第36話 ジャングルの奥地へ
「3日で結構来たな」
「そうですね、あれから3日で350kmくらいは来たでしょうか」
「ジャングルの中間は昨日の時点で過ぎたようだし、この先は、敵の哨戒地域になってそうだな」
「敵との遭遇リスクが増大するか。どうしようかな。我々への命令は、調査隊の安全確保のための敵の存在の確認だし、かと言って、今から引き返しても中途半端になるし、悩みどころだな」
「小隊長、バイクより通信です。野営出来るポイントを見つけたそうです」
「少し早いが、そこで今夜は野営しよう。いつものように、ポイント周囲10kmの索敵をお願いします。と連絡をしておいてくれ」
「バイクより、返信です。了解しました。索敵後に合流するそうです。一台がこれからお迎えに向かいます」
「着いたら、みんなで夕食の準備でもしておくか。夕食の時、みんなが集まったら、これからのことについても相談しておきたいし、野営ポイントに向けて車を進めてくれ」
『相談』???
ジーナは『相談』に違和感を持っていた。
士官学校入学から、今まで、もしかしたら聞かなかった言葉かも知れない。
およそ軍にいればなじまない言葉の筆頭に挙げられるのではないか。
少なくとも、自分より下位の者に対してありえない言葉だ。
違和感を持って、周りを見渡したら、周りの反応が2通りあるのに気づいた。
山猫分隊は、当たり前のようになんにも反応していないが、新たに加わったメンバーは一様に違和感を持っている様だった。
唯一、アプリコットだけは、呆れたような、困った様な反応だった。
これも信じられない光景だが、准尉が少尉に対してお小言を言っているのだった。
「ちょっと、アプリコット、大丈夫なの?」
心配になったジーナが同期のアプリコットに声を掛けようとしたら、運転中のメーリカ軍曹が、「准尉、いつものことなので大丈夫ですよ。アプリコット准尉のお小言がなければ、もっとひどいことになっていますよ」
ジーナは、この部隊はどうなっているのだと、自分たちの先行きも含め少し心配になってきた。
少尉の任官の原因が自分の父親であり、彼に軍人の素養が全くないことは既に知っていたが、ここまで酷い、……訂正、ここまで個性的であったのには驚いた。
ジーナとメーリカとの会話をほかの違和感を持っているメンバーも聞いていたようで、とりあえず、このまま様子を見ていこうという雰囲気になっていった。
そうこうしているうちに、今夜の野営ポイントに到着し、メンバーはそれぞれに、野営のための準備を始めた。
ここの小隊は、信じられないことが多々発生する。
今に始まったわけではないが、野営のたびに、小隊長自ら、夕食の準備を手伝ったり、飲み物の用意をしたりしていた。
未だに、これには慣れない。
軍の野営というより、仲間内でのキャンプといった雰囲気すらある。
夕食の準備が整った頃に、付近の哨戒をしていたバイクも戻ってきた。
これから全員で一斉に食事を取る。
これも、問題で、いくら付近10kmを哨戒済とはいえ、歩哨も立てず、全員での食事は無用心であると感じている。
これには、アプリコット准尉も同意見のようで、毎回食事のたびに小隊長に意見しているが、不思議なことに、こればかりは、小隊長は頑なに変えない。
確かに、一堂に全員が集まれば、情報の共有が漏れなく出来るメリットはある。
しかし、いつ敵襲があるかわからない前線での食事にしては、無用心にも程がある。
一体何を考えているのだろう。
私たちより付き合いの長い(といってもほんの数日程度ではあるが)山猫の皆さんは、すっかり馴染んでいるようで、違和感を感じていないようだった。
そろそろ食事を終えそうになる頃に、小隊長が「ちょっと聞いて欲しい」
全員が小隊長に注目する。
「昨日の時点で、ジャングルの中間地点を超えたようで、そろそろ敵の哨戒エリアに入ろうかというところまで来ている。俺たちの受けた命令は知ってのとおり、下流に展開している調査隊の安全のための索敵調査だ。既に、その目的は達していると思う。しかし、今戻っても中途半端なことになるし、どうしたものかと考えている。どうせ、今後の俺たちの仕事は、このジャングルでの仕事が主になることだし、ここいらでレゾール川から離れて、ジャングルの内部を調査してみようかと考えているのだが、どう思うか聞かせて欲しい。今後の参考にしたい」
「隊長、勝手に命令を変えて大丈夫なのですか?」と山猫分隊の兵士が聞いてきた。
「命令を変えるわけではない。1~2日ジャングルを抜けて、基地の方向へ進もうと考えているだけだ。迷うようなら、2日後、来た道を戻って帰れば、期日までには帰れるし、そのまま基地に向かえるようなら、付近を調査しながら帰ればいいだけだから、十分に命令の範囲内と考えるのだが、意見があれば聞かせて欲しい」
別の兵士が「そのまま来た道を戻るわけにはいかないのですか?」と聞いてきた。
「そのまま戻れば、2日くらいで墜落現場に戻れるだろうけど、そうすると現場は、まだ調査中だし、途中から我々が加わると邪魔にされそうなので、気持ち的には帰りたくない」
すると、メーリカが「確かにそうですね。途中からだと、調査の邪魔にこそなれ、我々じゃ役に立たないことは明白ですよね。アプリコット准尉はどう考えますか?」
「この先、同じリスクを犯すのならば、少尉の提案に賛成です。戻っても邪魔になる話も頷けますし、連絡だけしておけば問題ないと思います」
「問題があれば、連絡を入れた時点で呼び戻されますし、私も隊長に賛成です」
皆から概ね賛成を得られたので、定時連絡の時に今後の予定を伝えたところ、本部からも了承が得られたので、明日朝一番で、レゾール川から離れ、ジャングル内に入っていくことにした。
それにしても、相談しても、いつも同じ山猫のメンバーしか発言がなく、ジーナ准尉率いるメンバーは、驚いた表情しか浮かべてないのはなぜだろう?
残念で仕方がない。
もっと、活発に意見を交わして欲しいのだが、同期のアプリコットに今度相談してみよう。
「では、歩哨を交代で、お願いします。決して無理はしないでください。明日も、朝一番で出発します。歩哨に当たる人以外は解散です。明日も、よろしく」
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