第92話 橋の完成
先ほど車を止めた少し開けた場所までメーリカさんと戻ってきた。
段取りのために付近のジャングルに入り、指示された条件に合う木の目星をつけていた連中も、とりあえず戻ってきていた。
アプリコットがいたので、簡単に点呼を頼むと、既に始めてますとの返事が帰ってきた。
あいかわらず優秀だこと。おじさんは嬉しいよ。
その後、すぐに点呼も終了し、その報告が来た。
「それじゃ~、みなさん、集まってください。説明するよ~」
すぐにジーナが俺を引き寄せ、アプリコットがメーリカさんを呼んで、後の説明を受け継ぐように頼んでいた。
「既に少尉とは打ち合わせが済んでいるようなので、メーリカさん、小隊全員に指示をお願いします」
「いいのかな~、最近隊長の扱いがひどくなっていない?隊長がいじけるよ。大丈夫なの?」
「大丈夫です。それより、60名の小隊全員の常識が壊れないようにする方がより重要です」
アプリコットが、かなり酷いことを言っている。
マーリンさん、決して大丈夫じゃありません。
私の心臓は、豆腐よりやわなのです。
簡単に壊れます。取扱注意なのです。
と声を上げて叫びたいのだが、ジッと我慢した。
それをすると、よりひどい扱いになりそうなので、……じゃないよ?大人だから、我慢するところを弁えているだけだからね。
くだらないことを考えていると、メーリカさんが小隊全員に向かって、段取りを説明していた。
俺は、マキアさんを捕まえて、簡単な図面を用意した。
それに基づき、マキアさんがメーリカさんにチェーンソーをあるだけ全て渡し、段取りの詳細について説明していた。
俺は、アプリコットとジーナを小川の淵まで連れてきて、その場で、これからの手順を説明していた。
ジーナは説明を聞いたあと、旅団司令部に対して報告の無線を入れに行った。
「ま~、大体こんな感じになるかな。みんなの土方スキルや大工スキルが、配属当時より格段に上がっているから、すぐにできるよ。でも、完成してもしっかりと確認したいから、今日の進軍はここまでね。マーリンさん、いいよね?」
「少尉、前からお願いしていますが、命令を出す度に、いちいち私たちに確認しないでください。軍の序列がおかしくなります」
既に俺の序列は著しく低いのだが、そこはツッコミを入れずに素直に謝った。
そうしたら、また怒られた。
俺に『どないせい』ってと言いたいが、ここも我慢だ。
ストレスを溜めないように気をつけよう。
そんなこんなで作業が始まったが、もうすでに、現場でいちいち俺が指示を出さなくとも、最初にきちんと段取りを済ませれば、各自が自主的に動き出してくれている。
現場の指示も各分隊長に任せておけばよく、俺は全体の流れだけを見ていればいいのだから、ここまで来ると割と暇になる。
遊んでいるのもなんなので、今割と手空きになっているエレナさんを捕まえて話を始めた。
彼女は、確か情報部の出で、レイラさんとこのベテランさんだった。
前にも一緒に行動してくれた、測量など地図関連のスペシャリストで、今回も測量を担当してもらっている。
「エレナさん、どんな感じかな」
「へ?? 何がどんな感じだと、隊長はおっしゃりたいのですか?」
「あ~、悪い。今どのあたりまできているかわかるかな?」
「それでしたら、今メモを見てみます。でも、かなり順調だと思いますよ。実際、旅団基地からドラゴンポートのあるタッツーまでは、直線距離で60kmもありませんから、真っ直ぐに進めたら2時間といった距離でしかありません。もっとも、これはきちんとした道路を走れた場合ですけれども。あ~、わかりました。現在は、おおよそこんなところです。直線距離で見た場合にはだいたい半分といったところですかね。このまま問題がなければいいのだけれど、こればかりはわかりませんね」
「そうだね、この橋が利用できなかったら、かなりの後退を余儀なくされたが、大丈夫そうなので、順調に行きそうだ。問題なのは、最後の方で高地から海岸べりの低地に降りる場所が見つかるかどうかだね」
「そうですね。以前のローリングストロングスの時には廃棄されていた旧道が利用できたので、随分助かりましたが、今回はそうも行きそうにありませんから」
「そうだね。司令部の要求は、タッツーに入らずに直接ドラゴンポートの港までの道を探すことだからね。近くに行ったら、地道に時間をかけてでも探すさ。それが仕事だからね。要は、そこまで行くまでにどれだけ時間をかけなくて済むかだね。降りるルートの探索は初めから覚悟しているから」
「すぐに見つかるといいですね」
「見つけるさ。バイクが8台に軽車両まであるのだから。そこまで行ったら、全部使って捜索させるさ。最悪、歩兵も導入してでもね」
そこまで話していたら、メーリカさんも話に加わってきた。
「まだ、ジャングルに歩兵の投入は避けたいかな。迷子が出かねないからね」
「何はともあれ、橋を完成させてからの話だね」
「そうそう、その橋もおおよその形になってきましたよ。それで、隊長を呼びに来たんだった」
「もう、そこまで出来てきたか。慣れたもんだね。それじゃ~、みんなで見に行くとしようかね」
指揮車に無線兵を残し、全員で橋の建設現場に向かった。
「本当だね。あとは、順番に渡し木を並べていくだけだね。並べ終わったら、きちんと固定しといてね」
「分かっております。この分ならあと2時間くらいで完成しそうです」
「完成したら、きちんと目視点検して、軽車両から順に渡らせて確認をするよ。できたら今日中にトラックも渡らせたい」
こう話しているそばから、兵士たちが次々に長さを揃えた木を運び込んで、順番に並べていた。
本当に手馴れたもんだと感心しきりだった。
「少尉、ここにいらしたのですか。今日の作業は直に終わりそうだと報告がありました。明日からの件で少し打ち合わせがしたいのですが、指揮車までご同行願いますか?」
アプリコットがそばまで来て打ち合わせをしたいからすぐに来いと言ってきた。
口調は一応お願い調になってはいるが、明らかに命令だよな。
どちらにしても断れないし、これといってやることもないので、また、指揮車まで戻っていった。
そこで例のトロイカの3人とこれからのことについて打ち合わせをした。
ほとんど先ほどエレナさんと話した内容だった。
ただ、歩兵の投入については意見が割れていた。
敵との遭遇の危険がほとんどない地域での作戦行動なので、訓練も兼ねて新兵の投入をしたいジーナに対して、メーリカさんは迷子を危惧して、避けたいようだった。
どちらにしても言い分があり、どちらも正しいとなると、判断は俺がするしかない。
ジーナとしては、自分を含め経験の無さに不安を感じ、できるだけの経験を少ないチャンスを活かして積んでいきたいようだった。
本当にここにいる子たちは真面目なんだから、やらなくていいものなら、やらずにいたほうがいいんだから、と思ったが、彼女たちにしたら、それこそ誇張でなく生死がかかっているのだから必死なのだなと思い直し、彼女の意思を汲んであげたかった。
でも、経験豊富なメーリカさんの意見も無視できないので、比較的ましな折衷案を出してみた。
「わかったよ、どちらの意見も納得が出来るだけの理由があるね。どうだろう。歩兵については、訓練として1個分隊ごとを探査にだして、残りの分隊は待機し、その分隊に所属するベテランの兵士だけで、最悪の迷子対策班をつくり対処する。探査する分隊については、指揮官の不慣れな第3第4分隊から順番に出していくことでどうだろう。メーリカさん、この案ならどう思う」
「それ、いいわ。その案なら大賛成だよ。でも探査に影響が出ないかな」
「大丈夫だよ。元々、このジャングル探査についても山猫の1個分隊だけで足りる位の仕事だ。途中の土木作業があるから小隊全員に仕事が回ってくるけれど、今回のように純粋に探査だけなら、バイク探査隊だけでも足りるよ。8台もあるのだから。もっとも、各1台ごとに新兵をつけるから、一度に探査できる方向は4つになってしまうが、これとて、今までの倍はあるから、大丈夫じゃないかな。ま~、どちらにしても現場についてからのことだな。まずは、この方向で行こう。案外、直ぐに見つかってしまい、新兵の投入ができないかもしれないから、今からあまり心配することないよ」
「「「分かりました」」」
話がまとまった頃、マキアさんが指揮車まで来て、「隊長、橋が完成しました。今、スティア、ドミニク両軍曹が最後の点検に入っております。ご確認ください」
「わかった、いま行く。できたそうだよ。新品の橋の完成を見に行くとしようか」と言って、また、当番の通信兵だけを残して、現場に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます