第66話 グラス小隊の正規は補充
「始めまして、ですよね、グラス少尉。私は海軍陸戦隊からサクラ旅団長の秘書官に転属してきましたクリリン レッドベリー 大尉です。これからは、よろしくお願いしますね」
「は、これはこれはご丁寧なあいさつをいただきありがとうございます。私はグラスです。少尉をしているようですので、こちらこそよろしくお願いします。大尉殿。基地では、大尉のことは何度かお見かけしておりましたが、なかなか挨拶ができず申し訳ありませんでした」
「ウフフフ♪、アプリコット准尉、よくグラス少尉を逃がさず捕まえておいたわね。褒めてあげるわ、ありがとう。クリリンとは言葉を交わしたこともなかったのよね。それもそうよね、あなた、司令部を嫌っているようだから、こちらから呼び出さない限り司令部に近づきすらしないものね。さて、前置きはそれくらいにして。グラス少尉、すでに察しはついているのでしょうが、あえて説明をするわね。少尉の抱えている小隊に所属する隊員の数はご存知ですね。山猫分隊のみ、それと副官のアプリコットで合わせても14名しかいないわ。 少尉は、帝国で小隊の適正な規模をご存知かしら?山猫が分隊とされているので、今の人数が適正数ではないことは察しがつくでしょうけど、通常の小隊は分隊2個を含む30名で構成されるのが良いとされ、当然、数人の差は生じるでしょうが、戦闘部隊に配属される小隊はできる限りこの構成に近づけられているわ。近衛では、厳密にこの構成を守っていて、きちんと積み上げられているため、あなたたちが連れてきた大隊は、きっちり1000名で構成されているわ。あなたたちの小隊は定員に満たない、出来損ないの小隊なのを理解してちょうだい。本来は、ここに来た段階で補充をかけ、きちんと小隊を作っておかなければならなかったの。しかし、あなたたちも承知のとおり、誰のせいかは問わないけれど、この基地には全くの余裕がなく1小隊のために人員の移動すら出来る状態ではなかったの」
サクラ旅団長は、長々と俺に向かって説明という名のイヤミを言ってきた。
俺が嫌がらせで仕事を作ってきたわけではないのは知っているはずなのだが、なぜか根に持たれているよな。なぜだろう?
「少尉、何を余計なことを考えているのですか、旅団長の話に集中してください」
「あら、私の話に飽きたのかしら?でも安心してね、説明はもうじき終わるから。先程も話したように、人事面で大幅にいじることにしたから、あなたたちの小隊にもやっと補充が出来ることになったのよ。喜んでちょうだい。さっき説明したとおり、小隊の構成数は30名を基本とはしているけれど、30名じゃなければならないわけではないのよ。幾度も偉大な功績を挙げている少尉には、職責を持って報いるために、十分な補充をしてあげるから責任を持って面倒を見てあげてね。これが、補充リストになるわ」と言ってアプリコットに1枚のメモを渡してきた。
それを見たアプリコットは僅かに手をわなわなと震わせていた。
「しょ、少尉、この補充、とんでもないことになっています」
「とんでもないはないでしょ、アプリコット准尉。帝国軍において小隊規模の構成数は、最大60名までは、特に問題なく作れるわ。優秀なグラス少尉ならば私も安心して任せることができるもの、よろしくね」
「旅団長、決まった人事に対して意見を言うことは禁忌事項であることは重々承知しておりますが、あえて意見の具申を申し上げます」
「アプリコット准尉の言いたいことはわかりますが、変更はありません。それでよければ意見の具申を許します」
「ありがとうございます。変更ができないことを理解しておりますが、それでも、懸念事項を具申させていただきます。新兵ばかり40名をベテラン兵士12名で面倒を見ることはできません。いざ戦闘にでもなれば、新兵は全滅です。山猫の優秀さは理解しておりますが、下手をしなくとも新兵が足枷となり、彼女たちも含めて全滅の恐れがあります。指導できる兵士が少なすぎます。再考のお願いを致します」
「私たちは、充分に考慮しました。本当ならばその倍は預けたかったのですが、国の決まりというか、習慣がありますから、それで我慢しているのよ。ですから、私が思っている数の半ですから、十分に兵士の成長を期待できると判断したので、あなたたちに任せます」
「ベテランと言えるのは山猫部隊の12名のみで、士官2人は右も左も分からないような新米なところに、新たに新米の士官を3人配属させても、兵士の成長を促せるとは思えません。そもそも、隊長は1週間の促成栽培のような教育しか受けていない『ノラシロ少尉』と陰口すら叩かれるグラス少尉です。とても新兵を導いていけるとは思えません」
オイオイ、アプリコット・マーリンさん。興奮しいてるから気づいてはいないようだが、あなた、かなり失礼なことを旅団長に訴えているではないですか。大丈夫ですか?
「私も、最初はジーナ准尉たちの配属には賛成できなかったのだが、レイラ中佐やサカキ中佐が同期であるアプリコット准尉の成長を見て、ここなら大いなる成長を期待できると口を揃えて言うので、判断しました」
「私の成長?」
「今のあなたを見て、この基地では誰もあなたのことを新米士官だとは思っていませんよ。サカキ中佐ですら、一人前に扱っているのですから、自信を持ってね。あの、グラス少尉の
「山猫と仲が良いのは、グラス少尉が余りにも特殊だからなのですが…」
オイオイ、マーリンさん、まだ気づいていないよ。
いつものことだけれど、最近特に扱いがひどいな。
でも、『気にしたら負け』だそうだから、俺は気にしないよ。
大丈夫、俺は出来る子だから。
「アプリコット准尉、少し落ちつけ。決まった人事は動かないのが常識だ」
「常識、少尉は今『常識』とおっしゃいましたか?あの歩く非常識の少尉が…」
オイ!、さすがに酷くないか、今のは。
「とにかく落ち着け。理不尽な命令にはいい加減慣れているだろ。今更、理不尽な命令一つでいちいち驚くな。それより、俺らにできるのは、今できることで最善を尽くすしかない。知恵だけは精一杯振り絞り、考え抜くしか困難な事柄からは抜け出せない。デスマーチは慣れているから大丈夫だ。もともと俺の入隊からして理不尽の塊だった。未だに命があるってだけでめっけ物、と考えていると案外心の平静は保てるものだ」
「あの、少尉が、歩く非常識の少尉がまともな事を言っている。絶対変だ、何かが起こる」
俺の横で、アプリコットがわなわな震えて何かつぶやいている。
何やら、いや、絶対に失礼なことを考えているに違いない。
な~に、いつものことだ。
でも、最近だんだんと俺の扱いがひどくなっていっている気がする。
でも平気だ、最近工兵隊とは仲良くやっているし、山猫の皆さんとも仲良くしてもらっている。
大丈夫、理不尽な扱いには慣れている。
あのブラック職場で耐えた十数年は無駄ではない。
俺は出来る子だ。
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