第70話 私の名前はシノブ・サウスクラウド


 私の名前はシノブ・サウスクラウド。サカキ中佐率いる特殊大隊で工兵中隊の隊長をしている。階級は大尉である。

 私の出身は、帝国の田舎にあるサウスクラウド騎士爵領にあり、そこの領主であるサウスクラウド騎士爵は大叔父にあたるが、私自身はほとんど平民である。

 家はそこそこ裕福であったが、女であるため、このままだと一生この田舎から出ていけないという危機感を持ち、一念発起して帝都にある士官学校を目指した。

 その頃の帝国軍は、女性に門戸を開放したばかりであった。

 しかし、開放されたばかりではあったが、直ぐに英雄が誕生していた。

 ブルリアント・サクラとレイラ・フジバヤシである。

 士官学校を主席と次席で卒業した彼女たちは、たちまち頭角を表し、一躍帝国の英雄に列せられた。

 彼女たちの活躍は、帝国女性に希望を与え、実に多くの女性が軍を目指すこととなった。

 斯く言う私も、そこらのミーハーと同じでレイラ中佐に憧れて士官学校を目指したが、敏捷性の検定試験で辛うじて及ばず、士官学校へは入学ができなかった。

 しかし、同時期に受けた技術将校養成校に合格をした。

 幼少の頃から、私は手先が器用で、また、女性であったが機械いじりが大好きであったため、試しに受けてみた試験で、なんと上位合格を果たした。

 戦闘将校でも技術将校でも同じ軍には入れる。

 憧れのレイラさんに近づけるという気持ちで、そのまま技術将校養成校に入学をした。

 その頃の技術将校養成校では、女性は僅かに3人。周りは男ばかりで、カリキュラムも男性に合わせたものだったため、一般の鍛錬など本当にきつかった。

 敏捷性が及ばずに士官学校に果たせなかった私には、この鍛錬は地獄だったが、技術に関する授業については本当に楽しかった。

 2年の養成期間を終了し、実際の部隊に配属された。

 その時に配属された先の上司がサカキ中佐だった。

 おやっさんことサカキ中佐は、技術の神様と言われるだけあって、技術に関することには一切の妥協を許さなかった。

 彼の部下には女性男性関係なく、厳しい指導が一様になされた。

 ある意味私にとっては恵まれた環境だったのかもしれない。

 おやっさんは、本当に性別に頓着しなかった。

 あるのは物事に対して、どれだけ真摯に取り組むかだけだった。

 士官候補生として配属されてから半年は工具すら触らせてもらえず、一般の兵士以下の扱いすら受けたが、必死に歯を食いしばってついて行ったら、知らぬ間に大尉まで昇進していて、現在はおやっさんの下で工兵中隊を任されている。

 そして、最近嬉しいことに、あの憧れの存在だったレイラ中佐と同じ部隊に配属され、一緒に仕事ができることになった。

 しかも、帝国全女性の憧れと言われるサクラ大佐も一緒の部隊だ。

 夢を見ているようだ。

 そんな私は、先ほどおやっさんから、また帝都に行けと命じられた。

 何だかよくわからないのだが、以前帝都まで行き説明していた例の墜落機について、サクラ旅団長を補佐せよとの命令だった。

 以前、帝都に行った際には、墜落機の報告書を携え、国土交通開発局にある航空事故調査委員会の委員に私自身が説明を行った。

 その際、終わり近くに気づいたある事柄が、気になってしょうがなかったのを思い出した。

 事故機の整備記録について説明していた時に、ふと、事故機についている型式番号に違和感を覚えたのだ。

 あれは4年前に大手メーカーに吸収された中小メーカーにつけられていた型式番号に似ていた。

 でも、書類の発行は2年前。どう考えてもその中小メーカーの型式番号を発行するわけには行かないはずなので、気になったため、それとなく調査委員に聞いてみた。

 委員はその指摘を受けてから急に挙動がおかしくなり、それっきり聞き取りの調査が終了してしまった。

 問題の中小メーカーが大手に吸収された時に、そのメーカーの部品の件で、整備関係の現場では、大騒ぎがあったので、見間違えることなどないのだが、何やらおかしなこともあるものだとその時には思った。

 なんでも、その辺に端を発して大事になっているらしく、その件のフォローもおやっさんから頼まれた。

 私は命じられるまま、第27場外発着場にて旅団長一行が着くのを専任パイロットと一緒に待った。

 夕方になり、場外発着場に高級将校専用の指揮車をはじめ数台の車が入ってきた。

 車列が止まり,サクラ旅団長をはじめ基地の主だった幕僚たちが降りてきた。

 私の憧れのレイラ中佐の姿もあった。

 私は、直ぐに敬礼をし、

「サカキ中佐の命より旅団長にお供します」と申告した。

「聞いています。帝都では、色々と、よろしくお願いします。基地にいるときのように楽しくはないでしょうが、仕事はたくさんありますから私たちに付いてきてください」

 私にはなんのことを言っているのかよくわからなかったが、私にできる精一杯のことをしていくことを誓った。

 輸送機の中で、旅団長とレイラ中佐という憧れの二人から色々聞かれた。

 緊張してうまく答えられたかどうか分からないが、なぜか聞かれた内容は、最近よく私たちと仕事をしているグラス少尉と山猫の皆さんたちについてだった。

 特にグラス少尉については、かなりしつこく聞かれた。

 私の少尉に対する印象だが、彼は技術将校としては一流だと思う。

 自分ができる範囲内での解決策を考える姿勢は見習いたいものがある。

 あのおやっさんも一目を置いているようなので、出来るなら彼をこのまま工兵として受け入れたいとお願いしたら、レイラ中佐から『色々大人の事情により、彼らは前線に出て戦ってもらわなければならない。』と言われた。

 それに、彼らは戦士としても優秀で、すでにこの基地に配属されてからいくつもの功績を挙げていると説明を受けた。

 最も、その説明をしているレイラ中佐とサクラ旅団長は、何やら苦虫を噛み砕いたかのような顔をしていた。

 彼らに期待しているのか嫌っているのか分からないような対応だった。

 どちらにしても、帝都についたら忙しくなりそうだ。

 気を引き締めていこう。

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