第26話 悪夢の風呂場事件再び?

 レイラ中佐に勧められ、風呂のある仮設テントに向かった。

 テントの入口では、風呂を管理しているマーサ特務曹長が笑顔で出迎えてくれた。

「昨日から基地全体に出されていた警戒令が先程解かれ、沸かしたばかりの一番風呂です。この時間ですと、基地全体が忙しくしているため、ほとんど誰も来ませんので少尉殿の貸し切りのようなものです。ゆっくりと楽しんで下さい」と言って、マーサは蒼草少尉にタオルを手渡し、入口に『男性入浴中』の札を掛けた。

 タオルを受け取り、お礼を言って、風呂に向かった。

 さっきまでのバタバタが嘘のようにここは静かだ。

 まだ、働いている、自分の部下には悪いと感じつつも、久しぶりにリラックスできそうだと、ゆっくり湯船に浸かった。


 その部下である山猫分隊のメーリカたちは、ガス欠ではぐれた仲間を拾い、シバ中尉たちと、トラックで移動中であった。

 シバ中尉の部下と初対面である山猫の兵士が今までのことを話し込んでいた。

「へー、そんなことがあったんだ。大変だったね。もっとも、こっちもジャングルをトラックで抜けてきたのであまり変わらないか」

 横で、これらの会話を聞いていたシバ中尉がメーリカ軍曹に「基地についたら、直ぐに墜落現場に戻らなければならないことになりそうだな。メーリカ軍曹、基地ではあまりゆっくり出来そうにないかもしれないぞ。もし、風呂にでも入りたければ、戻り次第すぐにでも向かうのだな。この時間なら、お偉いさんでも入ってない限り、誰も忙しくて入れないはずだから、貸し切り状態になるかもしれないな」

「シバ中尉、基地には風呂があるのですか?それに、昼間から入れるのですか?」

「給水システムの検査も兼ねているので、基地では24時間風呂に入れる。今、基地は24時間誰かしら働いているので、手空きになったものから風呂に入っている。もっとも、仮設テントに設置の仮の風呂だが」

「おーい、みんな、基地に戻り次第、待機命令が掛かるみたいだから、基地に戻ったら、直ぐに風呂に向かうぞ。中尉殿がおっしゃるには、また、直ぐに出発しそうだと。招集が掛かる前にゆっくりしよう」

「「「了解」」」

 と元気に揃って、山猫さんたちの返事が返ってきた。

 シバ中尉も、自分の部下たちに、「どーせ、俺らもお呼びだ。基地に戻ったら、残りのトラックも直ぐに出せるように準備するぞ。遅れると、また、おやっさんにどやされる」

 こちらは、諦めたように

「「「へーい」」」と元気のない返事が帰ってきた。


 一方、基地に残っていたアプリコット准尉は、同期の准尉たちに捕まり、アプリコットの配属までのこと、墜落から今までのことなど根掘り葉掘り聞かれていた。

 アプリコットは彼女たちの質問に一つ一つ丁寧に答えていた。

 10分くらい彼女たちに捕まっていたが、彼女たちは本当はあまりゆっくりできない。

 アプリコットは基地内待機の命令を受けていたが、彼女たち同期のみんなは、通常勤務が待っていた。

「あなたたち、仕事はどうしたの?警戒令は解かれたけれど、休んでいる暇はこの基地にはありませんよ」とレイラ中佐に見つかり、緊急発生的な同期会は突然解散した。

「ちょうど良かった。アプリコット准尉、もう少し、被災現場について聞きたかったから、話を聞かせて」とアプリコット准尉もレイラ中佐に捕まって、司令部に連れて行かれた。


 メーリカたちが基地に戻り、シバ中尉たちと別れ、いそいそと風呂のある仮設テントにやってきた。

 すると、テント前の目立つ位置に『男性入浴中』の立札があった。

「アチャー、誰かお偉いさんが入っているよ~」

 すると、風呂を管理しているマーサが「先程、蒼草少尉がお一人で入って行きましたよ。 暫くお待ちください」と言ってきた。

 メーリカは「少尉お一人なのですね」と念を押して確認した。

「グラス少尉一人なら、いいか。どうせ、川原で一度見られているし、問題ないわね」

「「「それもそう~ね」」」

「川原では、少尉、遠くから、しっかり見ていましたよね」

「あなた、それを知っていて、しっかりポーズまでとっていたでしょ」

「だって、少尉、こちらが気づいているのをわかるように仕草すると、いそいそと隠れるのだもの。可愛かったな~」

「悪女ね~」

「趣味ワル~」

「いいじゃん、いいじゃん。入っちゃえ~」と、札を裏返し『女性入浴中』に変え、どしどし中に入っていった。

 ちょうどその時、長らくレイラ少佐に捕まって尋問??を受けていたアプリコット准尉が合流してきた。

「准尉、准尉殿も待機命令中ですよね?それでしたら、一緒にお風呂に入りましょう」と複数の兵士に両手を掴まれ、テントの中に連れられていった。

 テントの入口で、マーサが『一体何が起こったのだろう??』と暫く呆然としていた。


 湯船に両手足をすっかり伸ばし、リラックス状態で、うつらうつらしていると、脱衣場のあたりが急に姦しくなってきた。

 気づくと山猫の皆さんが湯船に小走りに向かってきた。

 複数の裸の美女が自分に向かってくるのを見たグラスは、パニックになり、急に大声で、「風呂場では走らない」

「そこそこー! 湯船にタオルを入れない」と、公衆浴場でのマナー指導を始めてしまった。

 びっくりした山猫の皆さんは

「「「は~~い」」」と素直に返事を返し、グラスの指導に従った。

 グラスは、それらを少し『ぼ~』とした状態で眺めていたら、一番奥で、顔を真っ赤にして、震えているアプリコットに気がついて、冷静さを取り戻した。

 自分は非常にまずい状況になっているのだと理解して、タオルで前を隠しながら、湯船を後にして、「風邪を引かないように、ゆっくり温まるのだよ」と、とんちんかんなことを言いながらアプリコットの横を通り過ぎた。

 『ばっちーーーん』とものすごい音が風呂場に響いた。

「エッチーーーー!」

 アプリコットは、ほとんど泣きながら叫んでいた。

 グラスは、頬を手で抑えながら急いで風呂から逃げてきた。

 冷静に考えながら『多分、俺、悪くないよな。いったい、何がどうなればこうなるのだ? でも、俺も成長したぞ。パニックにはなったが、今回は女性の股間に顔を突っ込まなかった(帝都のトラピスト伯爵邸でジーナの股間に顔から突っ込んだことを思い出しながら)ぞ。前回は、それで戦場に送られたのだから、今回はセーフだよな?』とひりひりする頬を抑え、的外れなことを考えながら、風呂を後にした。

 その光景を見ていたマーサも、『当然、そうなるよね~~』と納得しながらも、去っていくグラス少尉になんといって声をかけたらよいのだろうと考えていた。

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