2時間目 才色兼備の…?

先生はかわいい

今日は当直だったから、教室の戸締りをしていた。

2年1組の教室の電気が付いていたので見に行くと、また月代さんは自習をしていた。えらいなあ。


「月代さん、偉いね!今日も遅くまで自習するの?戸締りよろしくねー。」


「えっと、もうすぐ帰りますよ。」

「あ、そうなの?じゃあ、私窓とか閉めちゃうね。」

「いえ!私やります!」

月代さんはとことこ走って行って、窓を閉じて、クーラーを消して、全部やってくれた。いい子だ。


「せんせー、どうしたんですか?お仕事大変でしたか?」

仕事を終えた月代さんが駆け寄ってきた。

この子はなんというか、うん、かわいい。将来出世しそうだ。

「え?どうして?」


「なんか、元気ない顔してました。」


「うーん…私実は最近ストーカーされてる気がするんだよね。」


「えー!ストーカーですか!?」

薄暗い、さびれた教室に月代さんの声が響く。


「そうなんだよ…なんか最近、付けられてる気がするんだー。」


まだ姿を見たわけじゃないし、気のせいだと思うんだけど、私の近所変な人多いし。


「元カレとかですかね?」


「うーん、私彼氏いたことないんだよね。」

告白されたりはしたけど、あんまり恋愛に興味なかったというか、シンプルにタイプじゃなかったというか。


「えー、そうなんですね。ストーカーとかって、昔の男とかが多いって聞きますけどね。」


メンヘラ男ってやつだなあ。嫌いなもんは嫌いなんだから、振られたらきっぱりわかれればいいのに、それができない男も多いみたいだ。


「先生かわいいから本当に変な人に狙われてそうで怖いです。」


「いやあ、なんか複雑だなあ。」


「先生かわいいので。」

念を押すようにそこだけ繰り返す。

なんで二回言ったんだろう。


「じゃあ、護衛って意味で今日は一緒に帰りましょう。」


わあ、すごく心強い!一人でいるより、全然いいって聞くし、本当に助かります!

一緒に電車に乗って、一緒の駅で降りる。

「じゃあ、ありがとうね!怖いけど、ここからは別れちゃうもんね。」

「え?いや、先生のおうちまで送りますよ。先生を送り届けたら、チャリで飛んで帰りますから!」

月代さんは自転車を手で押しながら、私の隣を歩いてくれる。


にぎやかな駅前を抜けると、体に力が入らなくなる。やばい。若干トラウマ。

ぎゅっと、手を握られる。月代さんの手はあったかくて、すごく安心した。

「先生、大丈夫ですよ、私がいますから。」

ちょっと、そんなこと言われたら、普通にドキドキしちゃうんですけど!!!


生徒相手に、しかも女の子なのに、ちょっとときめいちゃった。

…いやいかんでしょ。きっとあれだ。吊り橋効果だ。そうに決まってる。


月代さんは、片手で私の手を握り、もう片方の手で自転車を押す。すごく器用で力強い…


「ひゃっ!」物音がして、思わず声を出してしまった。


「先生、ネコですよ。」


月代さんが指さした先には、真っ白な猫。あぁ~びっくりしたあ。

私が見つめるとすぐにどこかへ行ってしまった。


駅が遠くなって、家が近くなると、街灯の数が減ってくる。

自然と、手に力が入る。


「先生、大丈夫ですか?」


「わ、うん。ご、ごめん。」



家に着いた。月代さんはドアの前までついてきてくれた。


「じゃあ、先生、また明日学校で!」


「うん!ありがとうね!」


月代さんは笑顔で手を振り、自転車に乗って去っていった。


ドアを開けると、深雪さんが目の前にいた。

「わっ。」


黙って、無表情で立っているのでちょっと怖かった。

私より頭一つ分以上背が高いので見上げないと顔が見えない。


「先生、おかえり。」


「た、ただいま!」


深雪さんは私を避けてドアの方へ行って、上下どっちものカギをしめて、ドアガードまでつけた。

深雪さんは私のことを本気で心配してくれてる。めっちゃ頼もしい。


「先生、今日誰かと一緒に帰ってきたの?」


「え、うん…ひゃあ!」


振り向くと、深雪さんに押されて、壁に追い詰められた。

顔が…ち、ちかい。めっちゃ綺麗…

壁ドンされてしまった。年下に。女の子に。美少女に。教え子に…


「な、なに…深雪さん…」


「今度からは私が一緒に帰るから。」


え、え、嫉妬ですか?なんだか大変なことになってしまった気がする。

深雪さんってそういうタイプだったの?

クラスのかわいい女の子と一緒に帰ったら、同棲してる美少女に嫉妬されて壁ドンされるとか。思春期男子の夢見るラブコメじゃないですか!

いや、私女の子ですし!なんか不思議な気分になってくる…


「あ、あとこれインストールして。」

深雪さんがスマホを取り出して、すぐに私のラインの通知が鳴った。予め準備していたっぽい。すごいな


「なんです?これ。」


「これ、先生がどこにいるかわかるやつ。」

お母さんが子供監視するやつじゃん!


「子供扱いしないでください!」


「ちがうよ。お母さんが子供監視するやつじゃないよ。高校生みんなやってる。インスタのストーリーとかでよく”交換しよー”とかやってるのを見るよ。

私は誰とも交換してないけどね…」


最近の高校生は、プライバシーという概念がないのか。あと、インスタは一応やってるのね。


「そ、そうなんだ…」「だからね、これは先生を子ども扱いしてるわけじゃないよ。本当に心配してるだけ。」


う、うう。そんなにまっすぐな瞳で言われるともうなにも言えなくなる。


「わ、わかりました。こうですか?」


インストールして、アプリ内でフレンドになって?完了です。


「これで先生に何かあった時に私が駆けつけられるね。」


おお、頼もしい。




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