第8話 墜落の一報

 帝都にある軍の飛行場では、近日中に実戦配備される最新型の高速輸送機がエンジンを始動して待機中であり、護衛の戦闘機1個中隊は既に上空待機状態であった。

 会議を終えたばかりのサクラ大佐とその幕僚数名は、統合作戦本部副本部長の副官に拉致されるがごとく、リムジンに押し込まれ軍が持つ帝都にある飛行場に向かった。

 彼女らを乗せたリムジンはこともあろうか飛行場の建家をそのまま通りすぎ、滑走路を通り、滑走路上で待機中の輸送機のすぐ脇に付けた。

 普通ならばVIP待遇であっても、飛行機は駐機場で待機しているものだが、今回は滑走路上に待機して、今にも離陸しそうな状態であり、その脇に車で乗り付けるとは、車中にいる幕僚全員が驚いていた。

 車が飛行機脇に停車するとすぐに車の扉が開けられ、飛行機へと促され、慌ただしく機内に入ると、すぐに飛行機の扉が締められ、飛行機は滑走路を加速していった。

 慌ただしく離陸した輸送機が安定飛行に入ると、輸送機の通信担当がサクラ大佐のところまで来て、ジャングル辺境方面軍司令部からの通信を伝えた。


「サクラ大佐、ジャングル辺境方面軍司令部からサクラ旅団長宛の電文です。第三種暗号でしたので、私の方で暗号解読を行いました。内容は、旅団に配属予定の軍人を輸送中の輸送機が、二時間前に第二七場外発着場手前約100KMで、機体トラブルの無線を送信後、連絡が途絶えました。輸送機内の人員ですが、士官二名、下士官二名を含む一個分隊一二名、輸送機クルー四名の総勢一六名です。詳細はこちらになります」

 と言って、通信担当はクリップボードをサクラ大佐に差し出した。

 彼女は、受け取りのサインをし、通信本文のみを抜き取り、クリップボードを通信担当に返した。

 クリップボードを返すサクラ大佐の手がワナワナと震えていていた。

 朝からの彼女を取り巻く状況の急激な変化、それこそ笑い話にでも出てこないくらいの変化に加えて、朝からろくに食事も取れずに空腹を抱え、相当にイライラしていたところでの事故報告で、とうとう彼女は切れた。


「旅団司令部もできてないのに、なぜ、事故報告が先にくるのよ。私のせい?私が何をしたというのよ。誰か私を呪っているとでも言うの?」

 と、周りに当たり散らそうとしたところを、彼女の副官と、同期で、新しく彼女の幕僚に加わったレイラ・フジバヤシ中佐が、彼女をなだめ、落ち着かせた。

 副官は、輸送機のクルーに軽食を用意させて、サクラ大佐にとるように勧めた。

 空腹は、彼女をイラつかせている原因の一つでもあったためである。

 サクラ大佐は食事をするため、目を通した通信文をレイラ中佐に渡し、中佐は内容を確認した。

 通信文を見ながら、レイラ中佐は一言言った。

「これは、少し痛いかも。行方不明の分隊って、あの『山猫』じゃない。それに、士官のひとりは、今年次席で、ブルの再来と言われるあのアプリコット准尉でしょ。最低でも、彼女だけは助けたいわね」

 軽食を食べながら、サクラ大佐は、レイらの返事を返す。

「旅団最初の仕事は、搜索と救助ね。さっさと司令部を立ち上げて、捜索に取り掛かるわよ」

「あの『山猫』が一緒で、撃墜でないのなら、十分に助かる可能性はあるわね。どちらにしても、司令部を立ち上げないと話にならないわね」

 それからは、サクラ大佐とレイラ中佐、それに副官とで、司令部立ち上げについて、機内で打ち合わせを行っていった。


  一方、墜落した機内では、ドタバタの末、指揮権を得た蒼草が、やっと腹を据え、会社での経験を活かし、トラブル対応を始めた。クレームを激しく言ってくるモンスターはいないが、本当の敵が出てきてもなんら不思議のない最前線で。(怪獣の類のモンスターはいないが、もしかしたら、熊くらいの危険動物は出るかも)


「まず、安全の確保が大事だな」


 すると、軍曹のメーリカが「周囲に偵察を出したいね。とりあえず、二人ひと組で3方向位は欲しいかも」

 アプリコット准尉がすかさず「この輸送機を中心に3方向、北から12時方向と4時方向と8時方向の3組出すのが妥当でしょう。日没まで数時間もないことから、周囲5kmくらいの偵察を出したらどうでしょうか」

「わかった、すぐに出して下さい。人選はあなたに任せます」

 で発した最初の命令が、およそ軍人にはなじまないお願い口調で、メーリカには呆れられ、アプリコットにはすかさず小声で、「少尉、お願いですから、命令はきちんと命令口調で発してください。指揮権の問題がありますので」と、やや強い口調で怒られました。


 すぐに、メーリカはかつての部下幾人かを呼びつけ、指示を出し、偵察組は輸送機から出て行った。


「一晩ここで明かす。

 残りの者は、交代での夜間哨戒のため、待機して体を休めてくれ。で、悪いが、輸送機クルーと下士官以上は、状況の確認をしたいため、付き合ってくれ」

 と蒼草が、一応指揮官のようなセリフを吐き、状況の把握を始めた。


「それで、機長に質問しますが、墜落した現在地は分かりますか?できれば地図が欲しいのですが」

 すぐに機長は、航法士に地図を用意させ、現在地を説明した。


 現在地は目的地である第二七場外発着上場から南に100kmくらいの場所であり、近くにやや広めの川があるが、先日までの嵐のこともあり、川原への着陸を諦めたこと、また、墜落直前には、緊急遭難無線を発信したことなど説明があった。

 また、この付近は、ジャングルを挟んで、共和国と向き合っており、空の上では頻繁に敵との遭遇が遭ったことなどの説明を受けた。


 アプリコットからは、ジャングル内での共和国の活動が活発になってきており、基地手前100kmの位置で敵との遭遇があっても不思議ではないと教えられた。


 あと、彼女たちからは、付近の地形や気温変化などについても情報提供があった。

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