第30話 機種転換

「機長~、機長~、クランシー機長、この輸送機、すごいんですよ。航法用の専用スペースがあって、専用の計算機や天測用の装置まで据え付けてあります」とても興奮した輸送機操縦士見習い兼航法士のキャロットが嬉しくてたまらない表情で、丁度、新型輸送機の副操縦士に連れられて、コックピットに入ってき機長に報告をしてきた。

「この輸送機は、帝国初の渡洋機として開発され、二日前に正式に『北斗』という名で採用が決まった飛行機です。帝国は、この実験機を元に戦略機構想を描いており、ゆくゆくはこの後継機のひとつに渡洋爆撃機も生まれることでしょう。そのために必要な装置は、全て組み込まれています」とギャレーを担当していた士官が説明してくれた。

 機長は新型輸送機『北斗』試作機の外周点検を、副操縦士に説明を受けながら済ませ、これから操縦機器等の説明を受けるところだった。

 基本的には、今まで操縦してきた機体と変わらず、けれども、全ての項目においてはるかに進化しており、ただただ感心していた。

「これならば、今までより随分楽に操縦できそうだな」

 この意見に同意を示した機関士も「機関士の仕事もほとんど計器類の確認だけで済みそうで、航法も兼務できますね。いよいよ、コックピット内3人体制で運用の時代が来ますね」

「え~、私、クビですか?」

「あなたは、操縦士になりたいのよね?本来の仕事は操縦を覚えることよ」とクランシー機長はキャロットをなだめた。

 一通り説明が済んだコックピットにサクラを連れたマーガレットが入ってきた。

「クランシー機長、どうですか?操縦できそうですか?」と訪ねてきたので、クランシー機長は「操縦には全く問題はありません。むしろ、今までより楽に操縦できそうです。この機体を私たちに操縦させていただけるのですか?」

 クランシー機長とマーガレット副官が会話する奥で、サクラは、今しがた入ってきた飛行場の場長と話し込んでいた。

「わかったわ。帝都の皇太子府の許可が下りたのよね」

「これが、今受けた通信記録です。サインを下さい」と言われたので、サインをして通信記録を受け取った。

「これで、問題なく帝都に帰れる。すぐに出発しますよ。場長、みんなを呼んできてもらえるかしら」

 捕虜の二人を護衛兼監視する小隊の兵士が、輸送機に連れて入ってきた。

 続いて、病人二人を飛行場職員が連れてきて、輸送機内に仮設したベットに寝かせた。

 本当に辛そうだ。

 早く病院に連れていこうと思った。

 全員が乗り込んだところで、サクラは仮設ベッドに寝ている、この輸送機本来の機長に「辛そうなところ、申し訳ありませんが、法的な問題もあり、宣言だけしてください」と頼んだ。

 彼は、上体を起こし「只今より、私がクランシー機長とそのクルーの機種転換訓練及び評価を行います」と宣言してくれた。

 この輸送機『北斗』は正式に採用となったため、無資格者が操縦資格を得るための措置がとられる。

 通常は、運用資格を有する正規操縦資格者2名以上が同乗した10時間の訓練飛行に加えて、

 機長経験者の評価を受けて行われる1時間の評価飛行が、帝国の航空法で義務付けられている『機種転換』である。

 今回は、クランシー機長たちクルーに、ほとんど運行を任せ、時折、過労気味の副操縦士に見回りと困った際のアドバイスをお願いするだけなのだが、ベテランぞろいの彼女たちならば全く心配はいらない。

 それでも、法的に機種転換措置は取らなければならないので、丁度、今いる人員でそれらが可能だったため、建前上行うのであった。

 これで、帝都に無事付けば、機種転換が自動的に完了している事に成る。

 このことが、未来でクランシー機長たちの危機を救うことになるのだが、その話は後ほど。

 機長は、宣言を行ったあと、後のことを副操縦士に頼み、ギャレー担当の士官と、航法担当の二人に彼への協力をお願いして、横になった。

 ギャレー担当士官が、クランシー機長に確認を取り、出発準備を始めた。

 クルー以外の乗客は全て席に付き、出発を待つだけになったのを確認し、クランシー機長に伝えた。

 機長はそれを確認し、機内放送を入れ、輸送機を離陸させた。

 日没前2時間での離陸であった。

 クルーには初めての経験になる夜間計器飛行であったが、ベテランの彼女たちには、いささかの動揺も見られない。

 行きとは違い、あす明け方には問題なく帝都につくことだろう。






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