第90話 順調な滑り出し

 ジャングル探査に向けて出発して1時間が経過した。

 ジャングル探査は今まで同様に、まず、バイクが先行してルートを探したのちに、指揮車以下本隊の移動という手順を今回もとることにしている。

 この方法は、ジャングルなどルートの定まらない地域の移動に適しているのか、前回まではすこぶる快調にジャングル内を移動できた。

 今回も期待しよう。

「先行組のバイクが戻って来たぞ、俺らも移動しよう。ただし、トラック隊の移動は少し待ってほしい。指揮車より大きく重いので、何があるかわからないから、警戒用の軽車両と指揮車が走破した後についてきてほしい。最悪戻らないといけない場合があるので、俺らが次のポイントに着いてから案内をよこすので、その先導に従い、ついてきてくれ。それじゃ~、俺らは出発だ」と言って、指揮車は警戒用の軽車両の後に続いた。

 今回の探査にあたって、小隊規模が5倍近くにも膨れ上がっており、大きく変容していた。

 そのため、今まではバイク2台に軽車両と指揮車の構成だった陣容も大きく変わり、かなり立派になっていた。


 基地でのトロイカメンバーの成果だった。

 バイク 8台(各分隊2台の配車)

 機銃付き軽車両 1台

 指揮車  1台

 トラック 2台

 以上


 その陣容をここで紹介したい。

 まず、俺らの乗る指揮車にトロイカメンバーと本隊付きの兵士が乗り込んでいる。

 ここには、車両整備のためのマキアさんや、地図測量担当の情報部出身のエレナさんとその助手として新兵が一人、衛生兵が二人、それにわが隊のマスコット的存在のサリーが乗り込んでいる。

 次に俺らの前を先行して走る警戒用の機銃まで付いている軽車両には、各分隊から1名つづが乗り込んできて、周囲を警戒している。

 トラック2台にはバイク乗車以外の兵士が適当に分乗している。

 バイクは各分隊に2台づつ割り振られており、ルート探索に大いに活躍している。

 ただし、新兵はまだ探索に不慣れなため、第1分隊と第2分隊の4人が当たっている。

 これは、分隊指揮官の経験によるもので、元山猫出身の二人が分隊長を務めているからに他ならない。

 探索のためのバイク隊4人のうち2人はベテランが務め、自分たちの分隊の新兵1人を連れている。

 これに第3及び第4分隊から新人1人づつを追加して、結局6人でルート探索にあたっている。

 要はベテラン兵士1名につき各分隊から出される兵士2人をつけて、教育に当たりながらの探索である。

 当然、今までのように効率的にはいかないが、よくできた配置である。

 最近の新兵たちの顔つきも変わってきており、初々しさの残る山猫の赤ちゃんといった面持ちである。

 これならば一人前になるのもそう遠くないのかもしれない。

 どちらにしても、俺があまり関与しない方が、この隊はうまく運用できる。

 これは今にはじまった話じゃなくて、輸送機が墜落してから変わらない真実の一つだった。

 今もよく考えるのだが、「俺、要らなくない?これなら、5年と待たずに早く軍から追い出してくれてもいいのにな~」……と。でも、俺の任用は俺を必要としたからというものじゃないことは、ジーナから聞かされたのであきらめているのだが、やっぱり納得がいかない。

 どちらにしても、俺としてはあまり戦闘に巻き込まれないように、元気に5年間を過ごすことだけを考えよう。

 今まではアプリコット1人だけだったが、今は3人もいるのだから、難しいことは彼女たちに任せておけば大丈夫。俺としては彼女たちの言いつけを守っていればいいんだから……などとくだらないことを考えていると、アプリコットが、「少尉、今のところ順調にいっています。心配してました新兵の練度も、何ら問題なく、いや、予想していた以上に練度が上がっていたので、助かっております」

 すると、メーリカさんが、「あの、日々拡張を続ける訓練施設は本当に良かったよ。あの施設のおかげで、新兵の練度を上げることができて助かった。隊長、あの施設には感謝しているよ」

 話を聞いていたジーナが、「ジャングル内の移動には、かなり役に立ったようですが、まだまだ新兵たちは実戦を経験していませんし、実をいうと我々新卒組も実戦の経験がありません。ボンドット大尉に言わせると、少尉たちとの合流の時は普通の実戦以上の経験ができたそうで、『お前ら、普通じゃできない、良い経験ができたな』などと言っておられますが、実際のところどうなのでしょうか?それに、新兵たちは特に射撃の訓練が十分ではありませんので、それらが心配です」

「ジーナ、それでも今回は共和国と反対の方向に向かっての探査なのだから、敵との遭遇の危険は少ないわよ。油断していいわけじゃないけれど、今回のお仕事、違った、任務はある意味新兵たちにとって貴重な経験だわ」

「え、それじゃ~アプリコットは、今回の任務が私たちと少尉たちが合流したときのように、貴重な経験だというのね?」

「俺たちとの合流って、いきなり俺に銃を突き付けてきたやつだよな。それって、そんなに大ごとになっていたのか」

「ええ、そうです。いきなり、基地に向けて未確認の部隊が近づいてくると報告があり、基地全体が異常なまでの緊張を徹夜で強いられましたから。レイラ中佐やサカキ中佐だけではなく、サクラ旅団長までもが陣頭指揮を執っておられましたから、大変だったのです」

「え~、なんでそんなことになっていたのだろう」

「そんなこと決まっています。少尉が私たちの話を聞き流し、先行していたバイクがガス欠で、前触れが出せていないのに、それを無視して、いきなり部隊を基地に乗り付けたのだから、何も知らされていない基地だったら当然の警戒です」

「確かにあの時は無茶する人だな~とは思ったわよ。まさか何も考えていなかっただなんて思わなかったわ。ま~、隊長のやることは今もそんなに変わらないが、いいんじゃないか?隊長に従って、今まで無事に生き残れてきたんだから」

「それが、不思議なんですけれど」

 などとくだらない会話に花を咲かせているうちにチェックポイントについた。

 指揮車についてきているバイクのうち2台をトラックの迎えに向かわせた。

「とりあえず、トラックが来るまでここで待機だ」

「隊長、先行しているバイクより通信が入ってきております」

「ん、なんだって」

「この先に、たぶん指揮車までは通れそうだが、トラックは判断に迷う小川があるそうで、その判断を仰いできております」

「ん~、それだけじゃ分からないから、俺が直接見に行くので出迎えを頼んでくれ。バイクがついたら、ん~そうだな、みんなで行く必要もないから、だれか軽車両に俺を乗せて連れてってくれ」

「それじゃ~、久しぶりに私が運転するか。私がついて行ってやるよ」とメーリカさんが快く承諾してくれた。

 出迎えのバイクがついたので、そのバイクについて俺とメーリカさんは現場に向かった。

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