第68話 初めての家つくり
「思ったより簡単に出来たね」
ひとりでいる俺に特殊大隊のシバ中尉が声をかけてきた。
周りでは、特殊大隊の工兵たちがたくさんいて、作業をしている。
昨日配属されたばかりの新兵と思しき人も多数入っていたが、俺の小隊はアプリコットや山猫だけではなく、昨日俺の隊に配属されてきた新兵どころかアプリコットの同期の准尉たちもいない。
俺は彼女たちからハブられた??な、訳はなく、今、彼女たちは山猫さんたちが率いて朝の訓練に参加していた。
士官である准尉4名も参加しているので、新兵たちは気合が入っている。
俺はというと、山猫さんたちの訓練についていける訳はなく、作りかけのレンガハウスにいて、残りの作業を工兵のみなさんと一緒にやっていた。
そこに、工兵のお仲間さんであるシバ中尉がやってきて、最初の言葉に繋がっている。
「え~、人足も多かったのもあるのですが、本当にここの皆さんは優秀なんですね。とても初めて建家を作る人たちとは思えません。ものすごく段取りがよく、見ていて安心ができます」
「作るのは初めてでも、ここについてからは、営繕の仕事ばかりで、大工仕事はプロ並になってきているんじゃないか。なにせ、彼らもおやっさんの薫陶をしっかり受けているんだから」
「建家もほぼ完成で、今内装の方を手伝ってもらっていますが、それも終わりそうです。レンガの方は相変わらず量産しているみたいなので、他の建家も作るのですか?」
「工兵中隊では、次に司令部の建家を新築したいそうだ。でも、その前に浴場を作ると言っている。 水道も下水も問題が解決され、心置きなく大きな浴場を作れるから、張り切っていたけれど、どうなることか。工兵中隊のみんなは、気合を入れていたけれど、レンガの補給を気にしなくていいんだから、この際に基地全体を作り変えたい。まだまだ色々協力してくださいな」
「私でよければ是非協力させてください。モノ創りは大好きな方なので」
「おはようございます。シバ中尉もいたのですか、おはようございます。さて、グラス少尉、おやっさんから、この建家に電話を設置しろと命令されましたが、どこに設置しますか?」
「そこの窓際にある大きな机の上にでも設置してください。アプリコット准尉の席になる予定なので」
「え!、少尉の執務机じゃないんですか?」
「俺のはこちら。さっき工兵の皆さんに運んでもらった製図板が俺の作業場。隊の運営の仕事は彼女だから、俺は、皆さんに協力してモノ創りだ」
「何言っているんですか、少尉。あ、おはようございます、皆様。シバ中尉もいらっしゃったんですね。おはようございます。でも電話を設置してくださるのなら、少尉の指示の場所でお願いします」
訓練に出ていたアプリコットが同期の准尉たちを連れて小屋に入ってきた。
やや遅れてメーリカさんも入ってきて、「おはようございます、隊長。今日はヤケににぎやかになっていますね」
「おはよう、メーリカさん。あれ、他のみんなは?」
「さすがに全員はこの狭い小屋に入りきれませんので、すぐ外に待機させていますが、このあとどうしましょうか?」
「このあとは、みんなの住むところを作りたいな。あ~そうだ、シバ中尉、確か後ろに生えている木はみんな切り倒してもいいんですよね」
「あ~、問題はないよ。でもなんで?」
「せっかくだから、みんなの住処を傍に作りたいので。それに切り倒した木を使えば小屋も作れるし、今度はログハウスでも作ります」
「レンガを使わないのか」
「これから工兵隊でたくさん使いますから、うちらの住処はそこらに生えている木を使いますよ。いずれ、余裕が出来たら作り替えればいいんだから。どちらにしても、直ぐに住めるもの作らないと、いつまでも野営では可哀想だ」
「わかった。木を切り倒すのは別にかまわないが、俺らに何か協力できることはないか?」
「そう言ってもらえると助かります。あるだけのチェーンソーを貸してください。それと、大きな木を移動させるための重機も貸してください」
「わかった、直ぐに用意しよう。でも木を動かすの便利な機械なんか俺は知らないし、なによりこの基地にはないよ。その代わりにうちの隊員も貸し出すよ。ジャングル内での基地作りに使ってやって鍛えてくれ。レンガハウス作りも鍛えられたから、次も頼む」
「それは非常に助かります。ということで、マーリンさん、いや、人が増えたのだった。え~と、みなさん、これから兵士のみなさんのおうちを作ります。それが終わったら、自分たち士官用のおうちも作りますので、協力ください。ということで、事前に何か書類等必要があればマーリンさんよろしく。ジーナさんたちもマーリンさんに協力してください。そこの電話も直に使えるそうだから作業ははかどると思うよ。では、メーリカさん行きますか」
そこへ、いつも木工を担当している営繕担当の工兵が入ってきて、
「え~と、すみません。上からの指示で、ここに打ち合わせ用の大型の丸テーブルを設置するように言われたのですが、どこに置きますか?」
「え、打ち合わせ用のテーブルまで準備してもらえるのですか。誰からの配慮ですか?正直俺、上から睨まれていると思っていたのですが」
「サカキ中佐が、『あんちゃんの所が出来たら、絶対に溜まり場になるから、自分たちのためにも欲しい物を用意しておけ、とりあえず、打ち合わせの出来る丸テーブルをこさえておけ。』と言ってました。多分、このあと色々と持ち込んできますが、大丈夫ですよね?」
「あ~、いいや、マーリンさんに任せた。あとは宜しく。行くぞ、いつまでも外で待たせるのも可哀想だ。俺らは、そこで木を切っているから。じゃ~ね」
俺は、山猫の皆さんと新兵さんを連れてすぐ脇の木を切り倒していった。
工兵の皆さんにも協力してもらい、あっという間に整地まで済んでしまった。
元気になったサリーも俺のところに配属される衛生兵の新兵に連れられて、一緒になって作業の手伝いを始めた。
3日も経つと、最初のログハウスがおおよそ完成してきた。
内装は全然だが、外見だけは立派なログハウスの完成だ。
もっとも生木を使ったものだからすぐにゆがみなどでようが、当面は使えるはずだ。
多少湿り気は多い気がするが、周りはジャングルなので、どこも同じと思うことにしている。
俺たちが兵士用の官舎を作っている間、最初に作ったレンガハウスはサカキ中佐の予言通り、特殊大隊のたまり場となっていた。
俺はというと、ログハウス作りの作業手順の指示や小屋にこもって、工兵の人と浴場の建設のための図面を書いていたりと結構忙しかった。
当然、いつものようにアプリコットたちの視線は冷たかったが、なぜか特殊大隊の皆さんには受けが良かった。
さすがにログハウスを1棟を建て終わる頃になると山猫さんや新兵さんたちはかなり手馴れ、俺の手を離れてきた。
今は、内装にかかっているので、ほとんど彼女たちに任せっきりの状態だった。
その頃のレンガハウスは完全に溜まり場と化し、今では以前基地まで案内してきた花園連隊 第14大隊(通称アザミ大隊)の隊長をはじめ主だった士官の皆さんも遊びに来ていた。
もっとも、遊んでいたのは俺だけで、彼女たちは基地整備に関して色々と相談に来ていた。
そんでもって、アプリコットとローリー・アート少佐との話し合いで、明日からアザミ大隊の兵舎をログハウスで俺がアザミ大隊の兵士の皆さんと作ることになっていた。
どうせ作るのだから、精一杯趣味に走るぞと張り切っていたら、アート少佐からしっかり釘を刺された。
今作っている兵舎で構わないそうだ。
チェ、つまらない。
趣味に走るのは大隊指揮所でも作るときにこっそり頑張ろう、どうせ一緒に作るのだから。
あ、メーリカさんそんなに睨まないで、ほどほどにしておきますから……。
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