帝都での政争、再び
第69話 殿下からの召喚
ここは、サクラ旅団の司令部が置かれている部屋である。
雰囲気が今までと違い幾分和らいできたように感じる。
少し前までは、ブラックホールより暗黒な雰囲気をそこかしこに漂わせていたが、先の人事の大変革により、職場の環境が改善されたようで、世間様一般に言われているようなブラック職場にまで状況が改善されてきた。
そのため、司令部に詰めている幕僚たちからも時折笑い声なども聞こえてくる。
その姿が完全にゾンビと化していたマーガレット副官とクリリン秘書官も、今やゾンビから病み上がりの青白い顔をした元病人ぐらいまで改善されたようだった。
流石にサクラ旅団長は鍛えられているためか、目の下に若干の隈は見られるものの、この程度のブラック職場が日常のため、ほぼ健康な状態に見えるまで回復していた。
「どうにかこの基地にも落ち着きが見え始めたわね」
「人事面で、大幅な改善が見えましたから、こちらとしても少しづつですか余裕が持てるようになりました」
サクラの問いにクリリンが答えてきたが、今の状況は決して世間様には誇れる状況ではない。
今がどういう状況にまで改善したかというと、サクラたち一行がこの基地に赴任した状況くらいまでにはなった。いや、在籍する兵士が多くなっていることを考えると、その頃よりも格段に悪いのだが、今までがあまりに酷かったせいで、幕僚たちには、『この程度なら朝飯前』の感覚であった。
これを世間ではパワーレベリングと言う。……な、訳あるか!
でも、幕僚たちは相次ぐ無理難題の嵐に揉まれ、彼らの持つ技量を大幅にアップさせ、今に至っている。
「ブル~♪、ブル隊長♫殿下から、お便り来てますよ~」と何やら楽しそうに司令部に入ってきたレイラがサクラを呼んだ。
今までがあまりに忙しかったもので、さくらは一瞬レイラが壊れたかと思ったくらいだ。
「何か、いいことがあったの?レイラ」
サクラが振り返りレイラを見た。
そこで、サクラが見たのは楽しそうに声をかけておきながら、なぜかしらこめかみの辺りをヒクヒクさせているレイラの姿だった。
サクラは一瞬で悟った。これは、イケナイ奴だと、関わってはNGだと、悟ったが、そこはレイラも心得たもので、逃がさない布陣で臨んできた。
「殿下からの召喚状よ、どんなにあがいても逃げられないことくらい知っているでしょ。
諦めなさい」
「わかった、わかったわよ。降参します。でも、どういう要件かくらいは教えてくれるわよね」
「どっちから聞きたい。いい話と悪い話があるんだけれど」
「悪い話と、とびきり悪い話じゃないんでしょ。それじゃ~どちらからでもいいわよ。い~わ、とびきり悪い話じゃないことを条件に悪い話から聞かせてちょうだい」
「それでは、悪い話からしますね。帝都で、また、政争が起こりそうなの。というより、既に始まっているわね。スキャンダルがあちこちで暴かれているから」
「そのスキャンダルと私になんの関係があるのよ?ジャングル内で仕事に追われ死にかけていた私が、帝都でのスキャンダルに、なんで関係できるのよ。いくら私が『スーパー仕事作成マシーン』でも、ジャングルから帝都での仕事は作れないわよ。作りたくないし」
「その、スキャンダルは例の墜落した輸送機が原因なの。あの墜落した輸送機、実は幽霊だったのよ。帝国では10年も前に廃棄処分になっていた輸送機なのに、なぜか10回も生き返ったらしいわよ。その関係で、関係者全員が公聴会に呼び出されているのよ」
「まだ、あの件決着がついてなかったの~?いつまで、あいつらの呪いを受けなければならないのよ~。いい加減、勘弁して欲しいわ。わかったわよ。悪い話は、わかったから、気分直しになる『いい話』も聞かせてちょうだい」
「『いい話』は、ベテランの兵士が配属されてきますよ。士官もついてくるから、新兵ばかりのこの基地にとっては、かなりの戦力になるわよ」
「かなり、いい話だけれど、なんか胡散臭くない?なんで、急にそんな話になるのよ。向こうで探していた時には、箸にも棒にも引っかからなかったのよ。喉から手が出るくらい欲しいベテラン兵士と士官、絶対に怪しいわよ、この話。いい話じゃなくて、怪しい話じゃないの」
「この話の発端は、先日共和国との捕虜交換から始まっているのよ。共和国の英雄を交換に出して、その見返りにかなりの捕虜の交換に成功したそうよ」
「もう、彼女を捕虜交換に出したの?早くない?だって、捕虜になってまだ1ヶ月も経っていないじゃないの。それに、彼女できるわよ。帝国にとって、出したらダメな人じゃないかしら」
「彼女は捕虜待遇であって、捕虜じゃない。戦闘による捕虜じゃなく、人命救助等によるものだから過去の慣例によって早期開放が決まったの。もっとも彼女の管轄が軍ではなく外交執行部だったのも影響していたかな。佐官、それも勲章持ちの佐官の解放だから、かなりの数の一般兵士の解放があったそうよ。その数、尉官13名、一般兵士63名。全てが女性だそうよ。解放された彼女たち全員がうちに配属されるから、その迎えもあるのよ、今回の訪問には」
「ちょっと、数が多くない?いくら勲章持ちの佐官でも、解放される捕虜の数がおかしくないかしら?」
「この話は、まだ確認が取れていないけど、共和国側にかなり胡散臭い事情があるようよ」
「胡散臭い事情って、なにそれ?」
「彼女たちの幾人か、共和国の兵士に乱暴されてたようよ。それも、捕虜になったあとに。それを共和国の女性憲兵に突き止められ、問題化しそうになったときに捕虜交換の話があり、証言されそうな人間をまとめて帝国に返してきたそうなのよ。だから、女性ばかりを返してきたの。軍の上層部もその話を知っていて、デリケートな扱いになりそうだったから、一刻も早く帝都から遠ざけて、かつ、心の問題に発展しないように女性の多くいるここに回してきたのが真相のようね。この話も、一歩間違えばスキャンダルに発展しそうね」
「何それ、ちっともいい話じゃないじゃないの。喜んで損した」
「え、喜んでいたの?」
「実は、胡散臭すぎて疑っていたから、喜んでいませんでした」
「それもそうよね。あまりに胡散臭すぎだもの。でも、殿下からの召喚は本物だから、準備が出来次第帝都に発つわよ」
「わかったわ、こちらでの仕事もかなり落ち着いてきて、ルーチンワークがほとんどだから、今回はかなりの人間を連れて行っても大丈夫よね。おじ様にこの基地を任せ、レイラを含めみんなを連れて行くわよ。聞いていた?マーガレット。クリリンも連れて行くから準備してね、今晩発つから。ということで、おじ様、しばらくこの基地をお願いします」
「わかった、シバやあんちゃんたちとこの基地を作っておくよ。そ~だ、シノブも連れて行くといい。連絡を入れて空港で待たせておくよ。だから、安心して行っておいで」
「今の一言で、限りなく不安になったけれど、ありがとうございます。シノブ大尉とは、場外発着場で合流します」
サクラはやや後ろ髪を引かれるようではあったが、幕僚数人を連れて司令部を出て行った。
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