第58話 初めてのお使い
アプリコットと俺は、司令部を出てそのまま倉庫前まで来た。
倉庫前には、車両とバイク数台がエンジンをかけて待機しており、その周りに山猫をはじめ馴染みの人たちが屯していた。
「ジーナさん、久しぶり、元気していた。またジャングルだけどよろしくね」
アプリコットの同期で、昨年度の士官学校主席で卒業したジーナ・トラピストに、いつものように挨拶をした。
「グラス少尉、移動の準備は整っております」
いきなり、およそ軍隊内では聞かれないような感じで声をかけられ戸惑いながらも、ジーナから返答が帰ってきた。
「いや~、本当にこの基地の皆さんは優秀だね、マーリンさん。俺の仕事がなくなるくらいてきぱきとしてくれるから助かる。でも、出発はちょっと待って。エンジン切っていいから、みんな集まってもらえるかな」
「集合」
ジーナが大声でみんなを集めた。
「また、一緒に来てくれるそうだね、よろしくねマキアさん」
「はい、よろしくお願いします。でも、いきなりの出動で驚いています。まだ、浄化槽が完成していないのに大丈夫でしょうか?」
「シバ中尉にきちんと引き継いだから大丈夫なんじゃないの。それに、今回のロールストリングス行きはちょうど良かったよ。木炭が足りないので買い足してくるように、サカキさんにもお使いを頼まれたから」
「お使いですか??」
「少尉、いつまでくだらないことを話しているのですか。みんな集まりましたよ」
「よ~し、じゃ~説明するから相談に乗ってね」
「「「え??」」」
「今回のお使い…じゃなかった、お仕事はシバ中尉が使っているルートとは別のルートを探索して、ジャングル方面軍司令部のあるロールストリングスまで行き、足りなかった木炭の買い出しにある」
「少尉、違うでしょ。それは後付けでサカキ中佐に頼まれたことで、本来の趣旨ではありません。いいです、私から説明します。ジャングル方面軍司令部には、現在引越し途中の花園連隊第14大隊が到着しております。先の資材確保のため工兵隊のシバ中尉が往復するついでに第13大隊を連れて基地まで戻ってきましたが、今回我々が14大隊を先導して無事に基地まで連れてくる命令が下されました。しかし、この基地の立地状況によりジャングル方面軍司令部とこの基地までの補給ルートが確立しておらず、ルート確保の目的もあり、シバ中尉の使っているルートとは別のルート探索も命令に含まれております」
「そういうわけだから、またジャングル内をウロウロすることになったんだよね。でも、いきなり別ルートを探せと言われても、みんな困るでしょ?そこで、出発前に少しみんなと相談してから出発しようかなと考えております。それに、仮に別ルートを見つけても、そのルートを使うたびに案内なんかできないよね。いちいちめんどくさいことになるから、こういう時には最初からきちんとしておくといいんだよ。俺の今までの経験から、必要書類は揃えておくに限るし。てなわけで、簡単な地図を作りながら進みます。そのための準備もしますので、手分けして追加の準備をよろしく」
「隊長~、それなら、先ほどマーガレット副官がいらした時に補給担当幕僚が色々おいていきましたよ」
「はい、グラス少尉、補給担当幕僚から、警備系車両1台とバイク2台、それにこの付近の地勢図、図版、方位磁石、それにカメラなどを預かっております。
また、レイラ中佐から地図の作成に長けた兵士を一人預かっております」
「え、一人初顔がいるの?誰?挨拶しなくちゃ」
「少尉、挨拶が遅れ申し訳ありません。今回の任務にレイラ中佐より同行を命じられました元情報部所属のエレナです。階級は兵曹長です。ジーナ准尉の指揮下に入ります。よろしくお願いします」
「あの~、少尉、それとマーガレット副官から『くれぐれも、任務第一でそれ以外のことは控えるように』との少尉宛の伝言を預かっておりますが、どういう意味なのでしょうか?全く理解ができてません」
「あ~、それね、俺も旅団長から『今回だけは頼むから余計なことだけはしないでくれ』と頼まれた。その時には、俺もなんのことだかわからなかったのだが、レイラ中佐がぶっちゃけてくれたところ『何も拾ってくるな』と言っていた。犬や猫でもあるまいし、落ちているのをそうそう拾うわけないよ、ね~」
「少尉、私たちが独自で移動するたびに外部の人間を連れて帰ってきています。最初は、共和国の士官が二人、次はサリーを連れて基地まで帰ってきております。そのことなのではないでしょうか」
「あ~、それでか。『もし、どうしても拾いたいなら行きだけにしろ』って旅団長がボソって言っていたのは。俺らも拾いたくて拾っているわけじゃないのにね、ひどい言われ様だよな。ま~いいか。それより、出発前に大まかなルートを検討しようか」
「あの~、少尉、命令が出されているのに基地内でこんなにゆっくりしていても大丈夫でしょうか?最悪サボタージュに問われませんか?」
「大丈夫、大丈夫。今回のお使いは、できるだけゆっくり丁寧にするように旅団長から言われているから。ぶっちゃけ、今来られても困るんだそうだ」
「下水も溢れそうですしね」
「そのためのお使いも言い付かっているんだから」
「「「あ~、「今基地に来ても泊まる場所もないしね」「人で溢れているから納得」「じゃ~なぜ使いが必要なの?」」」」
「そんなわけで、目的地手前にあるロールストリングスの街で、1日道に迷い子になります」
「隊長~、迷子が計画に入っているのですか?」
「いい加減、ジャングルにも飽きたでしょ。少しくらいの役得があってもいいんじゃないかな。買い物も頼まれているし、街のカフェでお茶しながら道を訊いたり、雑貨屋で買い物をしながら道を訊いたりします。楽しみにしていてね。そんなわけで、この中でジャングル方面軍司令部に面が割れている人はいますか?迷子中に見つかるとめんどくさいことになるから」
「大丈夫、大丈夫。お偉いさんなわけでもないんだし、そんな奴はいませんって。じゃ~、さっさとルートを決めて出発しましょ。隊長、何グズグズしているんですか」
流石に年頃の女の子の集まりである。
街でお買い物…ゲフンゲフン…迷子のことを話したら俄然やる気を出したようで、あっという間に出発の運びとなった。
みんなのモチベーションが上がるのはいいことなのだが、また、何かしでかさないかちょっと心配になった。
「みんな、車に乗ったね? じゃ~出発するよ。メーリカさん出発させて」
車列は元気に基地を出て行ったのであった。
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