第11話 結婚の約束忘れてないからね? (雫視点)


 たっくんは天野さんを説得させて帰らせた。


 そして天野さんが帰るのを見届けてから彼も歩き始めた。


 い、行っちゃう!!お礼言わないと!


 私は反射的に彼に声をかけた。


「ま、待って!!」


 彼は私の声に歩くのを止め、振り返った。


 私は数ヶ月ぶりにたっくんと向かい合った。昔に比べて背も高くなり、顔もより大人っぽくなっていた。


「……何かな?」


「あ、あの! さっきはありがとう……。」


 私は心の底から彼に感謝を伝えた。恥ずかしかったがこれでも結構がんばったつもり。


 だが彼はちっとも表情を変えていなかった。


「いいよ、別にお礼を言われるような事じゃないし。じゃ俺は帰るよ、じゃあね姫宮さん」


「え……?」


 私は衝撃のあまり虚をつかれたように愕然とした。


 え? 今私の事姫宮さんって……言った?


 彼が何故昔のように読んでくれないのかとおもっているとたっくんは私に背を向け、再び歩き出した。


「待って!!」


 私は彼にもう一度呼び止めた。


「まだ何かようかな? 姫宮さん。」


「っ……!!」


 再び振り返った彼の目は私を他人を見つめるようなどこか寂しいものだった


 そこで私は気づいた。彼はこの高校では私との関係を秘密にしたいのだと。


「ごめなんでもない呼び止めてごめんね。霧海くん」


 私は彼の望みを叶えることにした。彼が私と関わりたくないのならばもう関わるのはやめようと。




  と少し前の私はこんな事を心に決めたのに結局私は彼と今も関わっている。


 彼と再び関わるようになって私の生活は変わった。男の子だけど女の子ぽい結絆くん、いつも面白い事を言って場を盛り上げる涼くん、とっても可愛くて優しい由紀ちゃん。それに不器用ながらも私のことを思ってくれるたっくん。


 このみんなと友達になれて本当に良かったと心の底から思っている。


 でも……


「たっくんはもう私を異性としてみてくれないのかな?」


 たっくんは私と徹底的に友人としての距離感を保とうとしている。もしかしたら卒業までずっとこの関係を維持するつもりだろう。


 たっくんと友達として接するのも確かに楽しい。でも私はやっぱりたっくんと異性同士として接したいと思ってしまう。


「たっくん……私結婚の約束忘れてないからね?」


 私は昔に撮ったツーショット写真に向かってそう呟いた。




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