第55話 軍法会議、俺悪くないよ

「本当に今日中に設置できたな。早いもんだ。これで、とりあえずこの基地の水道問題は解決した。やれやれだな」

「ところで、サカキ中佐、このポンプを今使っているポンプに変えて直ぐに使うのですか?」

「そのつもりだが、何か問題でもあるか?」

「水道の供給には全く問題はありませんが、下水の処理は大丈夫ですか?このポンプ、今の性能だとこの基地にあったポンプの20倍の性能はありますよ。下水処理の能力が今のポンプに合わせたものだと、下水が溢れますが、大丈夫ですか?」

「「「あ!「え!」「しまった!」」」」

 一斉に、その場にいた工兵たち全員が固まった。

 サカキ中佐が、ポンプを作動させようとしている隊員に向かって「ポンプを動かすのをやめろ!」と怒鳴った。

 ポンプを取り付け、動かそうとしていた隊員が、驚いてその場で飛び上がった。

「何??何があったのですか?サカキ中佐」

「シゲ、下水はどうなっている?」

「いや、全く見ていませんが」

「バカヤロ、すぐに確認してこんか!」

「分かりました、おやっさん」と言って、シバ中尉が数人連れて、下水の確認をしに飛んでいった。

「何があったのですか?」

 もう一度さっきの隊員が聞いてきた。

 かわいそうなので、俺が説明してあげた。

 しばらくポンプの設定状況などを確認しながらその場で待機していたら、割と直ぐにシバ中尉が戻ってきた。

「助かりましたよ、あのまま動かしていたら、下水が溢れてました。裏に穴を掘ってそこに流していただけの処理でしたから、急に基地内の人口が増えたので、今にも溢れそうでした。ポンプを回さなくて良かったです。しかし、このままでは今日明日中には溢れますぜ、何か対策を立てないとまずいことになります」

「どうしたものかな。川にそのまま垂れ流すのは、最後の手段として、何らかの対策が必要だな」

「あの~、サカキ中佐、ちょっといいですか?」

「あんちゃん、何かあるのか?」

「以前、帝都から車で4時間ばかり言ったところの村でポンプを設置したときのことですが、浄化槽で下水の処理を済ませたのを思い出しました。この基地、一体どれくらいまで人が増えるのですか?それに合わせて、浄化槽を作ってはいかがでしょうか?簡易型なら、割と簡単に作れますが、なんならお手伝いしますよ」

「う~む、この基地は、どんなに頑張っても1個師団が限界だな、それならば1万人を上限にその浄化槽とやらを作ってみるか。シゲ、出来そうか?」

「浄化槽って、あのいくつかの水槽に順に下水を入れていくやつですよね。水槽ならば地面を掘ればいいですが、水槽を繋ぐパイプがありません。それに、水槽を作る際のコンクリートが心もとないです」

「わかった、お嬢に頼んで手配しよう。多分、方面軍指令部あたりまでここから取りに行くことになるが、頼んでみるか。すまんが、あんちゃん、浄化槽の制作まで手伝ってくれ。何、旅団長には話を通しておくよ」

「グラス少尉、早速だが簡単に図面を引きたい。協力してくれ」

「分かりました、シバ中尉。メーリカさん、一旦ここで解散な。実際、浄化槽を作るときに、もう一度集まってくれ。手伝って欲しいから」

「隊長、手伝いって何をすればいいんだ?あたしら、浄化槽ってもん知らないが」

「手伝いは、穴掘り。土方仕事で悪いが、人足が必要になる。以前村で作った時も老若男女村総出で作ったから、手伝いが欲しい」

「土方仕事なら大丈夫だ、気にしなくていいよ。わかった、お呼びが掛かるまで、基地内で待機しているよ。朝練で汗もかいたし、風呂にでも入ってくるよ。何なら、隊長もご一緒する?」

「バカヤロ、以前それでひどい目にあっただろ、もう懲り懲りだ。それに、俺はシバさんと打ち合わせだ。とりあえずゆっくりしていろ」

「「「分かりました」」」

 山猫さんたちは、風呂の方へ散っていった。

 俺は、シバ中尉と一緒に倉庫脇にある事務所に向かい、浄化槽の打ち合わせに入った。


 サカキ中佐は、再び司令部でサクラに会い、今までの経緯を伝えた。

「お嬢、ポンプはすぐにでも作動できるように設置は済んだ。しかし、大きな問題が発生した」

「また、あいつが何かしでかしたの?今度は何をやらかしたのよ、今度こそあいつを軍法会議に掛けて営倉にでも突っ込でやるんだから」

「お嬢、落ち着け、あいつは何もやらかしていない。問題を事前に発見してくれたのだから。それにあいつは色々やらかしているが、一応それらは、功績として評価してやらなければならないものばかりで、営倉は無理だ」

「ごめんなさい、おじ様。それもそうね、こちらの都合を一切考えずに仕事を増やしてくれるけれど、みんないずれ必要になることばかりだものね。やらかす時期が最悪なだけ。で、その問題とは何ですか?」

「下水が不味い事になっている。元々1個中隊、それも、定員に欠ける中隊が駐屯する基地だったのに、すでに連隊に近い人間がいる。水道を使えば当然下水も出る。その下水が処理の限界に達しようとしている。浄化槽を作って対策を講じようとしているが、資材が足らない。大至急手配を頼む。なに、必要なのは、コンクリートやパイプ類だ。大きな都市にでも行けば割と直ぐに手に入る。方面軍司令部にも、ストックがあるものばかりだ。方面軍司令官あてに融通をお願いしてくれ。それと予算処置だ。これから直ぐにシゲたちに取りに行かせるから。4日もあれば戻って来れる」

「分かりました。クリリン、司令官あてに打電、資材を分けてもらえるよう要請をかけておいてね」

「分かりました、直ぐに打電します」

「それにしても、つくづくあいつは問題のそばにいるわね。私と徹底的に相性が悪いのかも」

「相性は分からないが、たまにいるんだ、そんな奴が。俺らが問題にしていることが、好んであんちゃんのそばに寄って来る感じかな。どちらにしても、ありがたくないのは同じだが、あんちゃんが悪いわけでは無いのだから、諦めるしかないべ」

 サクラはこめかみの辺りを押さえ、大きくため息をつきながら、ヤレヤレといった表情で、自分の運のなさを呪った。

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