインチの借用をお願いしましたが、余分が無く、逆にここでも不足していると聞きました。廃品の自由譲渡を許していただき、そこの破棄される避難艇についておりましたウインチを2つ外して整備しました。我々には1つあればよく、もしよろしければ、お礼にこちらのウインチを置いていきますが、どうでしょうか?要らないようならば、これも我々がもらっていきますが」
「どれですか?」
「お~、これかね。ずいぶん器用に工作されているようだが、今動かせるかね」
すると、マキアさんが、「はい、両方ともすぐに動かせます。というより、つい今しがたまで試運転をしておりました。ここで、動かしてみましょうか?」
「お~、ぜひそうしてみてくれ」
「はい、ではさっそく」と言って、マキアさんは改造ウインチを動かした。
ちょうど足元にもやいもあったので、それを使って、先ほどの避難艇を動かしてみせたのだ。
それを見ていたゴードン閣下もアリー中佐も驚いていた。
もともともやいロープを引っ張るための物だったので、力的には十分にあった。
「これはすごいな」
しきりにゴードン閣下が感心していた。
「これを置いて行ってくれるのですか」
「はい、我々にはこちらがありますから。というより、これは、もともと海軍さんのですし、我々がこちらをお借りしてもよかったかどうか」
「ありがとうございます、少尉。これは大切に使わせていただきます。こんなところにお宝が隠れていたのだなんて、今までずいぶんもったいないことをしていたかもしれませんわね」
「いえ、間違いではないと思います。これは、手間もかかりますし、製品としての安定性に欠けますので、使用するのには十分に注意が要ります。我々だって、本当に困ったときにしかこのようなことはしません。もっとも、このジャングルに来てからはこんなことばかりをしていますので、色々と変な噂がそちらに流れたのでしょう。うちの副官などが、本当に心配しておりましたから」
すると、マリー中佐の後ろで控えていたリーサ中尉が、「それでなのね、あの時の少尉と准尉の会話は…」と独り言を言っていたのを俺は聞き逃さなかった。
「え~、それで、副官のアプリコット准尉は私に、行動には注意してほしいと、くぎを刺していったのです。もっとも、我々も、今はこのウインチが喉から手が出るほど必要だったので、閣下から見たら私の行動が少々奇異に見えても、そちらのマリー中佐に無理を言ってやらせていただきました。ここでも、ウインチの需要は高く、かなり困っておいでのようでしたので、さほど手間もかからなかったので、ついでに用意しただけです。私どもからの気持ちです。専門家が見れば整備などはたやすくできることとは思いますが、なにぶんにも応急的な改造ですので、使用には十分にご注意ください」
俺とゴードン閣下たちとで会話をしていると、そろそろ飽きてきたのかうちの連中が全員こちらに向かってきた。
俺は、流石に閣下の前なので、連中を開けた場所に整列させ、閣下に紹介をした。
アプリコットとジーナは、かなり焦ってはいたが、すぐさま整列させた。
「何分にも、新兵が多く、締まりませんが、うちの小隊員です、閣下」
さすがに准将まで行った方だ、かっこよくうちの連中に敬礼をしてくださり、お言葉をもらった。
「閣下もお忙しい中を面会くださり、ありがとうございました。非公式ですが、うちの旅団長にはきちんと鎮守府の協力を頂いた件も含めて報告させて頂きます」
「大げさにせんでもいいが、ま~、それで構わんよ。少尉も、まだ作戦行動中だと聞いておる。今日はここまでとしよう。いずれ機会があればゆっくりと会いたいものだな。今日は会えてうれしかった」
「こちらもです、閣下。ご協力に感謝いたします」
するとマリー中佐が「こちらこそご協力に感謝します。これは、こちらで大事に使わせて頂きます。そちらは、くず鉄扱いなので、非公式な譲渡となります。そのままお持ちください。あまり引き留めてもなので、私どもはこれにて失礼させて頂きます」
「私どもも、すぐにジャングルに戻りますので、これで解散となりますね。いずれ機会があればきちんとお礼に参上します。今日はありがとうございました。失礼します」と言って、全員が閣下たちに敬礼をして庁舎に戻るのを見送った。
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