第91話 そうだ、橋を作ろう

 俺は、メーリカさんの運転する軽車両に乗り換え、迎えに来てくれたバイクに付いて、問題の現場に向かった。

「結構走るのだな。先ほどのポイントから、かれこれ一時間は走っているぞ」

「え~、連絡が入ったのは、我々がチェックポイントに着いて一息入れようかとしていたところでしたので、先行組のバイクは1~2時間は先を探索していた計算になります。なので、もうじき着くものと思いますよ。あ、この先みたいですね。少尉、着きました」

 着いた現場は、割と開けた場所になっており、川幅が1mくらいはあった。

 それに段差が30cm以上はあるので、この軽車両ぐらいが限界かもしれないな。

 俺の運転だと、指揮車はアウトだな。

 当然、トラックでは、誰が運転しても無理だわ。

 どうしようかな……

 小川のそばで悩んでいると、俺らを連れてきたバイクとは別のバイクが戻ってきた。

「ん?…どこ行ってたんだ?」

「ハイ、ここを通らない、どこか別のルートがないか探していました」

「で? その結果は……思わしくなさそうだな」

「ハイ、隊長のお考え通り、この近くにはありませんでした。ここを通らないと基地のそばまで戻って、他を探すことになりそうです」

「それじゃ~、是が非でもここを通らないとな」

「「「え」」」

「大丈夫なのですか」

「大丈夫じゃないよ、大丈夫にするんだよ。また、ここで土方仕事だ。このあたりの木を使って橋を架けるぞ。な~に、このぐらいなら簡単に掛けられそうだ」

「え~、橋まで手作りですか」

「そうだ、それにお前らも随分慣れただろ。土方仕事に大工仕事は」

「隊長に無理やり慣れさせられましたから」

「大丈夫だ。な~に、下に足になる杭を数本打ち付けて、その上に板状のものを渡して固定するだけだ。モノの数時間で完成するぞ。え~と、悪いけれど、全員をここに呼んできて。みんなで作業だ」

「みんなとは?」

「後続のトラック隊も合わせて小隊全員で作業だ」

「分かりました。すぐに行ってきます」と言って、バイクが2台、先ほどのポイントまで向かった。

「残ったみんなは、手分けして作業前の段取りを行おう。このような作業は、段取り八分と言って事前準備が大切なのだよ」

「事前準備??何をすればいいんだよ?」

「な~に、簡単なことだ。まず、橋を渡す場所をきちんと決めるために、小川の川底の確認と、残りは使用する木に目星をつけることくらいだ。探す木は、直径が30cm~40cmで、真っ直ぐに伸びている奴だよ。太すぎても現場で作業しにくくなるし、細いとトラックが荷を満載したまま通れないから、そのぐらいの木をできるだけ多く探さなければ。俺は川底の確認にいくが、残りのメンバーは木を探しておいてくれ。言い忘れたが、あまり遠くに行くなよ。切り倒しても、ここまでもって来れなくなるからな」

「「「わかりました~」」」

「じゃ~、私は隊長に付いて川底の確認に行くとしようかな」

「ん?ご一緒していただけるのはありがたいが、なんで?」

「アプリコット准尉に頼まれているんだ。『くれぐれも、少尉を一人で勝手にさせないで』って、なんでも後がめんどくさくなるらしいよ。で、その後の面倒ってなんだ?」

「そんなの、オレが知るかよ。それに、俺にお目付け役を付ける副官ってなんだ?軍隊とはそういうものなのか?」

「そんなわけあるか。お目付け役を付ける必要がありそうな士官もたくさんいたが、付けられた例を私は知らないよ。私たちの歴代の隊長はそんなのばっかりだったから、お目付役の必要性はわかるが、普通はできないよ。だって、自分たちより上の階級だもの、そんなことしたら軍法会議だよ。普通ならば。この隊が異常なだけだよ。それにしても、私からしたら、隊長は面白いことばかりするけれども、お目付け役が必要になるようなことは一度だってしていないのに、何なんだ?ひょっとして、私の知らないところでとんでもないことして面倒になったとか?」

「多分、その多方は、お前らにはめられたことが原因だよ、きっと。墜落現場でのドラム缶風呂や、基地での混浴事件などだ。それくらいしか思い当たる節はないな。そんな連中にお目付け役を頼むなんて抜けているな。これなら、泥棒に看守を任せるようなものだな。ハハハ…」

「絶対に違うと思うけれど、ま~いいか。それより、段取り八分なんだろ、お仕事お仕事だよ」

 二人して川原に降りて、実際に川に入って川の深さや川底の状態を確認した。

「この川、全然冷たくないな。これなら、川に入って作業しても大丈夫だな。風呂まで用意する必要がないのが助かる」

「川の水が冷たいのは上流の氷河の影響だよ。この川は、氷河までつながっていないのだから、帝都のあたりで見かける小川と何にも変わらないよ」

「川幅もさして広くないから、これなら川に足を落とす必要もないけれど、重たいトラックが通ることを考えて、念のため1~2本の足を真ん中に落とそう。これならば、材料さえ準備できたら4~5時間あればできそうだ」

「でも、それだとあまり先に進めないよ。あと6時間もすれば日も沈むし、あまり新兵たちに夜間移動はさせたくないな」

「当たり前だよ。こんなお散歩で、事故は出したくないから、今日はここまで。みんなが来たら手分けして野営の準備もしないとな。悪いけれど、メーリカさんは新兵の面倒を見ておいてくれ」

「ハナからそのつもりだったからいいけれど……わかったわ、新卒准尉の分隊を使って野営の準備でもさせるわ。私が監視するから安心していてね」

「いつも悪いな、でも、助かるよ。ありがとうな」

「少尉、全員が揃いました」

「わかった、すぐ行く。とりあえず、全員を集めておいてくれ」

「メーリカさん、行こうか。さっきの話のとおり、よろしくな」

「わかっていますよ、隊長」

 二人は元来た所を通って車の止めてある場所まで戻っていった。

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