第31話 調査隊 現場に

「へ~、結構スピード出ていない?来る時とは随分違うのだな」

「轍も残っていますし、一度通ったとこなので、まだまだスピード出せますよ。

 バイクなら、今の倍は軽く出せますよ」

「それなら、バイクに連絡して、無理のないスピードで、周りの警戒はいいから、先行して目的地に向かって、現状の確認をしてもらって」

「無線連絡しました」

 車の周りを警戒していたバイクの2台がこちらに向かって手を振ってから、スピードを上げた。

 思わず、俺も手を振り返したら、周りから『ジト目』を返してもらった。

 振っている手の所在がないので、頭を掻きながら「本当に、えらい違いだ。三日、移動の正味は二日かかったが、あの二日はなんだったのだろう。この分なら後3~4時間で着きそうだな」

「そうですね。でも、ルートが分かっている場合には、よくあることですよ。自動車に乗っていることもありますし、割とすぐに着きますね」

「時間距離って、簡単に変わるのだな。ルートさえわかればジャングル走破って簡単にできるのかも」

「そんなに簡単にジャングルを移動できたら、苦労はしませんね」と、車を運転しているメーリカと軽口を叩いていたら、今まで機嫌悪そうにだんまりをしていたアプリコットが急に『ハッ』とした表情をして、「同じことが敵にも云えますよね」

 それを聞いたメーリカも、何かを悟ったように「あの現場まで知られていることはないだろうけど、近くまで知られていたら以前少尉がおっしゃっていたように、敵もあそこに来ているかもしれませんね。事件から4日はたっていますし、敵との遭遇に注意を払う必要がありますね」

 ここまで聞いて、やっと彼女たちが言っている意味を理解した俺は、後ろに控えている無線担当に「先行のバイクに連絡して。索敵に十分注意して、もし、敵の気配を感じたら無理せずにすぐに引き返してもらって。安全第一でお願いします」

「バイクから了解をもらいました」

「こちらも、十分に注意しましょう。屋根の上で警戒してもらっている隊員もわかった?」

 一連のやり取りを横で聞いていたメーリカの顔がにやけてきた。

 今までについた上司は、全て自分の功績向上のために無理な命令はしてきても、一回も彼女たちを気遣う命令はしてもらえなかった。

 しかし、今度の上司は、出会ってから出される命令やお願い??がおよそ軍人の出すものと違って戸惑いはしたが、ほとんどすべて、彼女たちを気遣い、安全に配慮したものだった。

 そもそも、部下に対して『お願い』など軍ではあり得なかったのだが、グラス少尉は命令よりもお願いの方が多かったので、なんだか嬉しくなってきたのであった。

「「了解」」

 と外に出ている部下からも返事をもらった。

「レイラ中佐にも連絡を入れておきます」

 と、アプリコットが提案してきたので、その場で了解した。

 暫くすると、この調査隊を率いているレイラ中佐から、『先行して敵の存在を確認せよ』という命令を受けた。

 メーリカが言うにはまだ、速度を上げられるそうなので、先行しているバイクに少しでも追いつけるように、安全が確保できる限界までスピードを上げてもらった。

 時速50kmくらいまでは出せているようだ。

 その代わり、車内はミキサー状態で、会話もままならない位揺れている。

 もし、ここでリバースしようものなら、彼女らに何をされるか分からないので注意しよう。

 そうこうしているうちに、川原に出た。

 川原では、もう少し、速度を上げられるので、限界まで速度を上げた。

「後1時間もしないうちに着きます」とメーリカが報告してきた。

 先行のバイクからは「現着した」との無線連絡を受けたので、すぐに無線のマイクを取って、「さっきもお願いしたけれど、少しでも危ないと感じたら、こちらに戻ってきてね。勝手に、深入りして調査などしないで。わかった?くれぐれも『安全第一』でお願いしますよ。この『安全第一』は、命令だからね」

「少尉、そんな命令などありません」と、呆れ顔のアプリコットが言ってきた。

 けれど、顔が笑っている。

 さっきまでの不機嫌顔はなくなっているので、嬉しくなってきた。

 このまま、何もなければいいのだけれど。

 これ、フラグではないからね。絶対フラグなどではないから、何も起きないと強く自分に言い聞かせた。

 くだらないことを考えていると、見覚えのあるところまで来ていた。

「もう少しでつきますよ。バイクからは何か言ってきた?」とメーリカが無線担当に聞いてきた。

「敵の気配は全く感じません。2日前のままだそうです。このまま、墜落現場まで行くそうです」

「了解」

 安心して、進めることに安堵した。

 現着して、付近の警戒を手分けして行っていると、レイラ旗下のバイクが数台到着して、現場を確認し、レイラ中佐に無線連絡を入れた後、本隊を迎えるべく半数が引き返して行った。

 残りは、協力して、現場の警戒に当たった。

 2時間ばかりした後、本隊が到着した。

 到着後すぐにレイラ中佐はトラックから降り、こちらに向かってきた。

「アプリコット准尉、あなたの言うとおり、警戒は必要ね。付近の警戒は連れてきたバイクにやらせるとして、少しでも早く敵を捉えたいので、あなた方で、上流の探索をお願いね」と言って、グラス少尉が率いる隊員たちを見た。

「ん~」といって、レイラは少し考え、

「ジーナ准尉、部下を連れて、ここまで来てちょうだい」

 ジーナは部下3人を連れてレイラの元に出頭した。

 彼女はここで初めてアプリコットと再会した。

 彼女の同期は既に会話を交わしていたが、ジーナだけはめぐり合わせが悪く、今まで、アプリコットとあっていなかったので、彼女を見つけたジーナは大きく驚き、かつ、再会を喜んだ。

「ジーナ准尉、あなたのチームはそのまま、グラス少尉の小隊に合流して、彼の指示に従ってください」

「了解しました。これより、私の率いるチームはグラス少尉の小隊に合流します」

「グラス少尉、彼女たちを入れ、これより上流の索敵を命じます。期間は1週間、我々本隊と別れ、上流を索敵してきてください。期間後1両日中に基地に帰還することを命じます。定期連絡は、規定通りにお願いします」

 いつものごとく、アプリコット准尉が

「グラス少尉率いる小隊はジーナのチームを合流させ、直ちに索敵調査に向かいます」といって、すかさず敬礼をした。

 それを見て、慌てて彼女の真似をしたのは、恒例となってきた。

 それら一連の流れを見て、レイラは呆れ顔だが、何も言わず、諦めていたようだった。


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