第40話 ヘタレで悪かったな

「以上、報告を終わります」

 旅団司令部にて、アプリコットがレイラ中佐に、索敵、ジャングル内の捜査および少女サリーの保護についての報告を要領よく済ませたところであった。

「グラス少尉からは、今の報告について、何か補足するところはありますか?」

「いいえ、ありません。彼女の報告は要点をよくまとめられており、それ以上の報告はありません」

「分かりました。あとで、書面にて報告書を提出してください。別命があるまで、基地内にて待機を命じます。解散して構いません」

 やっと、レイラ中佐から解放されたので、アプリコットと二人で司令部から退出した。

「俺は、サリーの様子を見に行くけど、マーリンさんはどうします?」

「少尉、そのマーリンと呼ぶのはやめてください。軍の規律が乱れます。メーリカ軍曹に対しても、きちんと階級などで呼んでください。

 お願いします」

「どうにも、慣れなくて、なかなかマーリンさんの要望には答えられないが、おいおい頑張ってみるよ。それで、これからどうします?別に命令ではないので自由にして構わないが。無理して、一緒に来る必要はないけど」

「彼女は風呂に向かったんですよね。また、覗きですか。少尉を一人にすると何するか分かりませんから、ご一緒します。覗きはさせませんが」

「する訳無いだろ。君は、俺のことを完全に誤解している。いろいろ、嬉しい、違った、不幸な事故はあったのは否定しないが」

「少尉」

「ま~、そんなに怒らないで、どちらにしても、サリー一人を風呂に入れていたのだろ。もう上がっているよ。俺が向かうのは、救護所のセリーヌさんの所だよ。サリーの様子を聞きたくて。で、どうする?」

「ご一緒させていただきます」

 司令部の廊下を歩きながら、いろいろ誤解しているアプリコットの認識を変えるべく、説得??を試みたが、どうにも効果が上がっていないようだ。

 これからも、諦めず、頑張っていこうと心に決めた。

 その頃、司令部では、レイラ中佐が、無線で、帝都にいるサクラ大佐と話し込んでいた。

 時折、こめかみを押さえながら、厳しい顔をして、唸り込んでいるのが、周りにいる幕僚たちに印象づけられていた。

 今は、カオスだった司令部が落ち着いているが、これは単純に人が大方出払っているためであり、みんなが戻ってきたら、これまで以上のカオスが訪れることは容易に予想され、残っているメンバー全員が、戦々恐々としている。

 俺たちが、救護所のある建家に入ると、すぐに衛生小隊長のセリーヌ准尉に出会った。

 すかさず、彼女を捕まえ、サリーの様子を伺った。

 彼女が言うには、サリーは殊の外元気になってきたようで、しばらく休ませたら、すぐに元の健康な状態まで回復するそうだった。

 その後すぐに、セリーヌ准尉から、質問を受けた。

「グラス少尉、どこかで医療関係の仕事でもしていたのでしょうか?報告書を読ませていただき、捕虜の時も感心しましたが、サリーの時の応急措置は見事でした。そのおかげで、回復も早かったように思えます」

「別に、医療関係の仕事はしたことはないよ。学生時代に、学校で応急措置の講義をいくつか聞いたくらいだった。あとは、いろいろ耳に入る雑学からかな」

「それは、それは。私、捕虜の扱いに関して、サクラ旅団長から質問されたのですよ。いくら捕虜といっても、いきなり裸にしていいはずがありませんから。グラス少尉は捕虜を虐待していたのでは?と、旅団長たちが疑っていたようでした。でも、今のお答えだけで完全に納得したわけではないのですが、グラス少尉が応急措置の知識を持っていたことは理解できました。私が、旅団長たちにお答えした内容に誤りがなくてよかった」

「聞くのが怖いのですが、セリーヌさんはどのようにお答えしてくださったのでしょうか?」

「低体温で意識までなくなっている人は、できるだけ速やかに体温を上げなくてはなりません。少尉の行った行為は、女性としては、いろいろ思うところもありますが、一刻の猶予もない状態ならば、あの行為は理にかなったものだと説明しました。実際に、帝国の冬山での訓練等で時々発生する低体温の兵士たちも、服を脱がせ、お湯につける治療を私自身が手伝ったこともありますから。もっとも、患者さんたちは皆男性でしたが」

「いろいろ、ご迷惑と私の名誉を守って頂きありがとうございました。あの時は、必死でしたので、あれしか思いつかなかったものですから。それより、サリーの様子は、先ほどの説明では問題なさそうですね。面会できますか?」

「状態は、問題ありません。しかし、与えた薬の影響からか、今、救護所のベッドで寝ています。面会は、彼女が起きるまで、待ってください」

「分かりました。次の食事時にでも会いに来ます」

「そうですね、それがいいでしょ。起きたら彼女に、少尉が会いに来たことを伝えときますね」

「よろしくお願いします」

 といって、我々は、救護所を出た。

 アプリコットは、俺とセリーヌさんとの会話を聴いて、少し、彼女の持っていた誤解が解けたような表情をしていた。

「少尉、すみませんでした。あの時の行為は、医療行為だったのですね。私、誤解していました」

 急に謝ってきたので、俺はどうして良いものかわからなくなって、

「誤解が解けて何よりだ。今思うと、うら若き女性たちだ。もう少し、何らかの配慮があっても良かったかも。でも、本当に、あれしか思いつかなかったから、しょうがない。正直、やましい気持ちが全くなかったかと言うと、自信がないのもある。方法としては選択肢がなかったが、役得だと思ったのも事実だ」

 言わなくてもいいものを、最後に余計なことまで話して、尊敬の眼差しを向けていた、アプリコットが、また、いつもの冷たい目を向けてきた。

 フン、どうせ俺は『ヘタレ』だよ。

 急に美人から持ち上げられると、どうしようもなくなるのだから、しょうがないだろ。

『ヘタレ』で悪かったな!フン!


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