第21話 レイラの仮設小隊
近々で最もサクラを悩ませていた問題である、新任の准尉10名の処遇も、レイラに丸投げすることで、一旦の決着を見た。
サクラとマーガレット副官、レイラは連れ立って旅団長室を出て、問題の准尉たちのいる食堂に向かった。
食堂に入る直前にマーガレットはサクラと別れ、レイラ率いる中隊が作業している建家に先行して向かった。
サクラとレイラは准尉たちに集合を命じ、彼女たちにこれからについて説明を始めた。
「あなたたちは夢と希望と、そして、祖国への忠誠を持って初めての任地であるこの旅団にきたわけであるが、忠誠は別として、夢と希望については、暫くはお預けであることを理解して欲しい。見ての通り、この旅団の任地は、まさしく2日前にできたばかりである。 いや、出来てさえもいない。まさに、今急ピッチで、自分たちの寝るところを全力で持って確保している状況である。帝都にある基地などとは比ぶるべくもなく、従来からの前線にあるどの基地よりもひどい状況であることを理解して欲しい。少なくとも、ここ1~2ヶ月は、難民キャンプや野戦ベースより若干マシなレベルでの生活が予想される。そのような状況に置かれている我が旅団で、君たちが最も気にしている君たち自身の処遇だが、旅団が正常に機能するまでの間、仮の部隊を創設し、レイラ中佐に兼務して率いてもらうことになった。君たちは、期限を定めずに、レイラ中佐旗下の仮の部隊、レイラ仮設小隊に所属してもらう。 あくまでも仮の部隊編成のため、辞令は出さない。所属は、旅団司令部付きのままである。 職務は、基地周辺の調査、哨戒を交代勤務、24時間体制で行ってもらう。レイラ中佐、引き継いでくれ」
「君たちは、士官学校を実に優秀な成績で卒業してきたことを、我々幕僚は確認している。しかし、君たちは、圧倒的に経験が不足しており、かつ、小隊を率いるには、職位も足りない。そこで、経験を積み上げるため、君たちには、分隊にも満たない編成だが、准尉1名、兵士3名の4人編成のチームを率いてもらい、交代にて任務に当たってもらう。これから、君たちの宿舎に向かうからついてきてくれ」と言って、レイラは、サクラと分かれて准尉10名を連れて行った。
サクラは自室の旅団長室に戻った。
そこには、おじさまが部下のひとりであるマーサ・スコーン特務曹長を連れて待機していた。
兼ねてかから準備していた仮設テントによる風呂が、使用可能になった報告を彼女が持ってきた。
マーサは仮設ではあるがこの基地初の風呂であるため、彼女が日頃から尊敬していて、見るたびにお疲れの様子を酷くしているサクラ大佐に是非にでも最初に入浴をしてもらいたく、サクラ大佐が最も信頼しているサカキ中佐にお願いして報告に上がらせてもらった。
サカキ中佐も僅か数日の間に酷く疲れが溜まったように見えるサクラを心配して、いい機会だから、入浴を勧め、気休めでも疲労回復に繋がればと思っている。
サクラ大佐は、この非常時になぜ仮設の風呂を準備したのか分からずわずかな怒りを込め、おじ様に問い詰めた。
何でも、基地の緊急の課題である水の確保のため、ポンプの整備を最初に行ったが、試運転により汲み上げる多量の水を飲料以外で消費するには風呂が一番であり、また、隊員たちの福利厚生の改善にもつながるので、準備させたとか。
きちんとした理由があったので、風呂の使用を許可したが、隊員が全力で基地の整備に当たっているこの状況での入浴を躊躇っていた。
おじさまが「頭が率先して入らなければ誰も利用できないので、一息入れる意味でもすぐに入ってこい」とマーサと二人でやや強引にサクラを連れ出した。
その頃、レイラは彼女の中隊が整備中の2号宿舎棟で、中隊員60名を前に先のレイラ仮設小隊の設立の説明をし、准尉たちにベテラン兵士を割り当てていった。
編成が済んだところで、「准尉たちは宿舎に自身の荷物を仕舞い、10分後にここに集合」と言って集まった全員を解散させた。
彼女たち、レイラ仮設小隊の初仕事は、これから彼女たちの職場になる詰所の整備で、ここ2号宿舎棟の談話スペースがそれに充てられた。
残りの情報中隊の30名は、今までの作業の続きを始めた。
とにかく、5棟ある宿泊棟全てを使用可能にしても、これから来る人員全てを受け入れるのが難しいのだが、できることから始めなければならないのには変わりない。
ハード面だけでも、完全に旅団が機能できる状況にいつになったら持っていけるのか、サクラではないが暗澹たる思いがこみ上げてくる。
これから、どんどん新兵も配属されるのに、暗い顔もできないので、気をとりなして、部下に指示を出した。
「とにかく、出来る作業を速やかに行うように」
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