第39話 俺だけじゃない

 もう直ぐ基地に到着する。

 先程、無線で、レイラ中佐に連絡も入れた。

「基地ゲートが見えてきたぜ。ん、何か、出かける時と雰囲気が違うような。何があったのだろう?」

「やだよ、また、銃口を向けられての帰宅は」

「いや、あの時とは逆の雰囲気だよ」

 運転席のメーリカさんとの会話であった。

 前を見ると、出かけるときにゲート前に居た、ごっつい人たちの姿が見えない。

 確か顔にいかつい傷のあるトーゴ大尉とその部下たちが、いつもゲート前を警戒していたはずなのだが、今日に限って、にこやかな美女たちがゲート前で待ち構えている様な。

 夢でも見ているのかな?苦行で、悟りでもひらいて、桃源郷にでも入ったか?

 なんてふざけた空想をやめ現実に帰り、よくよく見ると、確か衛生小隊のセリーヌさんとその部下の人たちだよな?

 そうか、先ほど入れた無線で、レイラ中佐が少女のために出迎えを頼んでくれたのだな。

 弱っている少女がいきなりトーゴ大尉たちを見たら引きつけを起しかねない。

 俺でも、暗闇で合えば、引きつけを起こしそうだったもの。ありがたい。

「ゲートに着いたよ」

 少女を連れて、車を降りたら、また、驚いた。

 なんで、少尉の出迎えに、現在最高位のレイラ中佐がいるのだよ。

 アプリコットを連れて、中佐に慌てて報告に上がった。

 レイラ中佐は、手で優しく報告を止め、セリーヌ准尉と少女のもとへ行き、少女を優しく観察し、少女をセリーヌ准尉に任せた。

 俺は、すぐに悟り、少女に「サリーは、まだ、元気になっていないだろ。このお姉さん達が、サリーを元気にしてくれるから、このお姉さんたちの言うことを聞いて、早く元気になってね。俺たちは、そばにいるから心配ないよ。お仕事を済ませたら、すぐに会いにいくから、大丈夫だよ。わかった?」

「サリーちゃんというのか。私、セリーヌというのよ。よろしくお願いね。これから、足の傷や、体のだるさを治していくから、付いてきてね」とセリーヌ准尉がサリーに優しく問いかけた。

 サリーは不安そうな顔をしたが、すぐに頷き、セリーヌたちについていった。

 本当に賢い少女だ。

 不安がないわけないのに、一瞬で、味方かどうかを判断できるのだから、大したものだ。

 セリーヌ達がサリーを連れて行ったので、改めて、レイラ中佐のもとに行き、帰還の報告を上げた。

「グラス少尉率いる仮設小隊ただいまを以て、基地に帰還しました」と、いつものように横に居るアプリコットが報告をしてくれた。

 も~、いっそのこと彼女に任せ、俺は何をしよう?

 でも、彼女の方が絶対隊長に向いていると思うのだよな~。

 俺、いらなくね。

 いらないなら、帝都に返してほしいな。

「グラス仮設小隊の帰還を確認しました。これより、ジーナ他、現地で合わせた隊員のグラス小隊への合流をときます。ジーナ准尉他、前の職務に戻りなさい。グラス少尉、君の小隊には、基地内での待機任務を命じます。なお、少尉と准尉には悪いけど、引き続き報告を受けたいので、このまま私について司令部まで出頭を願います。以上」と言うと、レイラ中佐は旅団司令部の方へ歩いて行った。

 ついていこうとする俺を、アプリコットが捕まえて止め、山猫のみんなに対して、

「これより、隊長権限により、グラス小隊長の別命があるまで、基地内での待機を命じます。解散」

 アプリコットは俺名義の命令?を出し、山猫さんたちは三々五々散り始めたが、後から合流組はこの命令を聞いて目を点にして驚いていた。

 軍では、絶対にありえない命令であったから、その場で、動けずにいた。

「さ~、俺たちも移動しようか、早く報告を済ませ、サリーのそばにいてあげたいからね」といって、歩いているサリーたちを見た。

 そのサリーであるが、衛生小隊が場所を確保しているはずの建家に向かうのではなく、風呂のある仮設テントに入っていった。

「あれ~、救護所に行くのではなく、まず、風呂に入れるのかな。今度は、少女の服を剥いて裸にするのは、俺じゃなかった。裸に剥くのは、俺だけじゃないじゃないか」とアプリコットに言ったら、急にアプリコットを含む周りの女性たちの視線が冷たくなった。

「少尉、何をくだらないことを言っているのですか。早く行きますよ。遅れると、レイラ中佐に怒られるのは少尉だけじゃないのですから。急ぎますよ」と言って、俺の手を掴み、早足で歩きだした。

 ジーナがこの光景を見ながら、メーリカ軍曹に

「あれ、大丈夫なのですか?」

「いい組み合わせだね~、あの二人。大丈夫、大丈夫。いつものことだよ。あのふたりの組み合わせが、いいんじゃないかな。なんか、今回の件も基地を上げて大事になっているようだし、多分、功績として、上から評価されるのじゃないですか?理由は分かりませんけど」

 通信を担当していた兵士も

「そー、そー。山猫さんたちが、基地に到着した時も、すごいことになっていましたからね。到着前も大騒ぎでしたが、到着後の司令部は、帝都とのやり取りで、基地の上層部がすごいことになっていましたから。なんか、今度も同じ空気を感じます」

「それじゃ~、私たちも評価されますかね~。ボーナスが出るとか。楽しみにしていましょ」

「私たちはどうか分からないが、グラス少尉は、勲章くらいは、出るんじゃないかな~」

 すると、山猫の兵士が「じゃ~、隊長が勲章もらったら、隊長にごちそうしてもらお~よ」

「「「いいね~。そうしよう~」」」

 それらの会話を横で聞いていたジーナが率いた分隊の兵士たちは、「山猫さんたちも、大丈夫なの?山猫さんたちの態度も、絶対にありえないよね」

「というか、基地で、こんな会話を聞くとは思わなかった。それに、アプリコットの性格変わったかも。士官学校時代には、あんなんじゃなかったもの」

 と、ジーナがぼそっと呟いた。

 ……

 しばらく、その場で固まっていたジーナが何かに気づいたかのように

「さ~、仕事、仕事。まだまだやることは沢山あるから、仕事に戻るわよ」

 今度は全員が三々五々に散っていった。

 丁度、出迎えで隠れていたトーゴ大尉たちがゲート前につくのと入れ替わりに。

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