第47話 余る人間、足りない人材


 昨日から今日にかけて、帝都の空気を一変させた原因のほぼ全てに関わっている我らがヒロイン サクラ大佐は、皇太子府に用意してもらっている自室で、周りの空気の変化には全く気づかず、最近の彼女のトレードマークになりつつある姿勢、即ち頭を抱え『ウ~、ウ~』と唸っている。

 帝都の陸軍練兵場で新兵に会ってから、正確に言うとその後ヤールセン少佐に電話で怒鳴られてから、今の状態が続いている。

 今は、いつも彼女のそばに控え、何かと彼女を支えてくれている副官のマーガレットはいない。

 彼女は、サクラ大佐を支えるため、健気にも、代理で急進攻勢派の貴族連中との2回目の会合に付き合っていた。

 そのため、サクラの傍で彼女をサポートしているのは、海軍陸戦隊からサクラの秘書官として派遣されたクリリンだけであった。

 サクラの現状を見渡せば、仕事をする上でサクラを支える人材が圧倒的に不足している。

 そして今、サクラを悩ませている問題が、新兵の処遇であった。

 当面の危機は、周りに無理やり押し付けることで、その場を凌げたが、1週間と経たず問題が再発するのは目に見えている。

「足りないのよ。いや、足りないどころか、全くいないのよ。一体どういうことよ。どうしよ~………ウ~  ウ~  ウ~」

「旅団長、何が足りないのですか?」

「配属された新兵1000名の面倒をみる士官が全くいないのよ。尉官が足りないの。サクラ旅団は、花園連隊を母体として発足させられたけど、いきなり大隊規模の1000名の新兵を回されても、彼らを配属させる部隊が無いのよ。部隊が無いなら作ればいいのだけれど、作れないの。作る部隊を統括する士官が全くいないの。とりあえず、彼らは、クリリンのおかげで船に突っ込み、時間は稼げたけれど、それも、船が港に着くまでしか持たないし、無理やりごまかしても、部隊がジャングル方面司令部のあるローリングストリリングスに着くまでの、もって1週間てところかしら、そのあとは、問題が爆発する。クリリンお願い、あなたのところから尉官、それも、ある程度経験のある少尉か中尉をほんの50名ほど無理なら30名でいいのだけれど、借りれないかしら?」

「無理言わないでください。出来る訳ありませんよ。海軍の士官に陸軍の新兵の面倒は見れませんし、第一、人事院が了解出す訳ありません」

「陸戦隊なら、同じようなことするし、大丈夫…かな?と思ったのだけれど」

「それこそ無理です。そもそも陸戦隊には尉官が50名もいませんよ」

「それもそうよね~。どだい無理な話よね。なんで無理ばかり降って湧くのかしら。は~、   どうしよう~」とサクラは、いつものように『呪ってやる~』とブツブツ言いながら頭を抱え唸っていた。

 そのうち、マーガレット副官があの連中との面談から戻ってきた。

「旅団長、連中をあしらってきました。資格のないパイロットを連れてきたので、殿下への不敬で訴えてやる…と追い返してやりました。それにしても、機種転換プログラムの体裁を整えておいて良かったです。なんでも、機種転換評価で資格を得たのが、まだ、彼女たちしかいないそうです」

「それより、今日基地に帰れそうにない。基地への帰還は延期しておいてね」

「どうしました?」

「人がいない。新兵たちの面倒をみる士官が全く足らないのよ。どう見積もっても最低あと15人は必要よ。マーガレットも覚悟して、人さらいの手伝いね。よろしく。あと、さっき言ったけど、延期の件、基地にも伝えといてね」

 サクラたちの詰める部屋にメンバーの3人が揃ったところで、バタバタと仕事をしていった。

 やれどもやれども一向に片付かない仕事に、サクラやマーガレットはもう慣れたが、ここに来て新たに配属された秘書官のクリリンは、陸海軍の違いに戸惑い、苦労しながらも精力的にサクラたちをサポートしていった。

 彼女たちは精力的に仕事をしていく。

 あるものは、資料をまとめ、また、別の人は電話をかけ続け、時間が過ぎていった。

「もう、こんな時間か。一息入れましょう。食事は、取れるときに取らないと食べられないのが私たちのお約束だから、みんなで食堂に行きましょう」と、3人は部屋を出て食堂に向かった。

 途中、皇太子府の中の雰囲気が変わっているのに全員が気づいた。

「どうしたのかしら」

「そうですね。何か変ですね。私調べてきます」と言って、クリリンがみんなから離れ、皇太子府の職員が仕事をしている部屋に向かった。

「私たちは、食堂に向かいましょう。クリリンと行き違いにならないようにしないと。それに、食堂にいる人に聞けば何かわかるかも知れないし」といって、サクラとマーガレットはそのまま予定通り食堂に向かった。

 サクラたちが食堂に入ると、中にいる人たちはかなり慌てている様子だった。

 マーガレットが一人を捕まえて、理由を尋ねると、とんでもない回答が帰ってきた。

 『帝都に戒厳令が発令されそうだ。』というのだ。

 この回答にサクラたちは固まった。

「何が起こっているのよ、今。帝都で、何が起こっているの」と声を震えさせ独り言を呟いた。

 そこに、サクラたちよりかなり動揺した様子で、クリリンが食堂に走って入ってきた。

「旅団長、私、どうしたらいいでしょうか?海軍がとんでもないことになってしまいました。どうしたら…」

 ほとんど泣きながら、クリリンはサクラにすがりついた。

 マーガレットが、なんとか周りの人間を捕まえ問い質し、おおよそのことが分かってきた。

 帝都にいる急進攻勢派の連中と海軍が衝突しそうだというのだった。

「なんで、碌でもない連中が帝都に余っているのよ。こっちは、人材が足りなくて困っているのに。連中が暴発するのなら、他で勝手にやって頂戴。こっちに迷惑をかけないで~」

 叫んでいたサクラだった。

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