迷子になっちゃいました…

深雪さん…いない!

おいしいものや楽しいものが目を引くようにわかりやすく配置されているショッピングモール。ほしいものがあればすぐに見つけることができる便利な場所です。

でも、見つけたいものが人となると、ここは一気にラビリンスへと変貌する。


四方八方どこを見ても人!深雪さんは背が高いからすぐにわかると思ったけど、私が小さすぎてみんな同じくらいに見えるからあんまり意味なかった。

そして物理的に視界が遮られる。


周りの人に遮られて周りが見えない私、そして、人の波に埋もれる小さな小さな私を探す深雪さん。彼女からしたら、広大な砂漠の中で、一粒のダイヤを見つけるようなものだろうか。いや、そんなスケールではないか。私ダイヤほどレアじゃないし。


周りを見渡してもみんな同じような格好してるからわからん!

どこに行ったのか見当もつかない。

すごく心配になってきた。

変な人に絡まれてたらどうしよう。

深雪さんは美人だから、ありえなくもない。

それに背が高くてかっこいいけど、女の子だ。本当にやばい人相手だったらどうしようもない。


深雪さんに怖い思いをさせたくない。大人の私が守ってあげないと。


すごく不安になってきて、涙目になってしまう。やっぱり私は泣き虫だ。

勇気を出して、優しそうな警備員の方に聞いてみる。

「あの、すみません。」

「はい?」

「背が高い、女の人を見ませんでしたか?すっごく背が高くて、美人で…」

「うーん、そうだなあ。髪が長くて、モデルさんみたいな子かい?」

あ、それだ!よかった!手がかりゲット!


「その子ならたぶん、エスカレーターを下って下に行ったともうよ。周りをきょろきょろ見渡してたし、きみを探してたんじゃないかな。だめじゃないか。ちゃんとお姉さんについていかなきゃ。」


は?おいおいおい。私の方が年上なんですけどぉぉぉぉ!

グッと堪えて、笑顔で感謝の言葉を述べる。

「本当ですか。助かります!」


自分の教え子の妹だと思われた上にお説教をかまされた。

なんだろう。すごくムカつく。たしかに私は小さいけど、迷子になるような年の女児には見えないだろ!涙も引っ込んだ。


すこし速足で一階に向かう。

すると、アナウンスが聞こえる。

『迷子のお知らせです。』

迷子のお知らせかあ。何回かここで迷子になったことあるな。小さいころの記憶に浸っていると、閃いた。最初からこれを使えばよかったのかも?まあいいや。たぶん深雪さんはもうすぐ近くにいる。


名前を呼ばれて、私は足を止める。

『峯雲ミカちゃん、お姉さんがお待ちです。サービスカウンターへお越しください。』


な、な、なんだとおおおおおおおおお!

全身から火が噴き出す。まさか成人してから迷子の女の子になってしまうとは。

速足をさらに加速させて、サービスカウンターに向かう。


「はあ、はあ…み、峯雲です…」

あぁ、めちゃくちゃ恥ずかしい。

深雪さんは平然とした顔で座っている。成人女性を迷子として呼び出す方もちょっと恥ずかしいだろ…

「あら、妹さん来ましたよ。よかったですね。」サービスカウンターのお姉さんが深雪さんにやさしく笑いかける。やめてくれよ…


「ミカちゃん、心配したよ。」

み、ミカちゃん…深雪さんはあくまで姉妹設定を突き通すらしい。

本当に迷子の女児だと認識されているのは耐えがたき屈辱だけど、彼女の設定に乗っかったほうが店員さんたちを困惑させずに済む。

「みゆ、アンリちゃん!」

「帰ろうか。」

さりげなく彼女は、私の手を握る。

そ、そこまでする必要あるかなぁ!?

さすがにちょっと照れる。


妹扱いは腹立つけど、深雪さんが無事で本当によかった。

手を繋いだまま、駐車場に向かう。って、もう繋いでなくていいでしょ!はっとなって手を放す。手を繋いでいるところなんて見られたら大変な誤解を生むことになるし、なにより、本当の姉妹みたいでちょっと恥ずかしい…



「先生、ごめんなさい。」

車のライトや店の明かりで夜なのに明るい道を歩きながら深雪さんが謝ってくる。


「ん?なにが?」

「いや、迷子のアナウンス…」

そうだった。安心して忘れていたけど、この子は私に多大なる屈辱を与えたのだった。


「許しません!でも、深雪さんの身に何か起きてなくてよかったです。」


「え、先生心配してくれてたの?」

深雪さんが驚いたようで足を止める。

「当たり前だよ!深雪さんは私の大事な生徒。先生としては、あなたを守る義務があるんです!」


「そっか…うれしいです。ありがとうございます。」


「い、いや当たり前だもん!お礼はいいです。結局深雪さんのおかげで無事に集合で来たし、感謝するのは私です。ありがとうございました。でも恥ずかしかったから、連絡先交換しとこう。」

自然な流れで生徒と個人的に連絡先を交換してしまった。アウトだ。

でももう遅い。これから生徒を家に泊めるんだから。本当にバレたら私の教員生活どころか人生が終わる…


「でも、私も心配でしたよ?」


「え?」


「だって、先生ちっこくて弱そうですし。」


「むぐぐ、バカにするな!」


「あはは、先生かわいいです。ミカちゃんかわいい。」

深雪さんは私のほうを向いて、にこっと笑う。


すごく美人…でも誤魔化されないぞ!


「あー!ミカちゃんは禁止!私は先生です!!」


「はーい。」


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