第8話 漏れ出る命の焦燥

 

 ――この激情を乗せられるなら、死んでもいい。


 筆を走らせる手を止めず、涙を零しながら色と筆先で繋ぐ。彼女に抱いた日々の羨望を、胸に秘めたこの激情と共に紙切れに落とし込んでいく。

 青色で、塗り潰していく。


「――――全員、死んでしまえ」


 絵の意味だの解釈だの、他人が勝手に評価する物など構ってられるか。

 俺に、この絵を描かせろ。

 この零れる涙の意味も、語られなければ理解できない奴らは、全員黙らせてやる。

 この絵を見て、少しでも、たった少しでも。

 俺の孤独が、孤独でできた青を閉じ込められたなら、それ以上の幸福はない。

 彼女と一緒にいて描くようになった水彩画で、俺は描き切った。


 「……描けた、これが俺の今出せる最高傑作」


 人魚の絵だ。

 青白い肌をした自分自身を抱きしめ涙する孤独な絵。

 自分自身が泡となって消えてしまう、その瞬間の絵。

 涙を袖で拭っても、この激しい孤独感は埋まらない。

 もっと、もっとだ。これだけじゃないはずなんだ。描け、描くんだ。

 この激情が溢れている内に、全てを叫び続けるために。

 透は強く、筆を握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る