第33話 索敵に向け出発
指令車の前に山猫分隊とジーナのチームそれに通信兵と整備兵の2名が整列した。
俺とアプリコットがみんなの前に立ち、その後ろにレイラ中佐、サカキ中佐の両名が控えている。
授業参観を受けている子供の気分だ。
とても居心地がよろしくない。
できるだけ早くここから逃げ出そう。
そんなくだらないことを考えていると、流石よくできた副官である。
アプリコットが、今までの経緯をみんなに要点を整理して、とてもわかりやすく説明をしていた。
新たな配属に関しても説明を終えたところで、「小隊長のグラス少尉から一言あります」と、アプリコットが余計な心遣いをしてきた。
そのまま勝手に進めてもらった方が物事がスムーズに進むのに、全く困ったものである。
上官が二人もいるのに何もしないわけにも行かず、「これから進むジャングルには、何があるか分からないので、くれぐれも安全には留意するように。『安全第一』でお願いします。移動中の怪我も労災になりますので、移動に関しても十分に注意して、みんな元気に帰ってきましょう」
この場合通勤災害になるのかな。出張移動中だから違うか。
後ろで聞いていたサカキ中佐が吹き出していた。
レイラ中佐は呆れ顔でこちらを見ていた。
メーリカが俺の挨拶の後、直ぐに「少尉、労災ってなんですか?」と聞いてきたが、レイラ中佐が呆れて、すぐにでも出発しろといった仕草をしていたので、それぞれ、持ち場に散っていった。
まず、バイク2台を先行させ、指令車が通れるルートを捜索させてから、そのルートを指令車で走る作戦を取った。
バイクでの捜索を1時間行った後、1台は戻って、ルートの案内をさせる。その間もう1台は、先行してその先のルートを捜索し続ける。
捜索前と違い、戻りには時間ロスが少ないため、1時間の捜索ルートを案内に従って車を走らせ、そこで、バイクの乗員の交代し、先行のバイクを追いかける。
スタートから2時間で、先行していたバイクを戻し、以後同様に交代しながら進んでいく。
付近の索敵は原則指令車乗員が移動しながら行っていく作戦である。
スタートから最初の1時間ちょっとの間、指令車は動けないが、この方法の方がロスが少なく、より短時間で遠くに行けるためである。
バイクを出発させ、指令車の出発までの1時間少しの時間を利用し、残った者で、物資の補充や、野営のための資材の確保に走った。
我々の中で、一番ジャングルに慣れている山猫分隊にバイクを担当させ、ジーナのチームに指令車からの索敵を担当してもらうことにした。
通信兵、整備兵はジーナに面倒を見てもらうようにするため、ジーナを仮の分隊長として、チームのベテラン兵士3名と追加の2名の5名を率いさせて6名の分隊を作った。
これで、格好だけは小隊となった。
整理すると、
山猫分隊:ルートの捜索及び早期警戒担当
ジーナの分隊:指令車の警護及び索敵
アプリコット副官:小隊の管理運営
小隊長の俺:ガヤ担当(邪魔にならないように余計なことをしない担当??)
俺の部分だけがとても不満が残るが、俺の実力ではしょうがないので、我慢するが、これで立派に小隊が機能しそうである。
指令車への補充も済み、先行のバイクの帰還を待つだけになった。
指令車では、指令車の屋根上に警戒用のスペースがあり、ジーナのチームに所属している兵士がその場所の確認と、非常時に直ぐに戦闘に入れるように準備していた。
ジーナとアプリコットは、やっと時間にゆとりができ、二人で話し込んでいる。
指令車はメーリカが運転するようで、運転席に座り、エンジンを掛けていた。
外から、整備兵がメーリカと話し込んでいる。
準備万端でバイクを待っていると、
バイクが出発して1時間15分で、最初のバイクが戻ってきた。
「さ~、お出かけするよ。みんな、車に乗り込んで。準備できたら出発だ」
「少尉、もう少し、どうにかなりませんか?幼稚園児の遠足に行くわけではないので、士気を高める工夫をしてください」と、恒例になりつつあるアプリコットのお小言をいただいて、車を発進させた。
ジーナが不安そうに、山猫の兵士に「この小隊では、いつもこんな感じですか?この小隊の規律はどうなっているのですか?」
「だいたい、いつもこんな感じですかね。規律が緩いかどうかわかりませんが、私たちが今までいたどの部隊よりもここは居心地がいいですね。ま~、今まで経験してきたところが酷すぎたのかもしれませんが、隊長は私たち一人一人を大事にしてくれてますし、何よりこのメンバーで素人を4人引き連れて、ジャングルを100km抜けてきましたから。それに、人命救助と捕虜の確保。実績だけは、どの部隊にも引けは取りませんから、いいのではないのですかね」
それを聞いていたジーナのところのベテラン兵士が「確かに、あれは凄かった。昇進、叙勲ものだよ、普通ならば。何でも、捕虜の一人が共和国の英雄の一人だそうだ。旅団長が戻ったら、すごいことになるかもね」
運転しながら、メーリカが「いいんじゃない?うちの隊長普通じゃないから。なんでも、入隊からして、普通じゃなかったらしいよ。ね、隊長?」
「ごめん、何が普通かわからないよ。俺は、今まで常識に沿った対応をしてきたけれど、なぜかしら、みんなとずれるんだよな。ま~、諦めてくれ。こればかりは、慣れてもらうしかない。これから1週間の付き合いだが、よろしく頼むよ」
「何が、『よろしく』ですか。女性を裸にしたり、風呂を覗いたりのどこが常識ですか。少尉にはもう少し常識をわきまえてください」
アプリコットはまだ、風呂の事件を怒っているらしい。
でも、どれも俺は被害者だ。
敵の女性を裸にしたのだって、緊急避難処置でしょうがない。
あれしか、方法が思いつかなかったのだが、ほれみろ、新たに合流したみんなが引いている。
アプリコットの一言で、ドン引きだよ。
この空気どうしてくれる。
「ワハハハ!准尉、それぐらいで少尉を許してやったら。それに、風呂の件は男性入浴中に私たちが乗り込んだことだし。この場合には、私たちが覗きの犯人ですよ」と、メーリカが運転しながら豪快に笑い、アプリコットをなだめていた。
「准尉、申し訳ありません。私、知らなかったものですから。私が見たときには既に看板が女性に変わっていましたし。本当に、ごめんなさい」と、准尉を無理矢理風呂に連れ込んだ女性兵士が、准尉に謝っていた。
それらのやり取りを聞いていた合流組は、やっぱり引いていた。
どうしてくれる、この空気、ただでさえ、女性ばかりの小隊で、俺は耐えられない。
そこまで、心臓は強くない。
『ヘタレ』
ほっといてくれ、どうせ俺は『ヘタレ』だよ。
車の中は、言いようのない雰囲気であった。
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