第65話 組織改編


「フン♫、フン♫、ウフフフ♪」 

 俺もそうだが、一緒にレンガを作っている山猫さんたちも楽しそうに仕事をしていた。

「あれ~、少尉、アプリコット准尉が近づいてきますよ。なんだか機嫌が悪そうですが、少尉心当たりがありますか?」

「俺は、まだ何もしでかしていないぞ。心当たりなんかあるものか」

「どちらにしても、私たちへのとばっちりは勘弁してくださいね」

「少尉、ご機嫌ですね」

 やや不機嫌な表情でアプリコットさんが近づいてきた。

 俺、今日はまだ何もしでかしていないが、なぜかアプリコットさんの機嫌が悪そうだ。

 取り扱い要注意で行こう。

「レンガつくりが思いの他楽しいものだということを発見したんだ。俺、もともと物を作るのが好きだったから、本当に楽しい仕事だ」

「しごと~?、そう思っているのは少尉だけです」

「マーリンさん、俺何か謝らなければならないことをしたかな?少なくとも、今日はまだ何もしでかしていない認識なのだが…」

「そうですね、少尉は仕事もしていないですしね。それより、旅団長が士官全員を集めています。急いでおられるようだったので、大至急司令部に向かいますよ。私に付いてきてください」

 旅団の司令部に入ると、すでに多くの士官が集合していた。

 今まで見たこともない士官も幾人か確認できた。

 新たに配属されてきたのかな。

 俺たちは、遅れてきたので、そ~っと部屋の後ろか入り、静かに隅に待機していた。

 しかし、その様子を旅団長に見つかり、かなり鋭い視線を向けられた。

「旅団長、かなり怒っているようだな。何かあったのかな。仕事が、かなりブラックが入っているのは知っていたが、それ以外に何かあったのかな」

「そんなこと知りません。とにかく少尉はなぜか目立つので、今はおとなしくしておいてください」

「グラス少尉も来たか、それにしてもひどい格好だな」と、レイラ中佐にレンガ作りで泥のついた服装を注意された。

「はい、お急ぎの呼び出しだったもので、そのままの格好で参上しましたが、まずいようならすぐにでも着替えてきます」

 レイラ中佐との会話を聞いていたサクラ旅団長が「構わない、本当に時間が惜しい。今まで遊んでいたやつのために貴重な時間を失いたくない」

 今まで遊んでいたやつって、やっぱり俺のことだよな。

 遊んでいたつもりはないのだが、かなりトゲのある発言だな。

 短い期間で2000名もの兵士を連れてきたことを根にもたれているな、あの発言は。

「もう、おおよその士官が集まったようなので始めます。後からやってくる者についてはクリリンからフォローを入れます。皆に集まってもらったのはほかでもない、この旅団の人事面での大改革を行います。皆にはかなりの負担を強いることになりますが、協力を願う」とサクラ旅団長から挨拶があり、会議は始まった。

 続けて、レイラ中佐から「今まで、この基地には、おおよそ大隊単位でバラバラと配属されてきた。そのため、基地のとった方針は、とりあえず、ハード面での整備を第一に行ってきた。ハード面での整備の目処はまだ全く立っていないが、そうは言っていられなくなってきた。昨日、皆も知っているように新兵だけで1000名もの配属がこの基地に行われた。

 人数的には大隊規模である。しかし、大隊ではない。新兵だけなのだ、士官が付いてきてはいない。そのため、新兵の隊への配属ができない状況である」

 サクラ旅団長が続けて「今までは大隊に対して、おおよその指令を出して基地の整備を行ってきたが、それが昨日からできなくなってしまった」と言って、サクラ旅団長は俺を睨んできた。

 何も、2日で往復したからって俺の責任ではないじゃないか。

 ジャングルで迷うことを織り込んでいたからといって、命令されていなのに、好き好んで1週間もジャングルで野宿なんかしたくはなかったよ。

 俺らは、命令に従っただけなので、俺は悪くはない。

 俺は、睨んできたサクラ旅団長から顔をそらした。

 そのやりとりを見ていたレイラ中佐がヤレヤレといった表情を浮かべ続けた。

「今、基地には3つの大隊と以前から基地に配属されていた1つの中隊からなっている。正確に言うと、工兵大隊と花園連隊と駐屯中隊である。隊ごとに命令を出すのはこのまま続けるが、その隊を大きくいじることにした。花園連隊の2つの大隊から1/4づつ士官を募り、大隊をもう一つ作ることにし、兵士もそれなりの人数を新たな大隊に配属させる。多くの新兵はその新たな大隊に配属させるが、基地全体に新兵を配属させ、新たな仲間の能力向上を基地全体で行っていく。当然、基地の整備は今までと同様に最優先で行っていく。具体的に士官の新たな配属先は後ほど知らせる」

 サクラ旅団長が不安そうにしている花園連隊の士官たちに対して「花園連隊は近衛所属であって、解散はされていない。しかし、この基地は軍管理である。私は、花園連隊を連隊単位で使いたかったが、それを状況が許してはくれない。大まかな枠組みは残るが、この基地では、別の連隊と考えてくれ。よって、花園連隊を母体とした連隊にも多数の新兵を配属させる。お前たちが存分に鍛えてくれ。本作戦が終了し、帝都に戻る時には、元に戻して花園連隊として凱旋しよう」 

 サクラ旅団長の話を聞いた花園連隊の士官たちは一斉に顔をほころばせ、安心した表情になった。

 表情の変わった士官たちを確認したサクラ旅団長は、彼女たちに向かって大きく頷き、自身も安心したようであった。

 レイラ中佐が、「これで会議は終了します。組織変更が発生しますので、呼ばれた士官はその場に残り、マーガレット副官、クリリン秘書官から説明と命令書を受け取ってください。

 残りの士官は後ほど直接新兵が配属されますので、今までの仕事を別命があるまで続けてください。新兵が配属されたら、当然、新兵の訓練の責任もあなたたち士官が負うものですので、慣例、慣習に基づき行ってください。では、解散します」

 レイラ中佐の最後の話を聞いたあと、集まった士官たちはバラバラと元の職場に戻っていった。

「さて、戻りますかね。マーリンさんはどうします?」

 俺がアプリコットに話しかけたら、彼女は怒った口調で、「少尉、逃げることは許されませんよ。私たちの部隊は、定員を大きく割っており、小隊として機能できていません。当然、補充なり改変なりが行われます。ほら、クリリン秘書官が旅団長を連れてやってきたじゃないですか」

「なぜ、旅団長まで…」

 あれは、良くない。

 絶対に良くない前兆だ。

 絶対に何かが起こるよ、絶対面倒くさい何かが起こる。

 だって、サクラ旅団長の顔、悪人顔だもの。薄笑いして、何か企んでいる。ヤダ怖い、助けてマーリンさん!

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