第2話 うまくいってる?

 女は彼氏ができるとつきあいが悪くなる。なんて言うけど、もちろん世の中の女性全員がそれに当てはまるわけじゃない。

 西川くんと付き合い始めてからも、明日香とはしょっちゅうお喋りするし、暇な時は私の家に入り浸る。


 お喋りって言っても、喋るのはたいてい明日香で、わたしはそれに相づちをうつだけってのがほとんどだけど、それは今までだって同じ。私たちは、何も変わらない。


 変わったのは、明日香の話す話題に、西川くんが出てくることが多くなったってことくらいかな。

 ただこれは、私にも原因がある。

 彼氏とはどうかとか、西川くんとふだん何やってるかとか、それとなく聞いているんだから。


 明日香がどんな付き合いをしてるのか、どうしても気になるのよね。

 聞いたら聞いたで、その度に複雑になるけど。


「えっと、この前は一緒に映画見に行った。探偵もののアニメシリーズでね、今回もまた色んなところが爆破されたな〜」

「そう」

「私たちが行った映画館ではコラボドリンクなんて売っててね、タンブラーにキャラのイラストが描いてあるの」

「そう」

「今回の映画は特に面白かったから、見終わったあと思わずパンフレットとグッズを衝動買いしちゃった。おかげでお小遣いがピンチだよ」

「そう」

「……って、千里。さっきから『そう』しか言ってないじゃない。元々千里が聞いてきたんだよ」


 明日香が頬をふくらませるけど、本気で怒ってるわけじゃない。


 一方わたしは、少しご機嫌ななめ。その映画、去年までは私と一緒に見に行ってたのにな。


 ううん。実はと言うと、今年も一緒に見に行こうって言われたんだ。それを断ったのは私。

 せっかく彼氏ができたんだから、一緒に行きなさいって言ったのも私。だから、不機嫌になるなんて間違ってる。


「って言うか明日香。さっきから映画の話ばっかりじゃない。西川くんはどうしたのよ」

「そりゃ、映画見に行ったから映画の話になるのは当たり前じゃない」

「そりゃそうだけどさ。じゃあ、映画を見終わった後は? それからどうしたの?」

「それが、西川くんに用事があってさ。見終わった後はすぐに解散。で、暇になったからここに来たの」

「今ってデート帰りだったの? なのに、その格好…… 」


 今の明日香の服装は、普段着感満載。特別ダサイってわけじゃないけど、デートにこれを着ていくかって言われたら、多分ほとんどの女子がノーと言うだろう。

 ダサいことにかけては私も人のこと言えないけど、明日香もたいがいだ。


「そんなんで、まともな彼氏彼女なんてやれてるの?」

「失礼な。ちゃんとうまくいってるよ。多分」


 多分、ね。果たしてそれは、私にとっていいことなのか悪いことなのか。




 ◇◆◇◆◇◆




 その日の夜。私は一人、近所の駅前にあるコンビニに出かけていた。

 最近ずっと続いてる、胸のモヤモヤ。それをなんとかするには、おいしいものでも食べるしかない。できることなら甘いものがいい。


 そう思い立った私は、コンビニでアイスを、しかもアイスの王様とも言える、ハーゲンダッツを買いに行った。

 これなら、沈んでいた気分も少しはマシになるはず。


 だけど、アイスを買ってコンビニを出て、ふと駅の方に目を向けると、そこに知っている顔があった。


(西川くんだ)


 明日香の彼氏で、私をモヤモヤさせてる原因その2。モヤモヤを吹き飛ばすためにわざわざアイスを買いに来たってのに、そこで彼を見かけるなんて、いったいどんな巡り合わせなの?


 って言っても、向こうは私のことなんて知らないだろう。

 さっさと帰ろう。そう思ったけど、西川くんの隣に隣にいる人が気になった。


 私や明日香と同じくらいの歳の女の子。オシャレな感じで、けっこう可愛い。

 西川くんは、そんな子と楽しそうにお喋りしてる。


 まあ、西川くんに女友達の一人や二人いたって不思議はない。楽しそうにお喋りしてるのも、友達なら当たり前。

 改めてさっさと帰ろうとするけど、その時二人が、スっと人気のない道の方へと歩いていく。


 なんとなく、嫌な予感が頭をよぎる。ほとんど考える間もなく、二人が歩いていった方に、私もついていく。

 そこで私は、嫌な予感が当たっていたことを知る。


 道の角を曲がった先に、ちょっとだけ顔を出す。

 そこで私が見たのは、西川くんと名も知らぬ女の子が、抱き合ってキスをしている姿だった。


 それから先のことは、よく覚えていない。

 逃げるようにその場を離れて、気がついたら家に帰ってた。


 ただ、家に帰ってからも、しばらく呆然としてたんだと思う。

 せっかく買ったハーゲンダッツは、いつの間にかすっかりとけてしまってた。

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