第18話 なぜ、銃口がこっちに向けられている?

「ここで、今日は休もう。

今日だけでだいぶ距離を稼いだので、大丈夫だろう。火を起こしてくれ」

 と言って、枯れ枝を探してジャングルにはいった。

 いくつか枯れ枝を見つけて持ち帰り、火にくべようとしたら、メーリカとその部下に両腕を押さえ込まれるようにして止められた。

「何を燃やそうとしているんだ。少尉」

「少尉、そんなのを燃やされたら、この付近には居られませんよ」

 何でもこの木は半ナマで燃やそうものなら、半径100mはシュールストレミングやくさやを1000倍濃縮したような異臭が一面に広がり、毒ガスの被害にでもあったような惨状となり生き物が生息できないような環境になってしまうそうだ。

 危なかった、ジャングルは危険がいっぱいだ。

 焚き火を前に捕虜の二人と意見交換をしようとしたが、第一印象があまりに悪く、二人の自分を見る目が冷たい。

 とても、世間話をするような雰囲気ではない。そうかと言って逃げ帰るわけにも行かず、大型冷凍庫の中で壁に向かって独り言を呟く、とても危ない人間になったような気持ちになった。しかし、めげずに話しかけた自分を褒めてやりたい。

「キャスター少佐は、共和国ではどのような生活をしておられたのですか?」

「……」

「トンプソン少尉の学生時代に何かスポーツでもやっていましたか?」

「……」

 色々質問を投げかけたが、同様の答え??しか帰ってこなく、ついに耐えられなくなって、言い訳を始めた。

「初対面の時は失礼しました。しかし、少し言い訳をさせてください」

「……」

 めげないぞ、俺は強い子だ。やれば出来る子だ。頑張ろう。

「あなた方の着衣を剥いで、ドラム缶風呂に突っ込んだのはお詫びしますが、あの場合、それ以外の手段がなかった。私たちには、あれ以外の手段が思いつかなかったのです」

「……」

「最初に、川から流れてきた物資を取るために、私が川に入ったのですが、あまりに冷たく、以後の作業の為にあのドラム缶風呂を準備していたのです。すると、上流からトンプソン少尉がコンテナに掴まって流れてきたのです」

 トンプソン少尉は少し当時のことを思い出すような仕草をしたが、やはり「……」

「私たちの前で、力尽きて川に沈んでいくところでした。私が、川に入り、トンプソン少尉を川から連れてきた時には、トンプソン少尉は呼吸だけでなく、心臓も止まっていました」

 トンプソン少尉は驚いた顔をした。

「直ぐに心臓マッサージを行うために、トンプソン少尉の衣服を剥ぎ、心臓マッサージと人工呼吸を行いました。トンプソン少尉は直ぐに呼吸も回復しましたが、体は極端に冷え呼吸も弱く、しかも、意識が戻ってはおらず、緊急避難的に、私と一緒に風呂に浸かったわけです」

 トンプソン少尉はその時の状況を想像したのか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、逃げるようにキャスター少佐の影に隠れた。

 キャスター少佐は俺をものすごい形相で睨んできた。

 俺のほうが逃げ出したい心境になったが、やればできる強い子の俺は頑張った。

 よし、後で褒めてあげよう。

「その後、意識が戻ったようだったので、私は、風呂から上がり、ほかの作業をしている部下の督励のため、キャスター少佐や、既に息を引き取っておられた中佐のこもっていた特殊車両に向かいました」

 キャスター少佐は悲しそうな顔をした。少佐の表情は鬼の形相から、普通に戻ってきたようだ。

 話を続けて、「キャスター少佐を発見した時は、呼吸はあったが、やはり同様に弱く、同時に発見した中佐が、低体温で死亡したようだったので、一刻の猶予もなく、衣服を剥いで、トンプソン少尉の入っている風呂に入れました」

「……」

「キャスター少佐も意識が無く一人での入浴は危険でしたが、既にトンプソン少尉の意識が戻っておられたようでしたし、すぐそばに歩哨もいたので、キャスター少佐の補助をトンプソン少尉にお願いしました」

「……」

「剥いだ衣服を、焚き火で、乾かしてもらっていたので、直ぐに衣服をお渡しできませんでした。決して、美人の入浴シーンを覗いていたいという…」

『バチーン』と顔を真っ赤にしたキャスター少佐に叩かれた。

 その後、アプリコット准尉とメーリカ軍曹にしこたま怒られた。

 デリカシーが無いとかなんとか……

 結果、言い訳は聞き入れてもらえたようだったが、状況に変化なくむしろ変態を見るような目を向けられてしまったようだ。困った。

 でも、ほかの女性兵士たちに対しては、少し打ち解けてきたようだった。

 これで良しとしよう。一番頑張った俺の扱いに不満が残るが、メーリカさんが言うには俺が一番悪いのだそうだ。やっぱり納得がいかない。

 歩哨を交代しながら睡眠を取り、朝も明けきらない前から、昨日同様に移動を始めた。

 川原からジャングルの中に移動する頃には、あたりが白みあげていた。

 既にかなりの距離を移動していたみたいで、割と直ぐに、目的地の旧第十三連隊駐屯地が見えてきた。

 入口が見えてくる頃になって、異様な緊張感が襲ってきた。


 旧第十三連隊駐屯地入口には、かなりの味方兵士がこちらに向かって銃口を向けているのが見えた。


「なんで、銃口を向けられているんだ?先行のバイクが先触れをしているはずじゃないのか?」

 と叫んでみたら、メーリカさんに呆れられた。


「少尉は寝ていたのか?

バイクは2台とも2km位手前でガス欠のため、追い抜いてきた。貴重なバイクを捨てるには忍びないので、後からゆっくりと押しながら来ることになっている」

「それじゃー、いきなり敵の車両で基地に乗り付けたわけだ。攻撃される前に車を止めて、両手を挙げながら車から出よう。一人では心もとないので、悪いけど、アプリコット准尉もついてきてね」

 車を止め、両手を挙げながら、蒼草少尉は味方と合流を果たした。


 彼らしい、なんとも締まりのない、赴任の光景であった。


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