第53話 倉庫前の騒動

 


 「少尉が、また、面白いことするそうだから、チャッチャと片すよ」

 「「「了解」」」

 チーム『山猫』は手際よく倉庫の片隅に眠っていたポンプを外へ出していった。

 「へ~、結構あるもんだな。全部で6台もある。あ、1台はシートを広げて、その上に置いてくれ」

 「「分かりました」」

 「これで、倉庫の片付けは終わりかい?」

 「ありがとうございました。これで、片付けは終わりです」

 「ほかに何かやることは残っているのかい?」

 「いいえ、ありません。強いて言えば、技能を上げるための勉強くらいです」

 「それじゃ~、これの整備をしてみるか。色々教えてあげるから、やってみなよ。どうせ、これ廃棄だろ。もったいないから、整備して使えるようにしてみようよ。いらなかったら捨てればいいんだし」

 「少尉が教えてくれるのなら、やってみます」

 「それじゃ~、早速バラしてみようか?やってみる?」

 「バラすのくらいなら簡単です。直ぐにやってみます。……いったいどうなっているのよ~。止めネジが見つからな~い」

 「だから言っただろ。これ、普通の技術者がむやみに触ると自信を無くすって。ほれ、貸してみろ」と言って、マキアさんの持っていた工具を取り上げて、説明しながら外していった。

 「こんなの、分かりっこないですよ。どうして、こんな設計がされているのですか?」

 「一応、作った会社の説明ではテロ対策となっているが、絶対設計者の趣味だな」と、わいわいやりながらポンプをバラしていった。

 しばらくすると、出動していたトラックの車列が戻ってきた。

 一度手を停めて、トラックの車列を出迎えた。

 「お帰りなさい」

 「ただいま、ってマキア何やっているんだ」と、シバ中尉が咎めるようにマキアに言葉をかけてきたので、慌てて、「シバ中尉、俺が、懐かしいポンプを見つけて、無理を言って触らせてもらっていました。廃棄処分と聞いて、大丈夫かと思い、捨てる前にせめてきちんと整備をやりたくて、バラしていました」と、言い訳をした。

 するとサカキ中佐が「お前さん、これがなにかわかっているのか?」と声を掛けてきた。

 「ボロロン社製PK-2、別名オンボロ社の『ポンコツ』もしくは『技術者潰し』とも言われている、耐久性などに優れたポンプですね。小官は軍へ招聘されるまで、これの整備もやっておりましたから、せっかく使えるのに、捨てるのは忍びなく、せめてきちんとした状態に戻してからと思いいじらせてもらっていました」

 「お前さんは、これを扱えるわけだな。それじゃ、とりあえずこの1台を使える状態まで戻しておいてみてくれ。廃棄するかどうかは、その結果を持って判断するとしよう」

 「ありがとうございます。しかし、このポンプ、改良前の状態でしたが、使えるようにというと、市場に出回っているように手を入れても構わないということですか?」

 「言っていることが、よくわからないが、市場と同じようにして構わない。要は使える状態に出来るかどうかだ」

 「分かりました」と言って、作業を続けていった。

 「このポンプは、やっぱりアカンやつだったよ。工場出荷そのままの状態で、なんにも手を入れていない。これじゃ~直ぐに壊れる。知っているか?このポンプはひどい不良品で、明らかに設計段階で失敗していたのを、会社が倒産して不良品の山しかない状態でおっぽりだされた職人が、食べるために仕方なく使える状態にまで改造して世に出したのが評価されたんだ。そのため、全く手を入れてない状態で使うと直ぐに壊れる代物なのさ。おそらく、軍のお役人がそこらへんの事情も知らずに安く手に入れたものの直ぐに壊れ、かつ、軍が抱えている技術者には手に負えないのもあって、どこかの倉庫で不良在庫化していたのを、この基地の担当者が騙されて掴まされたんだろう。沢山あるところを見ると、壊れること前提で、あるだけ持たされたんだろう。じゃなければ、6台ものポンプは必要ない。使える状態であれば、1台で1万人くらいまでの水道の供給はできる。現に帝国の田舎の町で使われているのは、1~2万人規模でも1台で済んでいる」などとくだらないことを喋りながら、バラして整備していった。

 周りの工兵隊や山猫のみんなはワイノワイノと言いながら周りではしゃいでいた。

 そこへ、帝都から戻ってきたサクラたち一行が基地に入ってきた。

 「レイラ、あの倉庫前で何やっているの?」とサクラが倉庫前で大騒ぎしている連中を見つけ、レイラに聞いてきた。

 「サカキ中佐達のようですね。でも、なぜ大騒ぎしているか、私にもわかりません。確認してきます」

 「いいわ、一緒に行きましょう。どうせ、サカキ中佐にも聞きたいことが沢山あるから」と言って、そのまま、騒ぎのある倉庫前まで来た。

 そこで、騒ぎの中心にグラス少尉がいるのを見つけ、サクラは顔をしかめた。

 また、何やらあいつが騒ぎを起こしたのかしら……

 直ぐにサカキ中佐を見つけ、やや咎めるように「おじさま、おじさまも一緒に何をやっているのですか」

 サカキ中佐も直ぐにサクラたち一行が帰ったのを確認し、「お帰りなさい、お嬢。いやなに、あそこのあんちゃんが、捨てるはずだったポンプを直せるというので、試しに1台直させているんだが、何かまずかったのか?」

 「アレらはおじさまたちでも直せないから捨てることにしたんじゃなかったの。

 あいつが直せるとでも?あいつはおじ様より凄腕の技術者とでも言うの?」

 「ある意味そうかもしれないな。あのポンプは技術者の間では『技術者潰し』と異名を誇り、まず、普通の技術者には手に負えない代物だ。あんちゃんが言うのには、入隊前まであのポンプの面倒を見ていたそうだから、やらせてみた。直ればめっけもんだ」

 サクラはこめかみの辺りを押さえながら「分かりました。そのまま直すのを許可します。オジサマは一緒に来て、報告があります」

 「わかった。シバ~、この場は任せる。後頼んだぞ~」

 「わかりました~」と言ってサカキ中佐はサクラたちと司令部の方へ歩いて行った。

 「大佐がよく口にする『あいつ』は彼のことかしら…」とクリリンはグラス少尉を遠くから眺めながら独り言を呟いた。

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