第59話 計画的な迷子
「今、どんな感じだ?」
司令車の中で簡単な地図を作っている兵曹長のエレナに聞いた。
「何度も確認していますが、こんな感じです。正直自信がありません」
「おいおい、ジャングル内を探索してまだ1日しかたっていないんだぞ。この分なら、明日の昼前にはロールストリングスについてしまうぞ。一度通った道ですらシバ中尉が2日かかったのに、探索しながら同じくらいで着くとは俺も信じられない。あのシバ中尉が精一杯頑張って1週間かかったルート探索を、2日で達成してしまいそうだとは、そのまま報告したら、ズルを疑われかねないな。そうでなくとも俺は上からの受けがあまり良くないしな。とりあえず、お茶を濁して定時連絡だけは入れておくとしよう」
「そうですね、あのシバ中尉がサカキ中佐に怒られるのを知っていて手を抜いたとは考えられませんから、全力で探索しながらの移動で1週間かかったのをわずか2日とは、絶対に疑われますね。これが1日しか掛かって無いなら状況は変わりますが。掛かっている日数が同じですし、探索をサボって知っている道を使ったのだと、絶対に疑われます。それは、2日が3日でも同じでしょう。どうしましょう?どこかでサボりますか?」とアプリコットらしからぬことを言ってきた。
「やめておこう。ジャングル内で3~4日無駄に過ごすのは、ストレスが溜まりそうだよ。
それに、迷子を期待している隊員たちに殺されるよ。とりあえず、このまま行こう。ジャングル方面司令部でも俺たちの出発は知っているし、探索もわかっているはずだから、ロールストリングスにわずか2日で現れたなんて思ってもいないだろうし、安心して迷子になれるから、昼前に街に入ろう」
「街の入口で検問を受けると思いますがどうします?」
「正直に申告するさ。大丈夫、俺たちVIPじゃないから。検問では入れて大丈夫なやつかどうかしか判断されないよ。賭けてもいいけど、絶対に司令部の中枢へ連絡は行かないよ。
日常業務で処理されるはずだから、そのまま行こう」
「もらった簡易地図と地勢図を見比べているのですが、シバ中尉たちは、この渓谷を迂回しているために、我々の5倍は走破していることになります」
「じゃ~、我々はどうなっているんだ?」
「運が良かったんですかね。渓谷そのものを通らず、丘陵地の峯の部分をほぼ直線的に走ってきてますので、明日今走っている丘陵地から街に降りる際に難儀するかもしれませんけど」
「ま~、どちらにしても出たとこ勝負だ。気にせず行こう。でも、そのことをメーリカさんには連絡しておいてね。彼女たちなら、事前に連絡しておけば難なく対策しそうだから」
「分かりました、早速連絡しておきます」
「先行しておりますメーリカ軍曹より連絡です。宿営地の候補を見つけたそうです。指示を待っております」
「噂をすれば…というやつか。そこに今夜は泊りましょ。連絡を返しておいてね」
メーリカたち山猫分隊は先行してルート検索しながら走っており、夕方になる頃に宿営地になりそうな所を見つけ連絡を入れてきた。
そこに宿営することにして、山猫分隊に連絡を入れ、俺たちはそこに向かった。
すでに山猫分隊総出で野営の準備をしており、俺たち後続組が着く頃には準備もほぼ終えていた。
「メーリカさん、ありがとう。いつもながら、山猫さんたちは仕事が早いね」
「何言っているんだか。それより隊長、本当ですか?」
「え、あ~、明日には街に着きそうだということ?」
「そ~、それそれ。本当に明日には着くの?シバ中尉たちと変わらないじゃないですか」
「いや、帰りはもっと早いよ、多分野営せずに帰れると思うよ。本当に明日街に着けばだけどね。正直、俺も信じられないのだけれど、ここまで、あまりに順調に来たから、それもありかな~なんて都合がよすぎるかな」
「でも、今走破しているのが丘陵地の峰?であると考えると、街に入るのには一旦丘陵地を降りる必要がありますから、もしかしたら明日降りる場所を探すのに手間取るかもしれません」
「わかったわ、アプリコット准尉。明日早い段階で降り口を探しながら走るわね」
「昼前に街に入れたら、夕方まで、予定通り迷子になるよ」
「「「ワーーーー、あの話本当にいいんですか?」」」
「約束だし、いいよ。ただし、いくつかのグループに分かれて行動するよ。個人行動はダメだよ。それと、時間は厳守でね」
「「「分かりました~~~」」」
本当に昼前、朝に近い午前10時には街の検問所まで来ていた。
丘陵地を下るのも、街道を見つけ難なく降りることができ、唖然としたくらい簡単に街に着いた。
検問所も軍用車はそのまま素通りで、検問すら受けずに街に入れた。
司令車が共和国製で見慣れないため怪訝な顔をされたが、国旗を掲げており、帝国製のバイク4台と軽車両1台に先導されていたので、軍関係者用の出入り口からフリーパスで入れた。
街の中央広場前で、一旦車を止め、一時解散させた。
「じゃ~、グループに分かれたね。ここに午後4時に集合だよ。時間厳守で、お願いだよ」
「「「分かりました」」」
「それじゃ~、解散」
「ところで本当に良かったのか?俺と一緒で」
「少尉は、何をしでかすかわかりませんので、一人にするのは心配ですから」
「私は、アプリコット准尉とあまりゆっくり話せなかったので、一緒させて頂きました」
アプリコットとジーナは答えた。
両手に花状態で、正直街の男どもの視線が痛いから一人で動きたかったのだが、美少女二人を連れて街を散策することにした。
「では、頼まれたお使いでもしようかね」
「木炭は基地で調達するのではなかったでしょうか?」
「そうだけれど、市場価格を調べてくることも頼まれててね。なんでも予算措置がどうのこうのと言っていたから、街で価格を調べておかなくちゃね。それに、俺たち迷子だろ、基地の場所も尋ねなければならないから」
「それでは、先に木炭価格を調べましょう。街の探索はそれからでもいいわね」
街の中央付近の大きめな雑貨屋に入り、トン単位での木炭価格を調べ、お使いを終え、二人を連れて広場前にあるカフェで昼食を取った。
ゆっくり食後のコーヒーを楽しんでいるところを山猫のみんなに見つかり、スイーツを奢らされたが、楽しいひと時を過ごせた。
日も傾き出した午後3時45分には、全員が集合場所の広場に集合していた。
「流石、時間厳守だね。少し早いが全員が集まっているので、お仕事のため、基地まで移動するよ。全員車に乗ってね。準備が出来た車から出発するよ」
車列を連ねてジャングル方面軍司令部まで走っていった。
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