第17話 捕虜宣誓

 グラス少尉は自身の相談役としてのアプリコットとメーリカの二人を引き連れて、ドラム缶で作った風呂に向けて歩いていた。

少し離れた場所ではひしゃげているコンテナトラックの中を探ろうとしている兵士たちが、苦労してコンテナを開けようと頑張っているのが見えた。


「バールでも使え、頑張れな」

 と言って、足元に転がっていたバールを彼女らに向けて投げた。

「ありがとうございます。少尉」

 と返事を返し、投げられたバールを拾い、また、コンテナと格闘し始めた。

「で、捕虜の皆さんは元気になったかな?」

 と、ドラム缶風呂の傍らで、哨戒にあたっていた兵士に声をかけた。

 すると、兵士の返事よりも前に、我々に気がついた捕虜のひとりが

「キャー!!」と悲鳴を上げ、お湯をかけてきた。

 せっかく下着が乾いてきたのにまた濡れた、と残念な気持ちを残し、捕虜に語りかけた。

「美人の入浴を覗いているようで、心苦しいのだが、後ろの二人がどうしても、話してくれ、と言うので、今更だが話をさせてください」

 後ろの二人は、完全に呆れているようだが、構わずに続けた。

「あなた方二人は、我々帝国軍の管理下にあります。つまり、あなた方は帝国の捕虜となります。何か、色々難しいことが沢山あるようですが、帝国と共和国との間にある協定はあなた方の方が私より詳しそうなので、割愛しますが、ここで、捕虜の宣誓とやらをやってください」

 じっと聞いていた捕虜たちのうち若い方は不安そうにもう一人の上位者の方を見ていた。

 少佐と思われる美人は、こちらをじっと睨んだまま無言であった。

 捕虜の宣誓とは、捕虜になったことを認め、以後、両国間の取り決めに従い、敵対行為の全てをやめ、指示命令に従うことをいい、この宣誓が行われない場合の捕虜は、十分に拘束され、厳重に管理される。

 しかし、我々には、十分な拘束や管理などこの状況下ではできないので、どうしようか思案にくれた。

「困ったな。正直言うと我々も遭難者なんですよね。宣誓のないままあなた方を連れて行くわけには行かず、裸のまま、あなた方を連れ回すわけにもいかないでしょ」

「な!」と声にもならないような悲鳴を少佐が上げ、続けて「なんて卑怯なことを」

「せっかく助けたのに、また、川に突き落とすわけにもいかないし、宣誓ないまま連れて歩くこともできないし、お願いだから、宣誓をしてもらうわけにはいかないでしょうか」

 少し、思案の後、少佐は「いいわ、宣誓しますわよ。私、マーガレット・キャスター少佐はここに捕虜としての待遇を受けることを宣誓します。これ以降、捕虜として行動しますが、祖国に不利益となる情報の公開は拒否します。あなたも、宣誓しなさい」

 とマーガレット少佐に促され、不安そうにしていた少女も

「私、アンリ・トンプソンも、少佐と同様に捕虜の宣誓をします。 階級は少尉です」

「ありがとう。助かった。だいぶ元気になったようだし、彼女らの服 乾いてる?」

 と、火のそばで、服を乾かしている兵士に聞いてみた。

「少尉の服も、彼女らの服も両方とも乾いています」

 と返事が帰ってきたので、自分の服を受け取り、早速着替え、アプリコット准尉に彼女らにタオルを渡し、服に着替えてもらうように指示を出した。

「女性のナマ着替えを覗くわけにも行かないわな。

 メーリカさん、風呂、どうする。

 入るなら、このあと順番に入っていいよ。

 その後、順次、休憩ね。携帯食だけど昼食もとってね」

 と言い残し、このあとのことを彼女らに託して、先程格闘していたコンテナトラックに向かっていった。

 コンテナトラックは、まだ中を覗けない状態だったので、付近の兵士と一緒に協力して、扉をこじ開けた。


「少尉、バイクがあります。

 ほとんど無傷ですので、使えそうです」

 水をかぶっていたが、元々悪路走破用のバイクのため、ほとんど影響がなさそうであった。しかも、2台がしっかりコンテナに固定された状態で、そのまま直ぐに使えそうだった。

 鍵が見当たらないが、直結して使えそうなので、兵士に頼んで、コンテナから出してもらい確認してもらうことになった。

 最悪バイクに積めるだけ積んで、いけそうなので、どうにか移動の目処はたってきた。

 機長たちに頼んでいた、特殊車両の修理も気になってきたので、そちらにも顔を出して、進捗を確認することにした。

 なんだかんだ、川原で作業をしていたら、日も沈み、今日の作業を終えた。

 歩哨を残し、川原で共和国の携帯食で夕食を取った。


「あす朝一番で移動ができそうだ」

「特殊車両も動くのを確認できたし、2台のバイクも大丈夫なので、かなり早い速度での移動ができそうです」

 と報告をもらい、捕虜と一緒に特殊車両で移動することにした。

 バイクは進行方向の哨戒に使えるので、上手くすると1両日中には味方と合流できそうであった。

 唯一の心配事としては燃料が心もとないことであったが、この体制で行けるところまで行き、あとは徒歩の移動を考えている。


 朝、まだ日も昇る前から、バイクと特殊車両に荷物を積み込み、捕虜を搭乗させ、先に二台のバイクを先行させ川伝いに移動を始めた。

 途中、何回も休憩を挟んでの移動であったが、初日だけで60kmは移動できた。

 川原から少し離れた高台で、野営にいい場所が見つかったので、本日の移動をやめた。

 川原では、いつまた鉄砲水に襲われるかわからないので、ここで夜を明かすことにした。

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