第11話 何が起こった?
ジャングルの奥の方から、今まで聞いたこともない轟音を聞いたとき、墜落した機内に一斉に緊張が走った。
状態の把握が全くできず、ただただ慌てている自分の横を、素早く外に出ていく2人がいた。
軍曹のメーリカと彼女が最も信頼している伍長の2人が素早く外に出て、ものの数分でメーリカと哨戒に出ていた兵士のうちのひとりが機内に戻ってきた。
戻ってきたメーリカは、こちらに来て、ゆっくりとした口調で報告を始めた。
轟音の正体は、先の偵察で、懸念されていた鉄砲水が、近くの川で発生したようで、メーリカと一緒に戻ってきた兵士は、轟音の発生とほぼ同時に音の発生場所に向かい、川の状況を確認していた。
兵士が言うには、鉄砲水で上流からの流木に混ざって、敵の軍用車両やドラム缶など多数の軍事物資も流れているそうだ。
少なく見積もっても、上流に敵部隊が大隊規模で展開していると報告にあった。
念のため川にも哨戒をたのもうとしたが、既にメーリカが配下の兵士2人を捕まえて、指示を出していた。
外に出ていたのが轟音とともに出て行ったメーリカたち2人を含め4名、数分で戻ってきたのがメーリカと兵士1人で、外には現在2人がいる計算になる。
突発的な事態にも関わらず、慌てず哨戒に必ず2人を充てて、かつ、突発的な問題の調査に出て、すぐに報告に来るなんて、どんなに優秀な人たちなのだろう。
この調子なら俺、いらなくね。
少し悲しい。
「山猫分隊」は本当に優秀だな。
この分なら、俺は何もしなくとも余裕で功績を挙げられそう。
過去の9人の小隊長は、どうしたらこの分隊を使って、失敗ばかりしていたのだろう。
俺の場合、あの、アプリコット准尉もいることだし、当面は、彼女たちに任せて、何もしない方がいいかもしれないな。
くだらないことをうだうだ考えていると、続報が入ってきた。
軍事物資や、流木に混じって、大小さまざまな大きさの氷が流れているとのことだ。
「確か、川の上流には氷河があったよな?
機長、上流に氷河湖があったか分かりますか?」
「ここの川かどうか記憶が定かではないのですが、この付近の川の上流に,そこそこな大きさの湖が氷河に混じってあったのを記憶しております」
「氷河湖が決壊したな。早々に、川の水も引くだろう。川の水位が下がったら、川原の捜索をしよう。面白いものが見つかるといいな」
夜も開け暫くすると、濁流の流れる音も聞こえなくなり、川に哨戒に出ていた兵士が戻ってきた。
彼女が報告するには、川の水位が下がり、かなりの広さの川原が見えてきたそうだ。
また、川原には多数の流木の他に、かなりの軍事物資もあるそうだ。
グラス少尉はアプリコット准尉とメーリカ軍曹に向かって、命令を発した。
「全員で、川原の捜索をしよう。どちらにしても、当初の予定通り、ここから離れるので、必要物資を持って川原に散歩に出るよ」
「少尉、真面目に仕事してください」とアプリコット准尉は怒ってきたが、メーリカ軍曹は、ヤレヤレといった表情で、部下に指示を出していた。
早速、全員で移動のための準備を始めた。
軍曹を中心に兵士全員で、機内から移動の際に必要とされる物の捜索を始め、俺とアプリコット准尉、輸送機クルーで敵に渡るとまずいもの、通信暗号表や、通信機、飛行地図などの処分を手分けして始めた。
手分けして、持ち物をまとめ、川原に移動を始めたのが、昼頃になっていた。
昨日までの悪天候もすっかり回復し、雲一つないくらいの快晴になっていた。
「ピクニックには最高の天気になったな。これが、本当のピクニックだったら良かったのに、これから待ち受けているのが、虫の食事付きの最悪の行軍だと思うと、天気とは裏腹に気分が滅入ってくる。せめて、川原にお宝を期待しよう」
「少尉! 何のんきなことを言っているのですか。何度言えば分かりますか?
いい加減な言動は士気に関わります」と、当然のごとくアプリコット准尉にお叱りを受けた。
隣で、軍曹と機長は、何2人は夫婦漫才をしているのだろうと、温かい目で見ている。
川原まではわずか1~2kmなので周囲を警戒しながらでもすぐに着いた。
全員が、川原に着いて、あたりを見渡すと川原の様子に絶句した。
川原には、そこかしこに流木やら、軍事物資やらが散らばり、軍の特殊車両も横倒しやら、ひっくり返しの状態で転がっていた。
中には、激しい濁流に巻き込まれたせいか酷い状態の敵の遺体まであった。
正直,見たくないものだ。
「軍曹、悪いが、川原の遺体を先に片付けてくれ。正直、苦手なのだ。その後、ゆっくり捜索しよう。食料や、他に使えるものがあるといいのだが」
「遺体を川原の端に集め、簡単に埋葬しましょう。その際に、身元を確認できる物を集めておきましょう」とアプリコット准尉が続けてくれた。
どちらにしても、遺体から悪臭が出るまでにここを離れたいものだ。
本当に優秀な「山猫分隊」の皆さんは、早速無駄なく作業を始めていた。
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