第16話 勅任特設旅団発足の理由

 司令官に伴われて、幕僚たちがいる会議室に入ると、幕僚たちは、現地幕僚たちと個々に情報の交換をしていた。

 かなり周りはざわついていたが、司令官の姿を確認すると、一斉に司令官に注目し、静寂を取り戻した。

 司令官とサクラ大佐たち全員が席に着き、おもむろに司令官が会議の始まりを宣言した。

「先程サクラ大佐によりもたらされた密封命令書が効力を発効した。内容については既に、ジャングル方面軍司令部のみんなは、予想していただろうが、改めて状況も含めて説明したい」

 副官が先程開封した命令書をここにいる全員に対して読み上げた。


『勅命


 只今をもって、サクラ大佐率いる『勅任特設旅団 通称サクラ旅団』は第三軍ジャングル方面軍旗下に置かれ、可及的速やかにジャングル方面にある現地ローカル勢力と協力的関係を築き、ローカル勢力と共同して、予想される共和国のジャングル踏破軍を殲滅し、ジャングルを持って防衛ラインを築き、この方面を防衛死守することを要請する。


 皇太子府 発令1号 元老院承認3727号


                       以上』


「今回の作戦は、皇太子府が中心になって統合作戦本部とは、全くの別枠で動いている。今後サクラ旅団に対する命令は直接本国の皇太子府から秘密裏に出される。我々ジャングル方面軍とは、共同関係にあり、発令された命令も含め、情報を共有される。当然、この共有される情報全ては方面軍最高秘密にあたり、いかなる組織、人員に対しても守秘義務を有す。例え、統合作戦本部の要請でも、漏らしてはならない。上部機関への説明は、本国元老院あたりからなされるので、我々に対しての要求は全て皇太子府に回し、ここからの発信はない。 情報の共有の範囲は今、ここにいる人員のみであり、作戦行動の場合には、必要に応じ、最低限の情報のみ発信される。注意されたし」

 と司令官が会議室にいる全員に対して、注意喚起した。


 そのあと情報部将校のレイラ中佐より、今回の作戦の裏にある帝国、共和国の状況の説明がなされた。


 要約すると、長く続いているこの戦争について、両国とも継戦能力に限界が見えてきており、今のままでは共倒れも懸念されてきていた。

 帝国では急進攻勢派の台頭により、このゴンドワナ大陸中央大地での決戦で一気にこの戦争を終わらせる大規模な作戦が準備されてきている。

 当然、共和国もこの作戦に気づいており、また、帝国同様にゴンドワナ大陸での決戦で決着をつけるため、準備も勧めていた。

 しかし、共和国の作戦では、中央に大規模作戦を展開して、ゴンドワナ大陸全土に緊張を強いて、その状況下にこのジャングルを一定以上の規模を持つ軍を持って抜け、帝国が中央に展開している軍に対して、側面、背後より半包囲し、帝国軍をこのゴンドワナ大陸から駆逐する計画を持っていることが判明した。

 当然、帝国軍中央もこの情報は入手していたが、ジャングルをいかなる方法で抜けるか、また、抜けることが本当に可能かといった理由から、この情報をまったく相手にしていない。


 しかし、情報部は共和国が真剣にこの作戦の準備をしていることを知り、またその情報を知った殿下が危機感を持ち、情報部、近衛侍従隊、元老院の一部と協力して、帝国の崩壊に繋がりかねないこの状態の打開策として、今回の作戦が秘密裏に立案された。

 そのため、この作戦は人員、機材、資金においてかなりの制約が有り、非常に難しい作戦であるが、殿下の信任厚いサクラ大佐率いる花園連隊に帝国の明暗を預ける決断をし、そのためだけに、帝都において、皇太子府を元老院の支持者と立ち上げたことが説明された。


 ここまで、説明がなされて、極秘扱いの情報が出尽くしたのを機に、会議室に朝食が運ばれてきた。

 このあとは、ブレックファーストミーティングで、朝食を取りながら、ジャングルを取り巻く状況や、サクラ旅団の設備や人員についての打ち合わせがなされる。

 割と豪華な朝食に、サクラ旅団の幕僚たちは喜んでいたが、サクラ大佐だけは、会議室に朝食が運ばれてきたことに危機感を抱き、「私は、昨日の朝からまだ解放されないのか?

 一体いつまで拘束されればいいのだ」と涙目で親友のレイラ少佐に訴え、レイラ少佐が慰める一幕もあった。


 サクラ大佐に朝食を運んできた女性少尉が、元気のないサクラ大佐に対して

「ご希望のあった紅茶ですが、ここで入手できる一番上等な紅茶をご用意しました。 気に入ってもらえたらよろしいのですが」と笑顔で話しかけてきた。


 サクラ大佐も力のない笑顔で返しながら、入れてもらえた紅茶を口に入れた。

 その紅茶は味香り共に申し分なく、サクラ大佐は一口で気に入り、やっと笑顔に力が戻ってきた。

 司令官がその様子を見て、

「その紅茶が気に入ってくれたのなら、常時飲めるようにサクラ旅団の補給品目に入れておく」と補給担当の参謀に指示を出していた。


 朝食を兼ねた会議も終了したサクラ旅団の幕僚たちを待ち受けていたのが、大方の予想通り、黒塗りの高級車とその横に居る笑顔の連絡将校であった。


 一行は連れられて、来た道を戻り、飛行場に行き、乗ってきた新型輸送機に乗せられ、今度はサクラ旅団司令部の置かれる旧第十三連隊駐屯地に最も近い第二七場外発着場に向け飛行していった。

 機内で、サクラは一連の作戦で気になることを親友のレイラに質問した。

「今回の作戦は、大掛かりではあるが秘密も多く、なぜ統合作戦本部がこの一連の動きを見逃したのか疑問だ」と聞いたところ、レイラはサクラに対して、あくまでも自分の予想であると断った上で次のように説明をした。


「急進攻勢派としては、自分たちが進めてきている作戦が帝国全土でかなり無理を強いるのを知っている。作戦途中で、帝都で革命でも起こされたらたまらない。ただでさえ帝都内に限れば、最大戦力は中立の近衛侍従隊が持っている。少しでも、近衛の力を割いておきたいのと、謀略に近い格好で、軍から影響力を排除したサクラ侯爵を恐れ、また、帝国全土で人気を誇り、実力もピカイチの花園連隊が邪魔なので、排除する動きがあった。今回の共和国からの情報は信じていなかったが、ジャングル方面軍からの増派要求を受け、これを利用して、花園連隊をジャングルに左遷してきた。我々は、その動きに乗っただけなので、彼らには、気づかれてない。サクラが一連の動きに文句を言わせないように、まったく時間的余裕を与えない今回の一連の移動も、彼らの計略の一部だ。最も、我々としても、時間的余裕もないので、彼らの引越し大作戦は歓迎なのだが」


 機内で、一連の不可解な移動の裏を説明してもらっているうちに、輸送機は目的の第二七場外発着場に到着した。

 距離的にはジャングル方面軍の司令部のあるロールストリングスから旧第十三連隊駐屯地まで100kmもないのだが、途中に道もほとんど整備されてなく、もっぱら、移動及び補給が輸送機だよりになっている。

 直援してきた戦闘機が着陸することなくロールストリングスに戻っていった。

場外発着場には、今度は黒塗りの高級車でなく、工兵の使っている悪路走破用のトラックが迎えに来ていた。


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