第7話 ブル連隊長の苦難 特任旅団の創設と海軍との初の大規模合同作戦

 車が止まり、ドアが開くと、そこには副本部長の秘書官が待っており、副本部長に対して「既に皆様が、会議室でお待ちです」と告げてきた。

 副本部長は「今日は一息入れる暇もないのか、酷い1日だな」と、ぼやいていた。

 しかし、サクラ大佐は、『本当にぼやきたいのは私の方だ』と思わず、ツッコミを入れたくなったが、そこは流石に我慢した。


 会議室には、既に統合作戦本部 本部長、戦略室ゴンドワナ方面作戦課長、第3作戦軍司令部付き次席参謀など、陸軍のゴンドワナ方面での主要なメンバーが揃っていた。

 また、変わったところでは、彼女の上司である近衛第2師団長、情報局諜報部から、ゴンドワナ方面作戦課長、海軍連合艦隊司令部直属の補給艦隊司令官まで出席していた。


 サクラ大佐は、『一体、なんの会議をするつもりか』と訝しがった。

 このあと約二時間の会議で話された内容は、以下のとおりである。


 情報局諜報部から

 ゴンドワナ方面の近況

 第三作戦軍司令部付き次席参謀から

 ジャングル周辺での共和国側の動き

 統合作戦本部 本部長から

 特任旅団立ち上げを二ヶ月以内でしてもらう件について

 旅団の早期立ち上げのため、中核を成す彼女の第7連隊は、2週間以内に引っ越す

 来週の初めに帝都で第七連隊移動のパレードを中隊規模で行う

 パレードにはサクラ大佐も参加すること

 近衛第2師団から

 サクラ大佐承認により、第七連隊の引越に関して、現駐屯地での指揮一切を不在のサクラ大佐に代わり第二師団がとる

 海軍連合艦隊司令部から

 明日から、順次第7連隊をゴンドワナ大陸に運ぶことができることについて

 最後に、統合作戦本部の本部長がサクラ大佐に、第三作戦軍ジャングル方面軍司令官宛の密封命令書とサクラ大佐宛の密封命令書を手渡した。

 なんでも、第三作戦軍司令部付き次席参謀はこのあと、新設旅団の追加メンバーや、資材等の手配について、二週間ほど帝都に残り明日到着する辺境ジャングル方面軍 主席参謀と一緒に事に当るそうだ。


 サクラ大佐は軍の無茶振りに、今にも爆発寸前である。

 お腹も減っていてイライラしていたのもあるが、通常新たな軍(旅団、師団規模)の新設では、早くて半年、通常では1年以上かかるものだ。

 それを2ヶ月で!?

しかも、連隊規模の引越は、どんなに急いでも3ヶ月はかかるのが常識だ。

 しかも、今回の引越は海を越えての引越で、2週間以内に現地入りなど無理な相談でしかない。

 いくら皇帝からの勅命だとしても、無理筋を強引に進める軍に対して、殺意すら覚える怒りを感じていた。

 その怒りに油を注いだのが、ある幕僚からの心無い一言だった。


「この度の作戦は、陸軍と海軍双方の協力があって初めて成功するもので、この規模の作戦行動としては、帝国史上初めてのことである。

 是非とも成功させなければならないが、成功した暁には、その功績は長く帝国の歴史に残るだろう」


 それを聞いたサクラ大佐は「何を言っているのだ、このボケが」と危うく喉のところまででかかったが、副官の執り成しもあり発することはなかった。


 しかし、この度の引越作戦は、ものすごい。

 既に連隊駐屯地には、第一補給大隊が隊総出で発令を待っている状態で、発令後1時間以内に最初の出荷が出来るそうだ。

 近くの軍港2箇所には連合艦隊所属の補給艦隊の艦船が集まりつつあり、連合艦隊は向こう1週間、この補給艦隊からの補給は受けられず、補給艦隊全艦船が引越にあたることになっている。

 2箇所の軍港には既に準備が整った艦船数隻が待機して、明日以降積荷が整い次第出航の運びとなっている。

 また、補給艦隊の移動に際して、連合艦隊第3艦隊が艦隊を挙げて護衛にあたり、護衛空母3隻まで駆り出されている。

 ゴンドワナ大陸での移動は、最後まで、第一補給大隊が受け持ち、第3作戦軍増援の東部正面軍の1個連隊が護衛にあたることになる。

 陸海軍総出の作戦で、作戦規模としても、過去例のない物で、たかが引越で、まったくもってふざけた作戦だ。


 呆れやら、怒りやらで、会議の間中ずっと不機嫌を隠しきれないサクラ大佐ではあるが、会議終了直前に、新設旅団の幕僚について説明を受け、やっと落ち着いてきた。

 今回の新設は軍始まって以来の急ごしらえで、その中核は彼女の花園連隊こと近衛第七連隊が受け持ち、当然幕僚もそこから多数を輩出することになるが、連隊規模を旅団規模に上げるため、どうしても人材面で不足勝ちになる。

 軍上層部も当然そのことは認識していて、最大限協力してもらえることになっている。

 無理のない範囲で、欲しい人材については希望を聞いてもらえる。

 彼女のための配慮か、最初の幕僚の補充に関して、彼女に近い人物を連れてきた。

 補充幕僚の紹介を兼ねて、会議室に連れてこられた幕僚達をみて、彼女はとても喜んだ。

 ひとりは、父の下で長く父を支えてきた頑固だが実に頼りになり、彼女が幼い頃から「おじさま」と呼んで慣れ親しんできたオーヤル サカキ中佐である。

 彼は、自身が長く育ててきた工兵などの特殊大隊を任されての参加だ。

 そして、もうひとりが、レイラ・フジバヤシ中佐である。

 彼女とは士官学校で主席を互いに競っていた親友の間柄である。

 彼女はちょっと特殊で、ある意味この旅団の中心となる諜報作戦中隊を率いての参加である。

 彼女の現在の職場は情報局諜報部ゴンドワナ作戦課で、役職は課長代理である。

 彼女もサクラ大佐と同じ27歳で中佐である。

 この歳で、本部内の課長補佐は異例とも言える出世であり、そのため、当然周りの男どもからは嫌われており、今回の人事はある意味厄介払いの感は否めない。

 しかし、それだけではなく、純粋に彼女の高い能力が今回の一連の戦略では必要であるというのが、情報局、軍、行政府が共に認識した結果である。


 2時間かけて会議を終えると、会議室に副本部長の秘書官がサクラ大佐と紹介された新幕僚をまたまた拉致するように、先ほどのリムジンで軍の持つ帝都飛行場に連れて行った。


 本当に軍は、明日中に旅団幕僚本部を現地に立ち上げさせ、すぐにでも機能させるつもりであった。


 軍のこの性急ぶりにいささかきな臭さを感じたサクラではあったが、情報部の親友が幕僚に加わったことから、すぐに理由は判るだろうと慌てずに、辺境ジャングル方面軍 司令部に向かった。

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