百合の間に挟まる男にも劣るクズヤローに、私の大切な人は渡さない
無月兄
第1話 彼氏ができた?
「はっ? 彼氏ができた?」
私、飯塚千里は、友人の小松明日香から聞いた言葉を、そっくりそのまま聞き返す。
休日、家でゴロゴロしていたら、いきなり明日香が訪ねてきて、言われたのがそれだ。
明日香に彼氏。突然のことに、理解が追いつかない。
「うん、そうなの。隣のクラスの西川大地くんなんだけど、知ってる?」
知ってる。我が高校の男子バレー部のエース。けっこうなイケメンで、もちろんモテる。
そんな人がなんで明日香と? とは思わない。
明日香だって、女子バレー部のエースだ。男子と女子で分かれてるとはいえ、バレー部同士接点も多い。
さらに明日香は、その面倒見のいい性格から、女子の間では相当好かれている。そんな彼女の魅力が男子にも伝わったとしても、なんの不思議もない。
むしろ私みたいな奴こそ、明日香とは正反対。
ムダに主張の激しい黒縁メガネに、目が隠れるくらいに伸ばしきった前髪。明日香が陽なら、私は陰。あるいは、水と油。
なのにこうして一緒にいるのは、小さいころからそばにいた、幼なじみの腐れ縁だ。
だけどまあ、明日香と西川くんがつきあうなら、私よりもそっちを優先させるかな。
それは、仕方ない。そう、仕方のないことなんだ。
なのに、どうしてかな。
「初カレだからって、舞い上がりすぎないでよ。はしゃぎすぎて、引かれるかもしれないよ」
こんなことを言ってしまう自分が嫌になる。
友達としては、素直に祝福してあげるべきところなのに。
付き合うって報告をして、言われた言葉がこれじゃ、怒ったとしても無理はない。
なのに、怒るどころか嫌な顔ひとつしていない。
「わかってるって。心配してくれてありがとね」
「別に、心配なんてしてないから」
今の発言を、どこをどう受け取ったらそういうことになるんだろう。
まあいい。これ以上混ぜっ返しても、絶対にろくなことにはならないんだから。
だから今度こそ言うんだ。
「お、おめでとう」
「うん。ありがとう」
やっと言えた。ニカッと嬉しそうに笑う明日香は、とても幸せそうだった。
それから、こんなことを言う。
「千里も彼氏ができたら、ダブルデートしようね」
それを聞いて、私は曖昧に頷くことしかできなかった。
◆◇◆◇◆◇
私に彼氏ができたら。明日香が帰った後も、この言葉が脳内に響いてる。
明日香のこと。多分、そんなことになったら楽しそうって、本気で思ってるんだろう。
だけどあいにく、そんな未来は絶対にこない。
部屋の隅にある姿見の前に立ち、メガネを外し、伸びた前髪をかき分ける。
我ながら、ずいぶんと顔を覆ったもんだ。家の外に出る時は、これにマスクをつけるから、顔のほとんどが見えなくなる。
そうまでして隠した私の素顔は、大変不本意なことではあるけど、異性にとっては魅力的に映るらしい。
このせいで、中学の頃は男子に言い寄られること多数。女子に妬まれたことも多数。彼氏を取られたって、顔もも知らない男の名前を出されて罵倒されたこともあった。
冗談じゃない。男に言い寄られるのも、女に恨まれるのもごめんだ。
メガネも前髪も、トラブルから身を守るための鎧だった。自分の顔を、誰にも見せたくなかった。
これに加えて、ひたすらに無愛想に無表情でいる。さらには、中学までの知り合いがほとんどいない高校に入る。
そうすることで、男子も女子も、みんな私から離れていった。
ただ一人、明日香を除いては。
明日香だけは、私がどんな揉め事を起こしても、超絶陰キャになっても、変わらず隣にいてくれた。
そんな明日香に、私はいつしか恋をした。
もちろん、そんなの本人に言えるわけないけどね。
同性を好きになるなんて、最近じゃだいぶ受け入れられては来たと思うけど、それでもやっぱり少数派。明日香だって、彼氏を作ったってことは、好きなのは異性でまちがいない。
なのに私が好きなんて言ったら、きっと困らせる。彼氏なんて作らないで、私と付き合ってなんて、言えるわけがない。
私はこれからも、自分の気持ちを隠して、ずっと明日香のそばにいる。
だから、ごめんね明日香。私が彼氏を作って一緒にダブルデートなんて、そんな未来は来ないから。
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