第29話 飛ばない飛行機

「なに~! 飛行機が飛ばないだと~!どういうことだ。飛ばない…はただの…だぞ!」

「旅団長、落ち着いてください。詳細を確認してきます。それから、善後策を考えましょう」

 捕虜と輸送機クルーを連れて基地を離れたサクラたち一行が、第27場外発着場で最初に聞かされたのは、サクラたち一行を運んできた輸送機を今飛ばすことはできないことだった。

 それで、怒りに任せたサクラが発したのが、先ほどの雄叫びだった。

 もっともサクラには同情を禁じえない面も多々ある。

 捕虜をいつまでも不安定な状態で拘束するのは、非常によろしくない。

 また、軍属とは言え民間人を早く通常の生活に戻さなければならない責任も、サクラたち軍人にはある。

 それらの焦りが、サクラを平常心から遠ざけたことについては理解できる。

 それにしても、サクラは運がない。

 もっとも殆どの場合、その運の無さは、原因が政治がらみで人為的に仕組まれたことによるものであったが、それに輪をかけて事件が引き起こされるのには、サクラの口癖になりつつある『呪われている』を疑いたくなる。

 冷静さをやや欠いているサクラを補佐している副官のマーガレットが、ここの場長を連れて戻ってきた。

「詳細な理由が分かりました。場長、ご説明願います」

 説明を促された場長が、おもむろに説明を始めた。

 輸送機は、きちんと問題なく整備された状態で、給油を含む補給を全て終えて、発着場の駐機場に待機している。

 輸送機を飛ばせない理由はただ一つ、『クルーがいない。』

 まず、流行性感冒による発熱で機長と機関士がダウンして寝込み、副操縦士は過労により飛行勤務につかせることを躊躇させる状況であり、元気な航法士とギャレーを担当する士官が機長と機関士の二人を看病している。

 代わりのクルーを手配してはいたが、現在、帝国上げての大引越し作戦を展開中であり、また、この大陸中央での大作戦準備のため、軍には手隙のパイロットがいないため、いつになったら回ってくるのかわからない状況だと説明された。

 サクラは冷静さを取り戻して、説明を聞いていた。

 その後、マーガレットに対して、基地をでる寸前に繋がったばかりの帝都との直通回線を使って、皇太子府に状況の説明をさせた。

 連絡を受けた皇太子府から、全力を上げて協力するので、状況が改善されるまで、その場にて待機して欲しい旨の返信を受けた。

 場外発着場の食堂にて唯唯待機中の輸送機クルーの一人である機関士が「ここの飛行場ってこんなにバタバタしていましたっけ?前に来た時は、『お前ら仕事してんのかコラー』って感じに、非常にのんびりしていましたよね、機長」

「そうね、ここの飛行場はいつ来てのんびりしていましたよ。こんな『忘れ去られた飛行場』に来るのなんて、私たちくらいしかいなかったのだから、ひと月に1~2便あればいいほうじゃなかったっけ。何か、問題でも起こっているようね」

 一番若い航法士が「私、聞いてきます」と言って、飛行場の関係者を捕まえに行った。

 状況の確認に行っていた彼女が戻り、説明を始めた。

「私たちが搭乗予定の輸送機が飛べないみたいなのです。何でも、パイロットが軒並みダウンで飛ばせる人がいないようです」

「私たちが操縦できれば協力するのだけれど、色々あるからね~。ま~、お世話になっているのだから、旅団長に何か協力出来ることないか聞いてくるわね」と言って、機長はサクラ旅団長を探しに行った。

 食堂を出たところで、サクラの副官であるマーガレットにあったので、協力することを伝えたら、彼女に連れられて、旅団長のところまで来た。

 サクラは、機長に対して、開口一番に「あなたたち、あの飛行機飛ばせる?」と聞いてきた。

「機種転換になるので、私たちだけでは無理です。その輸送機のパイロットを同乗させての飛行なら、できます。法的にも、多分、問題はありませんが、私たち、特殊な事情がありますので、そちらのほうが気になります」

 サクラは機長の言っている『特殊事情』というのが

 良く分からなかった。

 マーガレットが直ぐにピンときて、サクラに説明を始めた。

 彼女たちクルー、とりわけ機長は、先の輸送機墜落に対して、何らかの処分が下されそうであった。

 軍の依頼で行っている輸送中の事故であり、機長たちクルーに全くの責任が無い事を証明できなければ、最悪、機長は操縦士資格を停止または剥奪もありうることを説明した。

 今はまだ、資格に対して何ら法的な問題はないのだが、帝国に戻り次第査問される立場なので、機長は慎重な受け答えをしている。

 ここまで説明を聞いていたサクラは、やり場のない怒りが沸々とこみ上げてくるのを感じた。

 そして、あることを思いついた。

「マーガレット、至急皇太子府に連絡して頂戴。彼女たちクルー全員を皇太子府が強制的に軍属に組み入れて、協力させるようお願いしてちょうだい。それができないならば、近衛に『戦時特別任用』を使わせてでも、彼女たちをこちらに取り込んでもらって頂戴。彼女たちの査問は、書面にて、皇太子府主導で行ってもらってください。そうすれば、すぐにでも飛べるでしょ。ダウンしている輸送機クルー全員を載せて帝都に運ぶわよ。そうすれば、機種転換の問題も解決するわ」

 マーガレットは皇太子府に対して彼女たちの取り込みをお願いしてから、機長に対して、「直ぐに、あの輸送機の副操縦士に説明させるわ。あの輸送機を操縦できるよう、説明を受けてちょうだい」

「分かりました。私のクルーを連れて、輸送機の確認に行ってきます」

「場長、聞いていたわね、ダウンしている副操縦士には悪いけど、連れてきて、輸送機の説明をさせて大至急お願いね」

 サクラは、かなり無茶苦茶な要求をあちこちに出した。

 『今度は、私が呪ってやるのだわ』

 かなり、彼女の精神が病んできたように感じるのは作者だけではないような気がする。


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