第32話 グラス小隊の増員

 俺たちは、レイラ中佐と別れ、ジーナ率いるチームを率いて、乗ってきた車の前まで来た。

「アプリコットさん、悪いけどみんなをここに呼んできてもらえるかな。新しい仲間を紹介したいから」と言って、合流するジーナのチームの構成員の人事資料をアプリコットから受け取った。

 彼女は、資料を蒼草に渡し、直ぐにメーリカが哨戒しているところまで走っていった。

「あ…」

 走り出すアプリコットを見て、ジーナが思わず声を上げていた。

 彼女は、アプリコットと話したそうにしていたが、なかなか機会がなく、また離れていくのを見て思わず声を上げたようだった。

 資料を見ながら「アプリコット准尉は直ぐに戻りますよ。移動中にいくらでも話す機会はあります。俺の隊は私語が多いので、普通の会話程度なら大丈夫ですよ。え~っと?」

「ジーナです。少尉。ジーナ・トラピスト准尉です。よろしくお願いします。」

「え!!もしかして、ジーナさんは、あのトラピスト伯爵のお嬢さんでしたか?ひょっとして、俺を殴りつけた、あの、お嬢さん?」

「え~!少尉は、あの時の点検員さんですか?まだ、生きていたのですね。良かった。」

 どこかで、見た記憶があったが、あの時のお嬢さんでしたか。

 あの時は、殴られ、直ぐに記憶が飛び、お嬢さんを見たのは、そのあとの謝罪の時だけだったので、あまり顔を見ていなかったので覚えていない。分からなかったとしてもしょうがない。

 多分、彼女も同じだろう。

 そのため、今まで何度も顔を見ても分からなかった。

 ま~、うじうじ考えてもどうしようもないことだが、よりによって俺の部下になることはないだろ~

 やりにくいこと甚だしい。

 ん~~??

 それにしても、最後の彼女のセリフに、ありがたくない物騒な物が入っていたが?

「生きていた??どういうこと?」

「この基地に配属される直前に、見送りに来ていた母が教えてくれました。父が、激怒して、あなたを『殺してやる』と叫んでいたそうです。それで、無理矢理あなたを軍に入隊させ最前線に送ったと教えてくれました。その際に軍関係者があなたの適正を見て『最前線なら、ま~三日と持たないだろうな。後方勤務でも、良くて半年持てばいいのでは。どちらにしても、彼は軍では長く生きられないよ』と母に教えてくれたそうです。それを聞いた父は、とても喜んでいたとか」

 あまり聞きたくない情報を彼女は教えてくれた。

 また、続けて「それを聞いて、少し心配していました。もう2度と会えないだろうけど、生きて会えたらもう一度お詫びしないと、と思っていましたから。父のせいで、あなたにご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ここであったのも、何かのご縁でしょう。私ができる限りお守りしますので、生き抜いてください。」

 彼女、かなりひどいことを言っているけれど、その自覚がないのだろう。

 でも、彼女なりの誠意を感じたので『良し』としよう。

「軍に入った経緯が経緯だけに、とんでもないことは予想できた。それに、既に今までひどい目に遭ってきたよ。ま~頑張って生きていくけどね。俺まだ死にたくもないし」

 ジーナと話し込んでいるところに、レイラ中佐がサカキ中佐と幾人かの兵士を連れてやってきた。

「うちの若いので、最新式の無線を扱えるのを連れてきた。役に立つから、しばらく面倒を見てくれ。それと、ここまで同乗していた整備担当もそのままよろしく。」

 突然サカキ中佐がグラス少尉に言ってきたので少尉がフリースしていると、今度はと、レイラ中佐までもが「この先何があるかわからないので、あなたの隊の強化の為の増員を考えたのよ。無線兵、整備兵の二人もあなたの隊に配属させるわ。今回の人事は、調査のための緊急配転のため、帰投まであなたの小隊勤務とします。正式な小隊編成は、サクラ旅団長が戻り次第きちんと整備します。増員を含め、小隊内編成は自由に任せますので、無事の帰投を祈ります。」と言ってきた。

「分かりました。心遣いありがとうございます。頑張ってきます。」

 俺、今まで立派に社会人をやってきたので、激励にきちんと答えたつもりだったのに、レイラ中佐、サカキ中佐が苦笑いしている。

 やっぱり、軍のお偉いさんの対応はアプリコットさんに任せよう。

 そうこうしていると、アプリコットがメーリカたちを連れて戻ってきた。

 バイク組もすぐそこまで来ていた。

 全員が揃ったところで、彼女たちに命令を伝え、出発するとしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る