第67話 新たな仲間

 

 「は~い、注目!ほらほら、みんな集まって。今度、私たちのところに新しい仲間が沢山やってきます。仲良くしてあげてください」

「少尉、何言っているんだ??訳が分からないけど」

 俺の呼びかけにすぐさまメーリカさんが反応した。

「少尉、何やっているんですか。急に転校生を紹介する先生の真似をしても、周りが混乱するだけですからやめてください。少尉がこんななんで、私から大切な報告を致します」

「少尉はえらく軽いノリだったが、大切とは大げさな」

「今後の私たちの、下手をすると生死を左右することになるかも知れないほどのことです」

「わかった、真剣に聞くよ、みんなもいいか?」

「「「は~い」」」

「このあと直ぐに我々グラス小隊に新兵が配属されます。しかし、問題は配属される新兵の数なのです。その数約40名。正確には昨日到着した新兵のうち38名、ほかに衛生兵として2名の新兵がグラス少尉の元に回されます」

「オイオイ、他には配属されないのかよ。て言うか、数がおかしくないか?私らが他に行かずに40名も配属されたら、60名近くになるぞ。まるで中隊規模だ」

「そうです。中隊にも届きそうな規模の小隊になります。そのほとんどの兵士が新兵で、その指導をベテランの山猫の12名が行うことになります」

「流石にそれは無理だろう。いくら我々が無理やり面倒を見ても、下士官や士官が絶対的に足りない。絶対におかしい人事だ」

「はい、下士官や士官は足りません。そのため、今回は新兵と同時に准尉が3名配属されますが、配属される准尉は私の同期で、この春に士官学校を卒業した経験の全く足らない者たちです。数の上では揃うことになりますが、私たちでは経験が足らなすぎで、面倒をきちんと見られないでしょう。皆さんはすでにお気づきでしょうが、なぜか私たちグラス小隊は最前線に向かわされます。当然、数の上で揃った小隊は今以上に色々使いまわされることが予想されます。私たちが何も対応しなかったら、その未来は全滅による戦死しか見えません。生き残るためには、みなさんの協力が絶対に必要になります」

 アプリコットは必死に現状の危機を山猫のみんなに訴えていた。

「隊長、さすがに無理だ。上層部に訴えて、最悪でも新兵を半数にできないか?」

「メーリカさん、一度決まったことは、特に一度決まった人事は変わらないことは、メーリカさんでも知っていることだろう。俺は死ぬつもりもみんなを死なせるつもりもない。俺は理不尽な目にはたくさんあってきて、慣れてもいる。今回の理不尽な人事もその一つだ。もちろん、君たちには協力してもらうが、な~に、今回も無事切り抜けてみせる。乗っていた飛行機を落とされるよりは、今回はかなり安全だ。大丈夫、大丈夫」

「わかったわ、それで私らは何をすればいいんだ」

「最初に言ったが、新たな仲間と仲良くしてくれ」

「仲良くはわかったが、もう少し具体的に言ってくれ」

「とりあえず、山猫のみんながいつもやっている朝の訓練に新兵達を混ぜてくれ。それから、住むところを作らないとな。さしずめ、作りかけのレンガの家を完成させないと。それを今日中には目処をつけて、それから自分たちの家を作ろう。まずはそこからかかろう。昼一番にはここに来るそうだ」

「わかった、それじゃ~うちらは昼にするか。全ては来てからだ」

 昼過ぎ、本当に新兵たちは准尉3名を先頭にして、ここに整列していた。

 さすがに40名以上がきちんと整列して待っていると壮観だった。

 しかし、あることに気がついた。

 男がいない。ここに集まっている新兵たちは、全員女性だった。

 何故だ?

 これには、絶対に旅団長の悪意を感じる。

 人事の変更はありえないが、こればかりは後で抗議しよう。

「少尉、いい加減彼女たちを受け入れてください」とアプリコットに促され彼女たちの前に立った。

「グラス少尉に敬礼。ここに集合した者、全員グラス少尉率いる勅任特別小隊に配属されたことを申告します」

 『勅任特別小隊』???何やら聞きなれないことをジーナは言ってきた。

 アプリコットは同期のジーナから人事関連の書類を受け取っていた。

 彼女もそこに書かれていた小隊の正式な名称をみてかなり驚いていた。

「マーリンさん、その『勅任特別小隊』って何かな?」

「少尉、まず、彼女たちを受け入れてください」

 アプリコットから怒られた。

 彼女も知らなかったのだからごまかしに走ったな。

「ジーナさん、皆さんを楽にしてあげてください」

「「「???」」」

 そこにいた新兵たち、准尉3名も含め全員が俺の言葉を聞いて驚いていた。

 すぐに我に戻ったジーナが「敬礼、直れ、全体休め」と号令をかけ、全員に休めの体勢をとらせた。

「ありがとう、ジーナさん。君たちにも色々言いたいことがあるだろうが、私の隊に配属されたからには、更なる理不尽な目に遭うことを覚悟して欲しい。一蓮托生と諦めてみんなで協力して欲しい。で……だ。とりあえず、この基地にいるあいだは、そこにいる山猫さんたちの指示に従って欲しい。当面は、毎朝、山猫さんたちと一緒に朝練に参加してもらい、そのあとは基地整備に協力。まずは自分たちのお家作りになる。今日はこれから、山猫さんと一緒に作りかけのレンガハウスを完成させる。メーリカさん、後よろしく」

「え、え、……隊長、士官の皆さんにはさすがに勘弁してくれ。残りは面倒を見ますから」

「じゃ~、ジーナさん、残りの准尉たちも一緒にマーリンさんについて行ってくれ。と言うことで、今日中にとりあえずレンガハウスを作り上げるので、それまでよろしくね」

「しょ、少尉。分かりました、みんなとこれからのことについて話し合っておきますが、少尉はどうしますか?」

「そんなの決まっている。お家を作っているさ、山猫さんたちと一緒にね」

「は~~~~、分かりました。私たちは司令部横の食堂で、これからについて意見交換など打ち合わせをしてきます」

 アプリコットはジーナたち3名を連れて司令部の方へ歩いていった。

 残された新兵は不安そうな顔をして彼女たちを見送ったが、山猫さんたちが手分けして、やりかけの作業場に散っていった。

 俺は、メーリカさんとほとんど出来上がっているレンガハウスで、作業に入った。

 そこには、今まで一緒に協力して作ってくれた工兵隊の皆さんが、新顔を連れてすでに作業に入っていた。

 どうにかレンガハウスは、今日中にできそうだった。

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