バレたらアウトな同棲生活

ハプニングはあったけど、二人とも無事に家にたどり着いた。

本当によかった。帰ってきたのは7時。夕食にはちょうどいい時間だ。

さっそく買ってきた材料を使って、カレーを作ります。

料理苦手だけど、がんばるぞ。


材料を用意して、まずは切る。

そのまえにジャガイモの皮剝かないと。

「先生、私も手伝いますよ。」

深雪さんが後ろからそろりと現れた。

「うわっ!」

「うわっ!はひどいですよ。先生、私がジャガイモの皮剥いておきますよ。」

深雪さんは上からひょいとジャガイモを取り上げて、勝手に皮をむきはじめる。


「いいよ!私がやるから。」


「いえ手伝います。私料理得意なんです。先生はほかのやつ切っといてください。」

おとなしく引き下がって、肉や玉ねぎを切る。う、涙が。


材料を切り終わったら、鍋に油を引いて、炒める。

炒めたら、水を入れて煮る。具材が柔らかくなったら、ルーを入れて10分待ちます。

完成!


テーブルには二人分のカレー。ここに越してきてから、ずっと一人でご飯食べてたから、なんかうれしいな。


二人で並んで座って、カレーを食べる。

「おいしいです!」

「ね!」

教え子と一緒に夜ごはんを食べる。すごく不思議な状況だけど、ご飯は1人で食べるより、誰かと一緒の方が美味しいな。


ご飯を食べ終わって、片付けをして、リビングでごろごろ。この部屋にしかクーラーがついていないので、私もほとんどここにいる。

そろそろ9時なので、お風呂に入って寝ます。私は早寝早起きを心がけています。


「じゃあ、深雪さんおやすみー。」

「先生寝るの早いですね。おやすみなさい。」


朝が来ました。でも、今日私に朝を告げたのは、アラームでも小鳥の囀りでもなく、女子高生だ。



「先生、朝ごはん作ったので起きてください。」

目を開けると、もうすでに制服に着替えた深雪さん。

「ほえ。」

頭が回らない。あれ?なんで深雪さんがいるんだっけ。


「ほえ。じゃなくて。先生、早く起きないと仕事遅れますよ!」

深雪さんは私の体からお布団を一気に引きはがす。

あ、そうだった。私は深雪さんを1日家に泊めてるんだった。

おいしそうな匂いに誘われるままリビングに行くと、そこには朝食の準備ができていた。トーストとスクランブルエッグとコーヒー。至れり尽くせりだ。

「いただきまーす。」

トーストにバターをつけてかじる。うまい!こんなにちゃんとした朝ごはん久々かも。

食べ終わるとすぐに歯磨きして顔を洗って、着替えて車に乗り込む。

「先生、私も乗せてってください。」

「だめー!バレちゃうでしょ。がんばって自分で行きなよー!」


コーヒー片手に優雅に車通勤とか絶対無理だ。全神経を集中させて、ハンドルを握り、感覚を研ぎ澄ませる。

朝から心拍数は爆上がりだ。


ドキドキドライブを終えて、学校に着く。

今日は2年1組の担任の先生がお休みなので、私がホームルームをやります。

わあ!ホームルームやってみたかったんだよねえ。

でも、なに話せばいいんだろ。

学級委員の号令に合わせて、生徒たちはいっせいに立ち上がって礼をする。


「えっと、今日は、6時間目に体育祭の関係の話し合いで、7時間目は学年集会…だそうです!」

いざみんなの前に立つと頭が真っ白になってしまって、とりあえず日程表に書かれていることを読んだ。


…結局業務連絡だけをして終わった。

ホームルームが終わり、生徒たちはいっせいに散らばる。

1時間目から授業があるので、授業ノートを見直して、しばらくリラックス。

すると、深雪さんに話しかけられた。

うちに来る前は、学校で彼女と話したことがなかったので、ほかの生徒に怪しまれないか不安になる。


「先生。」

「わっ!どうしたの?」

「そんなに驚かないでください。お弁当忘れてましたよ。」

あっ、私お弁当忘れてたんだ。深雪さんがいてくれてよかった。

この学校の近くコンビニないし、お弁当持ってきてくれて助かった。

「わあ!本当にあり…ありがとう…」私のお弁当を深雪さんが持ってきていることがほかの人に知られたらまずい。声を小さくする。


すると、最悪なタイミングで月代さんがやってきてしまった。

「あれ、深雪さんと先生だ。珍しいなあ。何渡してたの?」

月代さんは私ではなくて、深雪さんに話しかける。


「…ノート、落としてた…」

深雪さんは月代さんを見ずにすごい小さな声でボソッと言った。ナイス。ノートを落とすのは少し無理がある気がするけど、誤魔化してくれた。


月代さんは納得したようだ。

そろそろ授業が始まるので、2人を置いて教室を後にする。


月代さんは本当に誰とでも仲良くできる子だ。あの調子で深雪さんとも仲良くしてくれればいいんだけどなあ。


授業が終わって、あっという間に放課後になってしまう。今日は定時に帰れそう。多少仕事を持ち帰って、家に帰る。


「ただいまー。」誰もいないから何も返ってこないけど、なんとなく言ってみる。

手も洗わないで、ソファにぶっ倒れる。

今日も疲れた。ご飯用意するのめんどいなあ。カップラーメンでいっか。でもお湯沸かすのもめんどくさい。


重い体に鞭を打ち、ポットのスイッチを押してお湯を沸かして、カップ麺を作る。


味がしない。いや、味はするけど、何も感じない。なんか寂しい。1人ってこんなに寂しかったっけ。4月からずっと1人だけど、こんなに寂しいと思ったのは初めて。

深雪さんがいたからかな。

カップ麺を食べ終えて、ゴミ箱にシュート。ラッキー、入った。ゴミ箱のそばには色々なゴミが転がっている。

お弁当洗わないと。でもめんどいから明日の朝でもいいか。

お風呂めんどーい。

そんなことを考えて目を閉じた瞬間、インターホンがなってイラっとする。

「はああ、なんだよー。」


「え?なぜ?」

ドアの前には、深雪さんが立っていた。

え、いやなんで。

「先生、私を居候させてください。」

国内線に載せられないくらいには大きな荷物だった。冗談じゃなくて本気で居候する気だ。

「いやいや!」

ダメでしょ。でも強く言えなかった。


「家事できますし、毎日ご飯作ります。先生の家に住まわせてくれたら、学校もちゃんといけます。」


強く言えなかったのは、決して自分の暮らしが結構楽になるからとかではなくて、深雪さんのご家庭がちょっと…闇深そうだから。


「手見上げも持ってきたので、とりあえず中に入れてください。」


「あ、はーい。」

まずい、ついついドアを開けてソファに座らせてしまったぞ。

「先生、これが手土産です。」

深雪さんは、手に持っていた箱を開けて見せる。こ、これは…お高いケーキ…

きめ細かいふわふわのスポンジの上に、くどくない上品なホイップクリーム。いちごの酸味がちょうどいい!


「先生、おいしいですか?」

「うん!すごくおいしい!でもいいの?こんな高いの…」

これ結構いいやつだし、結構高そう。

「はい。頭金として…」


買収された。これもう追い出せないじゃん。食べちゃったし。


深雪さんは私が投げ入れ損ねたゴミを片付けてくれたり、洗濯物を畳んでくれた。


めっちゃ助かる。色々ツッコミどころがあるけど、上手く丸め込まれて深雪さんに住み着かれてしまった。ああ、バレたら終わるな。


「じゃあ、先生、おやすみなさい。」

「うん、おやすみー!」


深雪さんの布団は引きっぱなしにしてた。


バレたらアウトな同棲生活が始まってしまった…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る