第57話 大丈夫なのか この基地は



「ふ~、とりあえずひと段落だな」

「あとは、コンクリートが乾くまで作業はお休みだ」

「ところで、使う資材の用意をしとかないと、すぐに使用できませんが大丈夫ですか?」

「砂や砂利はそこらじゅうにあるし、石などは川原に行けば大丈夫だな」

「木炭も大量に使いますが、大丈夫ですか?木炭は定期的に交換が必要になるし、かなりの量が必要になりますよ」

「木炭か…木炭がネックだな。とりあえず、木炭なしでどれくらい行けるか検証が必要になるか」

「それでしたら自分たちでつくりませんか?木炭を」

「え!、ここで作れるのか「あ~ここにいたのですか、少尉」」

 俺とシバ中尉が話しているところにアプリコットが走り寄ってきた。

 やばい、かなり怒っているようだ。

 何故だ?俺怒られるようなこと、今日はまだしていないぞ、何故だ。

「少尉、あれほど言ったじゃないですか、どこかに移動するときはわかるようにしてくださいと。基地中探しましたよ」

「マーリンさん、ごめん。ところで、なぜ俺のことを探しているんだ?まだ、待機任務中だろ、それにサカキ中佐にここの手伝いを仰せつかっているのだから、上からのお叱りもないはずだろ。何か用があるのか?」

「あ~そうでした。少尉を怒っていたので危うく忘れるところでした。サクラ旅団長がお呼びです。至急出頭してください。私に付いてきてください」

「シバ中尉、すみませんがここを離れます」

「親分のお呼びじゃしょうがないだろ。すぐに行きな」

 とりあえず、現場の責任者の了解を取り、ここを離れることにした。

 アプリコットと一緒に司令部に向けて歩きだした。

「ところで、俺、このままの格好でいい?かなり汚れているのだが大丈夫か?」

「大丈夫です。何か急いでいたようなので、そのまま行きますよ。しかし、本当に汚れていますね。なにしていたのですか?」

「基地の下水が溢れそうなので、急いで浄化槽を作ることになったのだが、誰も浄化槽を知らないため、サカキさんから手伝いを頼まれた。さっきまで、掘った穴の周りにコンクリートの壁を作っていたところだった。作業も終わり、コンクリートが乾くまで何もできないから、ちょうど良かったのだけど、俺、なんで呼ばれたのかな?マーリンさん、何か心当たりある?」

「私もわからないのです。先ほどマーガレット副官が私のところまで来て、至急少尉を連れてきてくれと頼まれただけですから」

「報告書の類をマーリンさんに丸投げしているのがバレたのかな」

「そんなことくらいとっくに基地内の皆さんはご存じですよ。そんなことで怒られていたのでは、少尉はとっくに営倉入りですよ」

「え~、みんな知っていたの?ところで、俺営倉入りしないといけないような事した覚えがないのだが…」

「少尉は軍人としての心構えが全くないので、ちょくちょく常識から逸脱していますよ。厳しい上官なら何らかの処分対象になっても不思議はありません」

「俺だけじゃないよね。人のことはあまり言いたくはないけれど、サカキ中佐のところもかなり変わっていると思うのだが」

「あそこは特別です。とやかく言わないで、付いてきてください」

「別に怒られるのには慣れているから、いいけれど、なんで急に厳しくなってきたのかな…」

 すでに怒られること前提で覚悟を決めて司令部にアプリコットと一緒に出頭した。

 司令部の置かれている広い部屋には、基地にいる士官のうち、かなりの人数が集まっていた。

 皆一様に難しい顔をしていた。

「マーリンさん、何か、お取り込みのようなので出直さないか?」

「そんなこと出来る訳ありません。旅団長、グラス少尉、アプリコット両名マーガレット副官の指示により出頭しました」

「やっと来たのね、それより少尉、凄い格好ね。いくら待機任務中とはいえ、任務中なのですから、もう少し身だしなみに気をつけてね。ところで、あなた何やっていたの?」

「ハイ、サカキ中佐の依頼により浄化槽を工兵隊と一緒に作っていました」

「あ~、あの件ね。聞いているわ。それより、グラス少尉に命令です。これより、待機任務を解き、ジャングル方面軍司令部にいる我々の仲間を案内して連れてくること。ただし、移動ルートは、先ごろシバ中尉が利用したルートとは別の新たなルートを開拓し、そのルートを使って連れてくることを命じます」

「新たなルートを開拓しながらですか?かなりの時間的ロスが生じるかと小官は愚考しますが」と、アプリコットが命令の不自然さをそれとなく問いただした。

 やっぱり出来る人間は違うと、毎度のことながら感心した。

 レイラ中佐が「やっぱり、気づくわね。正直言うと、早く基地についてもらうと困るのよ。知っての通り、この基地には受け入れの余裕が全くないの。だから今来てもらうと困るのよ」

 続けてサクラ旅団長が「軍団司令部から、早く引き取れと催促が来ていてね、無視できないの」

「あんちゃん、貧乏くじで悪いが、どのみち新たなルートはこの先必要になるし、この際だから、言い訳を兼ねて、ルート検索しながら時間をかけて彼女たちを連れてきてくれ」

 サカキ中佐が本当にぶっちゃけた話をしてくれた。

 周りの幕僚たちが、一斉に下を向いて目をそらした。

 これ絶対にあれだよな、方面軍司令部についたらあちらの幕僚からイヤミの嵐を受け、責任者からはお叱りを受けるパターンだよな。

 できることなら断りたいのだが、絶対にできないよな。

 でも、ここは一応悪あがきの一つでもしておきたい。

「かなり重要な任務と思われますし、ルート検索などかなりのスキルを要すると思いますので、素人同然の私には、いささか荷の重いことだと考えますが」

「だからなのよ。ほかの人だと軍歴に傷がつくから嫌がるの。あなたはすでに十分な功績を挙げているし、その方面ではかなりの有名人だから、時間がかかっても言い訳になるでしょ。

 大丈夫、大丈夫、気にしないで、十分に時間をかけていいから、お願いね」

 最後には、旅団長自らかなりぶっちゃけてきた。

 大丈夫なのか、この基地は?この基地全体が、軍の常識とやらからかなり逸脱していないか?

 みんな俺と変わらないのじゃないかな。

「そこまでおっしゃるのであれば、了解しました。準備が出来次第、ジャングル方面軍司令部に向けてルート探索を兼ね仲間の迎えに行ってきます」

「あなたの小隊に、前のジャングル探査に同道したメンバーをもう一度付けますので、前回と同じメンバーで出発してください」

 マーガレット副官が「あなた以外のメンバーには、すでに司令部から命令を出してあります。倉庫前に集合をかけてありますので、そちらに向かってください」

「「了解しました」」  

 俺とアプリコットは敬礼をして、倉庫前に向かった。

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