第50話 情報統制


「だから、あれほどあいつを放し飼いにしてはダメだと言っていたのよ」

『ブル? そんなこといつ言った??』

「言ってはいなかったわよ。でも、あなただって同じことを感じていたじゃない。『余計なことをしでかしたやつ』と思っていたわよね?言葉の端々に出ていたわよ」

『確かに、このクソ忙しい時に問題ばかり見つけてくるやつだとは思っていたわよ。少なくとも、3ヶ月後だったら、ものすごく優秀だと手放しで喜んだかもしれないけれど、なんでタイミングを考えないかな。とは、思っているわ。まぐれが2度続いただけだとは思うけど、この報告は、無視できないわよ。サクラも皇太子府のお偉いさんあたりから、聞かされているとは思うけど、殿下が中心になって作っているグループの大戦略が既に動いているの。 その最初がジャングルに基地を作り、共和国のジャングルでの動きを探ることだったの。 今、私たちがやっていることね。これを1stステップとすると、予定では来月までに、このステップを終了させることになっていたわ。この計画を情報部で聞かされた時、そんなの無理だと思ったわよ。それと同時に、誰がこの貧乏くじを引くのか興味を覚えたわ。まさか、自分にお鉢が回ってくるとは考えてもいなかったけどね。少しでも、自分の身に降りかかる危険性を感じていたら、早い段階で計画の修正を求めていたわよ』

「着いた初日に聞かされたわ。それと同時にさらに怖いことをおっしゃっていたわよ」

『なにそれ?』

「その1stステップは予定より大幅な前倒しで終了した、次の段階に移る!と、集まっていたお仲間に高々と宣言されたわ。聞いたときに、胃の辺りに痛みが走ったのを覚えてる。あ、また痛くなってきた」

『ま~、予想はできたわね。で、そこまで聞かされているのなら、覚悟はできた?その次の段階も、彼の今日の報告で終了するわよ。殿下に報告しておいてね』

「この報告聞かなかったことにする」

『残念、公式な通信だから記録が取られているわよ。諦めてね。追伸、ローカルの少女だけれど、明日基地に到着する予定。それと、彼女は衰弱しているので、加療の必要があるそうよ。以上、連絡終わります。頑張ってね』

 通信が切れても、サクラは固まったままだった。

「閣下、どうしました?」

 通信担当が固まったサクラに声をかけた。

「今の通信、記録は当然取られているわよね」

「はい、公式通信の全ては記録が取られますので」

「廃棄ってできる。通信を無い事にできないかな~」

 困っている通信担当者に同情したのかクリリンが

「大佐、謀反でもする気ですか?そんなことをすれば、謀略の嫌疑を懸けられますよ。無理に決まっています」

「それじゃ~、閲覧出来る人間に制限かけられないかな」

「閣下、情報の制限なら普通にかけられます。どのレベルをご要望ですか」

「ここにいる人間以外全てに、少なくとも半年の制限をかけたいのですが」

「全て、というのは、侍従頭やそれ以上の方に対してですか?」

「そう、できなければ今言った侍従頭やそれ以上の方限定でもいいわ。その方には絶対に知られたくないもの」

 さすがに呆れた副官のマーガレットが「殿下や陛下への情報制限はありません。それこそ謀略の相談でもない限り、ましてや殿下限定なんて呆れます。旅団長、諦めてください。泥は一緒にかぶります」

 そのやりとりを聞いていた通信担当者が、申し訳なさそうに「あの~、侍従頭には閣下あてに通信が入った段階で『基地からの通信有り』と報告が入っております。この府庁では、職員全てに『閣下へ最大限協力せよ。そのため、私には些細な事柄も報告をあげよ』と厳命されております。閣下関連の通信があれば直ぐに報告を上げておりますので、今日も閣下をお呼びした時には、既に侍従頭への報告も上げておりました」と、サクラに言ったあとに非常に小さい声で「もう、手遅れです」とも言っていた。

 漫才のようなやりとりをしていたら、ありえないことに殿下と侍従頭が二人して通信室に入ってきた。

 サクラたちと会話している担当者とは別の通信担当者が、サクラたちのやりとりをお二人に説明しているのが見えた。

 その様子を発見したサクラは『手遅れ』を悟り、覚悟を決め、殿下に通信の内容を報告した。

 それを聞いた殿下は、大声で「でかした、大佐。本当に君たちは優秀だ。大佐には、過去にも本当によく助けられたが、今回ばかりは、大佐たちの頑張りで、帝国は救われる。大佐にこの作戦のキーマンを勤めてもらって、本当に良かった。フェルマン、直ぐに連絡を入れてくれ、仲間を集めて打ち合わせだ。計画がかなり前倒しになってきている。これでは、計画の修正と各部署への調整が必要になるな。でも、これで大手を振って行政のやつらを使えるようになる。予算も、大幅に奴らに勘ぐられずに増額できる」

「分かりました、殿下。この後の殿下の予定を全てキャンセルさせて頂きます。最優先で、会議を開き調整作業に入ります」と言ってフェルマンさんは通信室を出て行った。

 殿下は満面の笑みを浮かべて「大佐、4日前に宣言した第2弾は計画と違う形にはなったが、終了を宣言し、直ちに次の第3弾に入る。本来だったら、第2弾の段階で、適当なところを探してもらう予定だったが、こうなってはしょうがない。旅団基地のそばに飛行場があったな。そこに隣接するように行政の活動拠点を作るので協力してもらう。これからの打ち合わせで、決め直していくが、大佐には現地で頑張って欲しい。現地の軍人、官僚全てをサクラ大佐に統括してもらう形になるから。頼むな」と殿下はサクラの両肩をバンバンと嬉しそうに叩きながら、サクラにとって、もはや死刑宣告にしか聞こえないようなことを仰っておられた。

 サクラは胃の辺りを抑え、苦しそうに「殿下の希望に沿うよう頑張ります」と答え、後ろに控えていた二人に対して、「明日、基地に帰ります。クリリン、申し訳ないけれど付いてきてね。それと、マーガレットは居残りです。人さらいをよろしくお願いね。期限を1週間上げますから頑張ってね」

 それを聞いたクリリンは「私は既に大佐の秘書官に任命されておりますので、構いません。

 明日、基地に同行させていただきます」と笑顔で返したのとは対照的に顔面を青くし、額をヒクヒクしているマーガレットは「1週間でも無理です。私も基地に連れて行ってください。同じ地獄なら一人より旅団長と一緒の方がいいです」と泣きを入れてきたが、人の悪い顔をしたサクラは首を横に振り「頑張ってね」と言っただけだった。

 『地獄はみんなで見ないと不公平よね。みんなで仲良く地獄へいこう』と心の中で考えていたのであった。

 そんな様子を眺めていたクリリンは別のことを考えていた。

 先ほど通信であった『あいつ』とは誰なのだろうと。

 まだまだサクラの周りには騒動が続きそうだ。

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