第89話 補給路求めてジャングルに

 俺は、電話で旅団司令部に呼び出された。

 別に遊んでいるわけではないので、暇ではなかったのだが、上司にあたる筋からの呼び出しだから、内容を警戒した。

 アプリコットが言うには、新たなお仕事の依頼だそうで、いつもならばアプリコットと二人で向かうところではあったが、今回からは一味違う。

 そう、小隊の新たな実力者であるトロイカメンバーの3人を引き連れての4人で司令部にお邪魔した。

 司令部では、俺ら4人を見つけたクリリンなどが少し怪訝な顔をしてたが、レイラ中佐をはじめサクラ旅団長は俺の意図するところを正確に理解していた。

 4人でお邪魔したことについては何も触れずに、早速仕事の話を始めた。

 今回も例によって、ジャングル内のお散歩の命令だった。

 しかし、今回は基地の収容人員に問題がなくなり、迷子の意図はなかった。

 それよりは、むしろジャングルを真剣に踏破させたいのか、俺らに補給線の要であるタッツーにあるドラゴンポートまでの新たなルート探査を命じてきた。

 それも、今までのルートより短縮するルートを求めているのではなく、唯々別ルートの開拓を命じてきた。

 何でも、近いうちに今までのルートが使いにくくなるため、それまでに新たなルートの開拓が必要になったらしい。

 そのための探査命令であって、最重要なことは今のルートが使えなくなる前に、新たなルートを用意しなければならないのだ。

 当然、補給が目的の新たなルートであるため、トラックでの移動が可能なことが条件だ。

 今までの俺らの探査で何ら問題がないので、今まで同様に探査に行くことにした。

 少し前に司令部から了解を得て、必要な資材は手配が済んでいたので、すぐにでも出発できるが、訓練に出ている新兵たちをまとめる必要もあるので、明後日の出発とした。

 その件も司令部には快く承諾してもらえた。

 俺らは命令を受けた後、司令部から出て、詰め所に戻り、早速計画を練った。

 今までは、俺が行き当たりばったりで出発し、場当たり的にメーリカさんたちへ苦労を掛けていたが、今回は命令を受ける段階でトロイカのみんなに聞いてもらい、計画を練り始めてもらった。

 俺はというと、その横で、シノブ大尉やシバ中尉達と一緒に基地のリニューアルについて、いつもと変わらずにチマチマと仕様を詰めていた。 

 何?小隊に出された仕事についてはいいのかって、……いいんだって。俺は計画を練る段階では邪魔らしく、あとで承認をしてくれればいいんだって。だから、出発までいつものようにしていてくださいとアプリコットから頼まれました。

 でも、出来上がった計画を見せてもらったら、やっぱり本職はすごかったです。

 俺が見ただけだけど、どこにもケチをつけられませんでした。

 計画では、基地を出発して3日でドラゴンポートまでの探査を終了し、そこで補給及び基地に連絡を入れ、1週間かけてルートを整備しながら帰還することになっていた。

 最近、俺の小隊は、新兵を含め土木作業について、かなりのスキルを上げてきており、応急的な道の整備くらいならば難なくできる。

 自分たちの補給ルート確保のために、少しでも役に立ちたいので、俺には全く文句はない。

 探査の予定を3日にしているが、最悪を見越して、1週間分の資材を準備して臨むことになった。

 今までのルートでも、ドラゴンポートまでは1日の距離である。

 よっぽど問題がなければ、これで大丈夫である。

 もし、失敗しても、帰りは1日あれば戻れるので、再度挑戦すればよく、新兵のジャングル活動の良き訓練になりそうであった。

 準備には、元気になったサリーもよく手伝ってくれた。

 今回のお散歩から、サリーも同行する。

 先日、正式にうちの小隊に軍属として雇われた。

 何でも、帝都の皇太子府、それも殿下から『サリーを軍属として雇えるのならば是非雇ってほしい、くれぐれも逃がさないように』とのコメントまであったそうである。

 本当かどうか知らないが、大佐待遇での雇用でも構わないとまで言われたそうだが、さすがにそんなことはなく、軍曹などにあたる下士官待遇での雇用である。

 そんな大人の事情に関係なく、サリーは今までと同じように、よく俺たちのことを手伝ってくれ、物資の補給についても、今までに仲良くなっていた特殊大隊の連中や食堂関係者に掛け合ってくれたようで、食料などの調達が非常にスムーズにいった。

 下手をすると、この隊では俺なんかよりもよっぽど役に立っていそうで怖い。

 遠くない将来、俺の隊のヒエラルキートップがトロイカの3人、その次に各分隊長とサリー、その後にベテラン兵士、そしてやっと次に俺が来て、ほとんど変わらない位置で配属されてきた新兵が来そうでちょっと怖いが、そこは気にしないようにしている。

 突っ込まれると、精神的に来るものがあるから、触れずにいてほしい。

 そんなこんなで、出発する日の朝、俺の小隊を詰め所の前に並ばせて、アプリコットがみんなに今回のお散歩の計画を話している。

 それが終わり、俺に合図を送ってきた。

 メーリカさんが小声で、

 「ややこしいことになるから、隊長、くれぐれも余計なことは言わないでほしい」と付け加えてきた。

 そんなことは百も承知している。

 「それじゃ~、今回のお散歩の目的も理解したようだし、そろそろお出かけするよ。予め決められた席に着いたら、出発しましょう。途中で席替えもするから、不満があっても我慢してね。それじゃ~、乗ってください」

 それを聞いていたアプリコットとジーナは「「あちゃ~」」って顔をして頭を押さえ、メーリカさんは、「隊長、またやったな」とつぶやいていたが、これが俺のカラーだ文句はあるかと心の中で思う。

 そう、思うだけで決して言葉に出さない。

 出したとたんに、彼女たちにお説教食らうのが確定しているから。

 ヘタレたんじゃないよ?人間関係を円滑にするための大人の知恵だからな。そこは誤解のないように。

 そんなこんなで、俺の小隊はまた、ジャングルの中に乗り出していった。

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