第15話 密封命令書の開封

 ここで一旦遭難中のグラス少尉たちから離れて、先に登場したサクラ大佐たちの様子を見てみる。


 帝都上空、サクラ大佐とその幕僚達を乗せた、正式配属前の最新式輸送機は上空に待機していた帝都上空の守護神たる陸軍帝都防空隊の一個中隊を直援機とし、目的地に向かって飛行していった。

 機内では、配属予定者の事故の知らせを聞いてサクラ大佐が切れたり、それを幕僚たちが必死でなだめたりしていたが、飛行そのものは順調に推移していった。

 帝国領内はそのまま陸軍のエースパイロットたちに守られ、洋上に出たすぐに、今度は海軍機動部隊に所属している戦闘機二個中隊が直援に着いた。

 幕僚の一人が「驚いたね、お大臣旅行だね」と皮肉っていたが、まったくもってその通りの超VIP待遇での移動であった。

 途中で何度も直援機の交代があったが、この最新式の輸送機の性能がすごく、一回も給油することなく目的地に向かって飛行を続けていた。

 どんなに輸送機が最新式でも、飛行計画が超VIP待遇でも、狭い輸送機に十二時間近くも乗せられては、疲れるし、ストレスもたまる。

 機内では、仮眠も取れたが、体を横に出来る訳もなく、これからのことを考えると気持ちばかりが沈んでいく。

 唯一の救いが、幕僚たち全員が気心のしれたかつての仲間で固めることができたことだ。

 機内クルーがサクラ大佐たちのところまで来て、

「あと一時間くらいで目的地のロールストリングスの飛行場につきます。正式には第三作戦軍 第七飛行場と呼ばれ、ジャングル方面軍の本部基地を置く飛行場になります。飛行場からジャングル方面軍司令部までは車で十五分くらいの距離です。向こうには予定到着時間を無線で知らせてありますから、何らかの迎えが来るはずですが、何分到着が明け方になりますので飛行場で少し待つことになるかもしれません。でも、ご安心ください。貴族の方をおもてなしする分に十分とは行きませんが、将官クラスの方をお待たせするためのラウンジがあります。到着が明け方ですが準備を整えてお待ちしますと返信を頂いております」


 仮眠明けで眠い目をこすりながら、クルーの説明を聞いたサクラ大佐は少し元気を取り戻し、「ゆっくり紅茶が飲みたいですね。少し早いが、朝食と一緒に準備できますか?」

 とクルーに聞くと、クルーは笑顔で、

「はい、準備できます。向こうにお願いしておきます」

 と言って、戻っていった。

 向こうに朝日が登らんとする頃に、目的地の飛行場が見えてきた。

 早朝だというのに、偵察機を連れた一個飛行小隊が離陸していった。

 また、飛行場の滑走路横には別の飛行小隊が、これも、偵察機を連れて待機していた。

 サクラは、飛行場全体が慌ただしくしているのを感じた。

 同行している幕僚たちも同様に感じ「何か大きな作戦でも動いているのかな」などと同僚に聞いていた。

 サクラは、いやな予感がしたが、余計なことは考えず、ゆったりとした朝食を取る自分を想像して、嫌な空気を紛らわせた。

 輸送機は予定していたよりも早く飛行場に着陸し、待機場まで進んで、ハッチを開けた。

 昇降用の階段を出してもらい、サクラと幕僚たちは輸送機を降り、そこで見たものは、大きく扉を開けた黒塗りの高級車と、扉の前で敬礼をしている将校の姿であった。

 すぐにサクラは自分の朝食が飛行機よりも早く何処かへ逃げていくのが見えた。

「お待ちしておりました。サクラ旅団長閣下。方面軍司令官がお待ちしておりますので、ご案内いたします。同行の幕僚の方とご一緒に用意した車にお乗りください」

 サクラは一言「呪われている」とつぶやき、親友のレイラ中佐に優しく肩を叩かれながら、車に乗った。

 全員が数台の車に分乗したのを確認して、車は司令部に向かって走り出していった。


 一行を乗せた車が司令部の正面玄関についた時に、待ち受けていたのは、なんとジャングル方面軍司令官で、自らの幕僚を従え、我々を出迎えてくれた。


 サクラは、あまりにビックリして声を出せずにいたが、レイラ中佐がすかさず「おはようございます。司令官閣下」と言ってくれたので、気を取り直し落ち着いて「おはようございます。司令官閣下。このような早い時間に、司令官閣下自ら出迎えてもらえる光栄を浴せるとは思っても見ませんでしたので、ただ驚くばかりです」と、なんとか挨拶だけはできた。

 その後、司令官に連れられ、自分と副官、それと情報将校であるレイラ中佐のみを司令官室に連れ、司令官も自分の副官のみを連れ自室に連れて行き、それ以外は、副司令官とも思しき大佐が会議室に連れて行った。

 まだ、日も開けたばかりだというのに、司令部はさきほど見た飛行場同様にばたついていた。

 しかし、ばたついてはいたが、戦闘に関するようなあの独特の緊張感は感じられず、何が起こっているのか分からない不安に襲われた。

 サクラは思い切って司令官の副官にそれとなく聞いてみたら、司令官自ら、大陸中央にある氷河湖が今朝方決壊して、レゾール川に鉄砲水が発生したこと。

 幸い、帝国関連には大きな被害はなさそうだが、敵がレゾール川上流で確認されているので、緊急に調査をしていること。

 ついでに、行方のわからなくなった輸送機の捜索も兼ねていることを、教えてくれた。

 説明を聞いているうちに司令官室に到着し、中に入ったら、司令官の副官が司令官室の扉に鍵を掛け、司令官室の窓のカーテンも閉めた。

 司令官がおもむろに「早速で悪いが、密封命令書を出してもらおうか」といったので、預かってきた司令官宛の密封命令書を差し出した。

 司令官はそれを確認して、副官に開封せず手渡した。

 副官はこちらに来て、サクラ大佐に密封命令書を同じく開封せず手渡し、代わりにサクラ大佐宛の密封命令書を受け取った。

 サクラ大佐は密封命令書が開封されていないのを確認後自らの副官に手渡し、小声で

「開封されていないことを確認後、あなたが開封し、所定欄にあなたのサインをしてお返ししなさい」

 と指示した。

 同様に向こうの副官もサクラ大佐宛の密封命令書を確認し開封した後サインをし、中身を見ずに命令書を返してきた。

 サクラ大佐は、司令官とほぼ同時に命令書を取り出し、内容を無言で読み出した。

 内容を確認したサクラ大佐は非常に驚いた様子だったが、司令官は副官に頷いてなにやら合図を送っていた。

 先方は司令部全体でおおよそこの命令の内容を予想していたようであった。

 少し悔しいのは、一緒に来ていたレイラ中佐も内容を知っていた様子であった。

 さすが情報将校というか、情報局が大いに関わっているようであった。

 その後、司令官は自分あての命令書を渡しサクラ大佐あての命令書を受け取って、双方で、与えられた命令の内容を確認し合った

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