第5話 幼馴染とお昼ご飯


「拓真! おべんとたべよ!」


 いつものように元気そうな結絆がお弁当を持ちながら言ってきた。


「おう、あれ?あいつらは?」


「あっち見てみて」


 そう言われ見てみると、涼と由美がお互いにあ〜んをしあっていた。


 こんなふうに場を弁えずにイチャつくことがあいつらが学年でバカップルと言われる原因である。


「相変わらずだな」


「そ、だから今日は僕達でたべよ?」


「りょーかい。 で、何処で食べる?」


「うーんラウンジは混んでるだろうし……あ! 屋上行こうよ! あそこならあんま混んでないだろうし。」


「屋上か……わかった。 それでいこう」


「そうと決まればレッツラゴー!」


 結絆の楽しそうな声ともに、俺たちは屋上へと向かう。屋上へはただ階段をの張っていけばいいだけなので非常に楽だ。


 そしてあっという間に屋上についた。


 まではよかっだのだが、屋上にはすでに先客がいた。


「あれ? 姫宮さん?」


 そこにいたのは学年の高嶺の花であり俺の幼馴染の美少女、姫宮雫だった。


「ん?」


 話しかけられた雫がこちらに振り向く、そして俺を認識すると、気まずそうに目を逸らした。


 同時に俺も目を逸らした。


 しかし、コミュ力お化けの結絆は初対面の雫相手にもどんどん話しかける。


「やっぱり、姫宮さんだ!」


「え、えっと……あなたは……?」


「僕は中野結絆、こっちは親友の霧海拓真だよ。」


「わ、わかりました。」

 

 まずい。なんとかこの場から去らなければ

、気まずすぎる!


「結絆、姫宮さんに悪いし、今日は別のところで食おう。」


「えー! せっかくここまできたのに……あ、いいこと思いついた! みんなで一緒に食べよ、それで解決だよね。」


 結絆ぁーー! 何やってんだお前ー!!


 距離の詰め方がやばすぎる。全然悪意はないんだけど、正直引いた。


「じゃあ一緒に食べましょうか。」


「やった! いいって拓真!」


「はぁ、しょうがねぇなぁ……。」


こうして幼馴染との昼食が始まった。




「いやーまさか学年のアイドル姫宮さんと昼食できるなんて夢みたいだよ。ね、拓真もそう思うでしょ?」


「あ、ああ。ほ、ほんと夢みたいだよなー」


「わ、私もご一緒できて嬉しいですー」


「……」


「……」


 そして無言。 先ほどから結絆が話し、それに俺と雫が反応するというのが続いていて俺と雫はまだ一言も喋っていない。


 昨日あんなことがあったからお互いに気まずい空気が漂っている。結絆がいなかったら地獄だっただろう。


 すると俺の顔をひょっこりと結絆が覗き込んできた。


「どうしたの? さっきから姫宮さんと一言も喋ってないけど」


「い、いや! ただ緊張してるだけだ……」


「へー! 拓真も姫宮さんに対しては緊張するんだ〜」


「悪いか」


「いや、拓真って普段女子に目もくれないから興味ないのかなーって思ってさ。」


「俺もちゃんと異性に興味あるわ。」


 そんなふうに結絆と話していると、雫がこちらを微笑ましそうに見つめていた。


「お二人ってすごく仲がいいんですね」


「まぁね、僕と拓真は一生親友だから!」


 結絆は自慢げに腕を組んでコクコクと頷いた。


 ほんとコイツこういう所かわいいな。


「羨ましいです。 私はあまり友達がいなくて」


「ん? 朝よく話してるじゃないか。」


「あれはただの話し相手という感じで、友達という相手はいないんですよ。」


「……そうか。」


 てっきり俺は雫にはもうすでに多くの友人がいるものだと思っていた。


 だが実際は違い、雫は入学式の時から孤独を感じていたんだ。


 恐らく中学校時代の友人はこの学校には一人もいないのだろう。しかも唯一の知り合いである俺は昨日あんな他人のフリをして雫を遠ざけるような真似をしてしまった……。全く俺は本当に馬鹿だ。


「決めた。」

 

 俺はそう小さく呟くと、スマホを取り出しその画面を雫に見せた。


「えっとこれは……」


「俺の連絡先だ。一人も友達がいないのは寂しいだろ。」


「あ、ずるい! これ僕の連絡先。 姫宮さんと友達にならんなんて今日ついてる!」


「ほらこれでもう二人も友達ができたぞ。」


 彼女と距離を離そうと思ったのは彼女に幸せになってもらいたいだけであって、彼女が不幸にするためではない。


 まぁこれくらいはいいだろう。


「あ、ありがとうございます! 中野君に、霧海君!」


「名前でよくないか、俺達はもう友達だ。」


「はい! そうですね、結絆君、拓真くん!」


 その日俺たちは友人になった。




 





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