第71話 殿下との会食、再び


 サクラたち一行は、夕方第27場外発着場に車で乗り付けた。

 場外発着場には、既におじ様からお借りしたシノブ大尉がクランシー機長たちと受付のあたりで待っていた。

「旅団長、機体は既に離陸の準備を整えて待機しております。旅団長のご指示ですぐにでも離陸できます」

 サクラは、到着してすぐにクランシー機長から報告を受けた。

「すぐにでも出発してください。シノブさんとの話は機内で聞きます。皆さんも準備が出来次第機内に向かってください」

 マーガレット副官やクリリン秘書官は、送りに来ていた兵卒から荷物を受け取り、機内に向かった。

 新型輸送機『北斗』は、離陸後すぐに高高度まで達し、水平飛行へと移行していった。

「この輸送機は本当に高性能よね」

 サクラは何度も乗っている『北斗』の乗り心地に感嘆の息をを漏らした。

「旅団長、お飲み物をお持ちしましょうか、それとも少し早いですけれど軽食でもお持ちしますか?」

 この輸送機に乗るたびにクルーのキャロットさんからサービスを受ける。

 とても軍関連の乗り物とは思えないサービスでいつも心地いい。

「少し早いけれど食事にでもしてもらえるかしら。いつもいつも何かが起こり、まともに食事ができないことがあまりに多かったので、出来る時には食事を最優先するのが習わしになってしまったわ。レイラもシノブ大尉も食事でいいかしら?食事をしながら少しお話がしたいわ」

「ブル、私はそれで構わないわよ、でも、シノブ大尉は上官二人に囲まれての食事はかわいそうではないかな」

「いえ、レイラ中佐、お心遣いありがとうございます。でも、大丈夫です、むしろ憧れのお二人と食事をともにできることを栄誉に感じます。是非、ご一緒させてください」

「キャロットさん、お聞きの通り3人分の食事をご用意できるかしら」

「大丈夫です、旅団長。すぐにお食事をご用意します」と言って、キャロットはギャレーに入っていった。

 この輸送機は荷物の輸送を主務としているが、要人輸送も多く、そのための設備も充実していた。

 皇太子府に所属が変わってから、更に色々改良がなされ、下手すると帝国で運行している旅客機並かそれ以上の設備を誇っていた。

 サクラたちは運ばれてきた食事を取りながら楽しく会話を楽しんだ…はずだったが、会話の中身がすぐにシノブ大尉とよく一緒に仕事をしている『あいつら』になり、時々剣呑な雰囲気なったりしていた。

 食事を終え、軽く仮眠を取っていると「今、帝都上空に入りました。旅団長、もうすぐに着陸します。起きてください」と仮眠を取っている乗客を丁寧に起して歩いているキャロットに起こされた。

「今、何時?」

 レイラがキャロットに時間を聞いてきた。

「今、午前3時23分です」とキャロットは時計を見ながら答えた。

 サクラは一瞬驚いて「え!まだ夜明け前なのに着陸できるの?」

「はい、あのランスロットの飛行場は夜間の離発着が出来る設備があります。

 先ほど無線で連絡を入れたところ、照明を用意するとの連絡を受けておりますのでご安心ください」

 夜間離発着出来る飛行場は帝国でも多くない。

 ランスロット飛行場はその数少ない飛行場である。


 たわいもない話をレイラとしているうちに輸送機は飛行場についた。

「さ~、戦場についたわよ。気を引き締めていきましょう」とサクラは幕僚たちに声をかけて、輸送機を降りた。

 予想はしていたが、既に皇太子府からノートン課長補佐が出迎えに来ていた。

 サクラたち一行は出迎えの車に乗り込んで、皇太子府に向かった。

 皇太子府の建物にいくつかの窓には明かりが灯っていた。

 少なくない数である。

 サクラは顔をしかめ、

「ここもひどい職場ね」と独り言を漏らした。

「あなたの周りはどこも一緒でしょ」とレイラが身も蓋もないことを返してきた。

「それもそうね、でも最近それが特にひどくなってきた気がするのよ。絶対『あいつ』に祟られているんだわ」

「何馬鹿なことを言っているのよ。ついたらすぐに打ち合わせでしょ。もう完全に目を覚ませたの?」

「大丈夫よ、もう完全に仕事モードになったわ」

 皇太子府についてすぐに通された会議室で目の下にくっきり隈を作った職員たちと打ち合わせに入った。

 殿下を取り巻く現状から、今後の展開、自分たちに課せられた任務など打ち合わせは多岐にわたった。

 外も明るくなり、完全に朝を迎えた頃に打ち合わせを一旦終了させた。

 すると会議室にフェルマン侍従頭が入ってきて

「朝食を準備しました。殿下もダイニングでお待ちです。ご一緒ください」と前に来た時に通された食堂に案内された。

 ここにはサクラはいい思い出がない。

 この場所で、わけもわからない説明をされ、いきなり無理難題を押し付けられた記憶しかない。

 その時、かなり豪勢な料理が並んでいたが、全く味がしなかったのを思い出した。

 今日は覚悟を決めたので、せめて料理の味を確かめたい。

 そんな思いでサクラは食堂に入っていった。

 殿下との会食が初めてのクリリンや他の幕僚たちの緊張した顔を見て、サクラの表情が歪んだ。

 悪人顔である。

 『私も、最初の食事の時には味がわからなかったのだから、お前らも同じ目に遭わないと不公平だ』などと考えているのだろうと察したマーガレットが、フォローを入れた。

「旅団長、意地悪そうなお顔をしていますよ」

「え、そんな顔してたかしら」

「何考えていたかはおおよそ想像がつきますが、慣れていないものもたくさんいますし、殿下の前で粗相をしたら大変なので、みなさんのフォローをしていただけると助かります」

「アハハハ、それもそうね、ブル、意地悪しないで部下の面倒くらい見てあげなくちゃ。それに、みんなも大丈夫だ。殿下は気さくな方だ。公式でないこの場では、少々のことでは問題にされない。将軍たちとの会食と考えて望めばまず問題ない」とレイラ中佐がサクラに代わり緊張している幕僚たちにフォローを入れた。

「緊張しなくて大丈夫ですよ。皆様には、いろいろご無理をお願いしておりますので、心ばかりのお礼とお考え下さい。殿下は皆様現場の方の生の声がお聞きしたいだけですから、普通に接していただいて問題はありません」と、フェルマン侍従頭もおっしゃってくれた。

「それに、殿下から無理を言われるのはサクラ旅団長だけだ。私たちは,サクラ旅団長からしか無茶は言われないから安心してくれ」とまた、レイラ中佐が言って、フェルマン侍従頭は苦笑いをしたが、周りの雰囲気が和んだ。

 それでも、会食で殿下から聞かされた帝都での状況には一同驚きを禁じ得なかった。

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