一緒に帰りましょう!
「先生。今日から一緒に帰りましょう。教室で待っているからお仕事が終わったら来て。」
家を出る前に深雪さんに引き留められる。
「いや〜、もう大丈夫だよ!今日から車で行くしね!」
まだ本当にストーカー入るとは決まっていないけど、車を運転することよりストーカーに襲われる方がよっぽど怖いので頑張って車通勤にする。
あれ?
車の鍵、どこやったっけ。家に引き返して、いつも鍵を置いている場所を漁ったけど、ない。
あれあれ。ない。
ない!ない!!頭が真っ白になってしまった。
どうしよう。こういうとき、どうすればいいのかな~?
やっぱり、ディーラーに相談するのかな。
でも、いまもう時間ないし…
「ごめーん、深雪さん、車の鍵知らない?」
「さあ。玄関になかったの?」
「うん…車に置き忘れたってことはないと思うんだけど…」
「…ストーカー…」
深雪さんがぼそっととても怖いことを言った。
ゾワっとして、硬直してしまった。
どうしよう。
気のせいだと思いたかったけど、本格的にストーカーされてるっぽいなあ…
うーん、怖い。できれば深雪さんと一緒に帰りたいけど、疑惑が確信に変わりつつあるこの状況で、生徒を一ミリでも危険にさらしたくない。
「じゃあ先生、今日一緒に帰ろうよ。」
ソファに寝転がっていた深雪さんが、立ち上がって言った。
「…い、いや、本当にストーカーだったら、危ないから。」
「先生一人のほうが危ない。あと、そんなこと言ってどうせ月代さんと一緒に帰るんでしょ。」
やっぱり、見られてか。まあ、深雪さんが月代さんと帰る私を発見する分には問題ない。彼女に、深雪さんと一緒に住んでいることがバレていなければ。
「いや、いままではそうしてたけど、本当に、ガチのマジでストーカーがいそうだから、もう生徒は巻き込めないよ!」
「私、鍛えてるし強いよ。ベンチプレスはマックス50キロだし、変なおっさんくらいなら一撃だよ。」
ベンチプレス50キロが強い証拠になるのかはわからないが、私の体重以上は持ち上げることができるなんだな。
確かに私程度のざこざこちゃんなら軽くポイーっとできそうだけど、ストーカーはたぶん、男の人だろう。
「いやいや、遅くなったら最悪、男の先生に声かけるから。」
保健の山崎先生を思い浮かべる。日焼けしてて、マッチョで、なんか強そうだ。
「…ダメだ。」
「え?」
深雪さんがすごい勢いでとびかかってきた。
壁に追い詰められる。深雪さんは近くで見ると意外と大柄で、ちょい怖い。
「駄目です!先生の貞操が危ない。どうせ体育の山崎だよね?あんなイカニモ酒で酔わせて女の子襲いそうな男はダメです。ツーブロックだし、色黒だし。」
「いやいやいや!それ、失礼すぎる偏見だよ!山崎先生はそんな人じゃないと思うよ?」
「ダメです!認めません!先生が心配なんです!山崎を去勢しない限りは安心できません。」
深雪さんは目をかっぴらいて、すごい剣幕でまくし立ててくる。こわい。
「そもそも、男を登場させてはダメだよ!」
「何の話です!?!?」
深雪さんはよくわからないことを言ってくる。
「な、なんでそんなに?」
「先生はかわいいです。そして、優しくてお人よしです。流されやすそうだし、断れなさそうだし、とにかく男と二人きりになるのは危険です!そもそも山崎がストーカーかもしれないし。」
深雪さんは男に対するヘイトが強すぎる。
「そんなこと言っちゃだめだよ!」
「確かに言い過ぎました。でも、絶対に私と帰りましょう。月代さんでもなく山崎でもなく私!!絶対に!!!!」
結局私が折れて、深雪さんと一緒に帰ることにした。二年一組の教室で待ち合わせだ。そういえば、ここ最近ずっと月代さんは二年一組の教師で自習をしている。深雪さん大丈夫かな、気まずくなっていそうだ。
今日もやっぱりお仕事が長引いて、暗くなってから、二年一組の教室に入る。
びっくりなことに、心配は外れたようだ。二人は楽しそうに話している。
というよりは、月代さんが一方的に深雪さんに話しかけている感じだけど。
深雪さんは…まあ、楽しそうだ。
「あ、先生!お疲れ様です!」
月代さんが私に気づいて、ニコニコしながら駆け寄ってくる。かわいい。
「あ、先生。」
深雪さんはこっちを向くだけだった。その顔は、なんとなく疲れているように見えた。
「今から帰りですか?一緒に帰りましょうよ!深雪さんも一緒に!」
「ありがとう!一緒に帰ろっか!」
暗い道を3人で歩く。
「先生、最近何かありましたか?」
月代さんが聞いてきた。
「うーん、車の鍵を盗まれちゃったっぽくて。」
「え!?やばいですね。やっぱり本当にストーカーが…」
その通りだよ全く。信じられないけど、ストーカーは実際にいる可能性が高い。私なんかをつけまわして何が楽しいのかな。
「心あたりはないんですか?」
心当たり…私、ほとんど男の人と関わりないしな。
「うーん、学生の時に告白してきた人が3人くらいいるけど、今と住所違うし…」
「そのうちの誰かかもしれませんね…」
月代さんは深刻そうに言った。
でも、その3人はみんな大人しくて真面目な感じだったんだけどな。
3人で(と言っても深雪さんは一言も発していない。)話していたら、家の最寄りまで着いた。
「先生、今日もお家の方までついていきます!」
月代さんが笑顔で言った。まずいな。今日は深雪さんも一緒にいる。月代さんに家まで着いてこられると、深雪さんが大変だ。
「え、えっと、私が家まで送って行くから…その、大丈夫。月代さん、自転車、だし。」
深雪さんが初めて喋った。ナイス!よくがんばりました。評定を上げてあげたい。
「…たしかに、深雪さんがいてくれるなら安心だね!じゃあ、私は帰りますね!お気をつけて!」
月代さんは、意外とあっさり引き下がった。
彼女は自転車に乗り、反対方向へと駆けて行った。
「…はあ、疲れた。」
家に着くと、深雪さんがぼそっと漏らす。
「お、おつかれさま。」
やっぱり、元気な月代さんと話すのは疲れるらしい。
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