第13話 人がいます

 風呂から上がり、機長からタオルを受け取り、体を拭いた。

 まだ、俺の服が乾いてはおらず、しかし、下着のままともいうわけにいかず、准尉が持っていた毛布を1枚もらい体に巻いた。

『9』のいっぱい出てくる某宇宙冒険マンガに出てきた少年??オヤジ?のような格好だがしょうがない。

 なにやら胡乱げに准尉はこちらを見ていたが、もう何も言わない。

 呆れてはいるようだが、もう諦めてもいるようだ。

「マーリンさん、すまないが、ここで彼女の見張りをお願いできないか」

「捕虜に対しての見張りは常時二名必要です。物資の調査要員の人員が減りますが、兵士をつけておきます」

「ついでで構わないが、お風呂のお湯加減も見ていてくれ。後でメーリカさん達も入りたそうにしていたから、よろしくお願いします」

「了解しました」

 最後は本当に呆れられてしまった。どうしてだろ?


 風呂の番をお願いしたあと、先程から軍曹が横転していた軍用車両のそばで何かしているようなので、毛布を体に巻いた状態ではあったが、軍曹のいる方に向かった。

「メーリカさん、どうした? 何があった?」

「あ、少尉、また、すごいカッコをしていますね。お似合いですよ」

 ニヤニヤしながら、こちらを見て、続けて、

「この横転している移動指揮車のような車両の中を確認しようと、いま兵士と一緒に車両を起こすところです。中に入れるようなら直ぐに中を確認します」

「軍曹、中に入れます」

「大丈夫だとは思うが、銃を持って十分に気をつけながら中を確認してくれ」

「軍曹、了解しました」と返事が返り、直ぐに近くにいた兵士二名が銃を構えながら車両の扉を開け中に入っていった。

 車両からは、扉を開けた瞬間、中に入っていた冷たい水がかなりの量出てきた。

 車両のすぐ外には同じように銃を構えた兵士が三名待機していた。

 軍曹も兵士たちも、平然としていたが、そばで見ていた俺は、ものすごく緊張してきた。



「軍曹、人がいます。二名いますが、意識がないようです。……訂正します。一名は既に死んでいますが、もう一名は意識がないだけのようです」

「ほか、危険は無いと判断します」

 報告を受け、軍曹と一緒に車両の中に入り、意識のない人を確認しに行った。


 中にいた人は、両名とも士官のようで、死んでいる方は男性、それも中佐のようだ。

 呼吸はあるが意識のない方は、女性士官で、モデル並みのスタイルであり、かなりの美人、年の頃は20代後半、こちらは、階級章から判断して少佐だと思われる。

 とりあえず、生きている方から、応急処置をするために俺が担いで外に出した。

 こちらの女性も体は氷のように冷え切っている。

 呼吸も弱く、低体温症と思われる症状だ。

「えーい、面倒だ。一人も二人も一緒だ」

 と言って、おれは彼女の服を脱がせ、全裸にして担いで先程まで浸かっていた風呂の方に向かった。

 全裸の美女を担いで向かってくる俺を、准尉が見つけ、顔を真っ赤にして、抗議しようとしていたが、構わずに、風呂に浸かっている女性に向かって声をかけた。

「こちらの少佐も低体温症になりかけているので、一緒に入らせてくれ。意識がないようなので、支えながら浸かってくれると助かるのだが、協力してくれないか?」

 中で浸かっていた少女が弱々しく「はい、分かりました」と返事をくれたので、近くの兵士と一緒に協力して、担いできた美女も風呂に浸からせた。


 美人と美少女、しかも二人とも全裸、浸かっているのが露天風呂温泉なら絵になるのだが、ドラム缶の五右衛門風呂ではかなりシュールな絵面だ。

 あまりジロジロ見ているわけにもいかず、後ろから刺さる准尉たちの冷たい目線もあり、メーリカたちの方に向かって歩いて行った。

 メーリカたちは、先ほどと同じ要領で遺体となった中佐の埋葬を済ませていた。


「中佐、少佐の所持品からも、さして重要と思われる情報はありませんでした」

 と兵士が報告してくれた。

 報告をくれた兵士に向かって、

「悪いけど、少佐の服も、風呂に浸かっている少女と同じように乾かしておいてくれ。でないと、俺と同じ格好をしてもらうことになってしまう」

 と言ったら、周りに居た兵士たちが吹き出した。

 そんなに変な格好かな?

 俺的にはマンガの主人公に似ていると密かに思っていたのだが……

 もっとも、そのマンガのヒロインは綺麗な格好をしていたが。


「メーリカさん、それでは、先ほどの車両に戻り、中の調査を続けるか。指揮車のようでもあったし、佐官が二名も詰めていたから、俺的にはかなり期待しているのだが」

「そうですね、車両に戻り、書類を中心に徹底的に調査しましょう」

 とまたぞろ、兵士たちと車両に向かった。

「軍曹、携帯食のコンテナを2個ほど回収しました。中身を確認しましたが、そのまま食べれそうです」

「よし、わかった。携帯食のコンテナは別に分けておいてくれ。多分、移動の際に手分けして運ぶ事になるから」

「了解しました」

 と、軍曹と一緒に先ほどの車両に向かう途中にそばを通り過ぎた兵士が軍曹に報告してきた。

「良かった、これで少なくとも当分は虫を食べずに済む」

 と、横で報告を聞いて、俺は軍曹に軽口を叩いた。

 目的の車両に着くと、既に車両から荷物が全て下ろされ、空になった車両の中をさらに兵士が隈無く捜索中であった。

 下ろされた荷物も、別の兵士が捜索しており、色々面白そうな物が出てきた。

「マーリンさん、マーリンさん、およびですよ」と声をかけたが、兵士には呆れられ、肝心の准尉には無視された。

 再度、今度は「アプリコット准尉、お願いだから、こっちに来てください」と声をかけたら、渋い顔をしながら、准尉がこちらに来てくれた。

 『そんな顔をしてたら、美人が台無しですよ。』と心の中で思ったが、本当にお願いを聞いてくれなくなりそうなので、声に出すのをためらった。


「この車両から出てきた、資料を確認して、意見をください。俺も、ざっと確認したが、敵のおおよその目的が見えてきたように思う」と本当に自信なさげに准尉にお願いをした。

「軍曹も、これに関して後で意見をすりあわせたい」

「にしても、これから持っていきたい物が増えたな。徒歩では全部運べない。敵さんの車が使えないかな」

 と独り言をつぶやいたら、そばにいた機長が

「私と機関士が見てみましょうか」

 と言ってくれたので、二人にお願いをして、近くにいた兵士に散らばっている工具類を探させ、二人に協力するようにお願いした。

 いまだに、命令を出すのに慣れない。会社でも、ブラックな職場のため、業務命令は出せずに、部下をなだめすかすようにお願いをして仕事していた。

 マーリンさんが言うにはこれではダメなそうだが、できないので、行けるところまで、このまま行こうと変に居直った。

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