お買い物クライシス

白いTシャツにジーンズ。めちゃくちゃシンプルな格好だけど、スタイルが良すぎてとてもかっこいい。

「深雪さん、おしゃれだね!スタイルいいからなんでも似合いそう!」

深雪さんは恥ずかしそうに、ネコみたいにグーで目の下をかく。


「普通だと思いますけど…」


普通なんだけど、超似合っている。スタイルがいいって本当にすばらしいな。

隣を歩くのがすこし恥ずかしいくらいだ。彼女と私が並んだら、子供とお母さんみたいになってしまう。


すこし遠出して、ショッピングモールに来た。ここに来ればたいてい何でもそろう。

服はもちろん、自転車まで売ってる。あと、アイス屋さんがある。あとで一緒に食べよう。


さて、今日の夜ごはんはどうしよっかなあ。


隣を歩くスタイル抜群のおねえさん…深雪さんに聞いてみる。

「深雪さん、好きな食べ物なに?今日は気合入れてしっかり作ろうと思います!」

「ほんとですか。うれしいです。うーん、カレーが好きです。」

「お、カレーか。いいね。私もちょうどカレー食べたかったんだー!」


カートに材料を放り込んでいく。


レジで金額を見てびっくりする。意外と…高い。いつもは適当にカップ麺などでお腹を満たしていたので、ちゃんと料理をするとかなりお金がかかることに驚く。


「うげ、高い。」

自動精算機のモニターに映し出された金額をみて、思わず声が出る。


「先生、今日は私が払います。宿泊費です。」

有無を言わさずに深雪さんがさっと精算機にお金を入れる。


「わっ、ごめん!」

申し訳ないけど、機械にのまれたお金はもう戻っては来ないので、仕方なくおごられます。


思ったよりも時間が余った。まだ六時にもなっていない。あの狭いアパートに二人でいてもやることはないので、もう少しぶらつくことにした。


「深雪さん、アイス食べない?」


アイス屋さんの看板が見えたので、深雪さんを誘ってみる。

「アイスですか?先生が食べたいのでしたら、私も。」

控えめに言ってるけど、声のトーンが上がっている。アイスでうれしくなるなんて、子供っぽくてかわいい。


アイスを受け取って、席に着く。私は小さいころからなんとなくチョコミントしか食べてない。みんなは歯磨きだってバカにするけど、私はおいしいと思う。

わかりやすいおいしさではないんだけど、癖になるというか。

スプーンですくって、口に入れる。

うん、おいしい!


「先生、チョコミント好きなんですか?」

深雪さんが少し笑いながら言ってくる。みんなすぐチョコミントのことをばかにする。おいしいのに。


「好きだよ!だっておいしいもん。癖になるんだー。」

先回りして、チョコミントがおいしいことを伝える。

深雪さんはニコニコしながら言った。


「なんで先生ちょっと怒ってるの?まだなんも言ってないですよ?」

まだってなんだよ。なんか言うつもりじゃんか。

対面に座る彼女の足を蹴って抗議する。


「私のもおいしいですよ。ほら、口開けて。あーん。」

あれ。

「へ?あ、あーん。」

口の中にストロベリーの味が広がる。チョコミント以外食べたことなかったけど、ほかの味もおいしいな。


「おいしい!」

深雪さんは満足そうに笑顔で私を見てる…あれ。

うわー!自然な流れで生徒にあーんされちゃった!

アイスのおいしさに誤魔化されてたけど、いま思い出して顔が赤くなる。

顔が熱くなっても、アイスは冷たくておいしいです。


「先生、リスみたいでかわいい。はい、もう一口。」


「バカにするなー!」


再び深雪さんは、アイスを私の前に差し出してくる。

もったいないのでパクっとする。

爽やかな甘さと、程よい食感。おいしい。




食べ終わったのでお会計。さっきは図らずして奢られてしまったので、今回こそは。深雪さんは当たり前のように財布を出す。

「私が出すよ!さっき出してもらったし。」


ごにょごにょ言っている深雪さんを無視して、お金を払う。うーん、やっぱり意外と高い。二人分払うことなんてなかったからなあ。


店を出て、どこか時間をつぶせるところがないか見渡す。

お、本屋さんとかいいかも。


「先生、どこか行きますか?」

「うーんとね、本屋さんいきたいかなぁ。」


日が暮れてくると段々人が多くなってきた。

人の波をかき分けて進む。

本屋に着く前に、見覚えのある金髪を発見してしまう。


「深雪さん、ちょっと離れててもらっていい?」

「え、なんで?」

深雪さんと同じクラスの月代つきしろさんを見つけた。

あの子はよく私に話しかけてくれる。だからこそ深雪さんと二人で歩いているのが見つかると少し面倒なことになる。


「いや、その…深雪さんと同じクラスの子が。」

言い終わる前に、深雪さんは逃げるようにどこかへ行ってしまった。まあ、物分かりがよくて助かる。


案の定、月代さんは私を見つけると、手を振って笑顔で駆け寄ってくる。


「峯雲先生!こんばんは!お買い物ですか?会えてうれしいです!」


キラキラの笑顔で駆け寄ってくる。私も月代さんに会えるのはうれしいけど今はタイミングが悪い。笑顔をつくるけど、深雪さんと一緒にいたのを見られているんじゃないかという不安で顔が引きつる。


「う、うん!夕飯の材料買ってたんです!」


「へえ!今日のお夕飯は何ですか?」

月代さんはすごくニコニコしながら質問してくる。いつもだったらすごくうれしいけど、今はこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


「え、えと、カレーだよ!」

無視して走り去るわけにはいかないので、質問に答える。深雪さん、どこ行っちゃったかな。


「カレーですか!いいですね~。先生は料理上手そうですよね。」

「いやいや、全然!」


「そうですか?でも先生、なんというか、家庭的?なイメージあります!」


この子本当にかわいいな。でも今はその可愛さを楽しむ心の余裕がない。

早くこの場を切り抜けたい。深雪さんはどこかへ行ってしまったし。


「あ、お母さん行っちゃうので、また学校で!すみません急に話しかけて。」


「ううん!全然大丈夫だよ!またね!」


月代さんは駐車場のほうへ行った。お家へ帰るはず。

はあ、よかった。

でも安心している場合じゃない。

深雪さんを探さないと!本当にどこに行ってしまったんだ…











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