朝起きたら女子高生がいる生活
寝苦しくて、ちょっと早めに朝が来る。
来年は絶対この部屋にクーラーをつけよう。
リビングの方からガチャガチャと物音がする。
あ、そういえば深雪さんと一緒に暮らすことになったんだ。この部屋にクーラーをつけるなら深雪さんの部屋にもつけなきゃいけないな。少しクーラーが遠のいた。
リビングのドアを開けると、冷たい空気と一緒に美味しそうな匂いがやってくる
「おはよう。先生。朝ごはん作ったよ。」
深雪さんは自然にタメ口に移行しているが、朝ごはんを作ってくれるのはありがたい。
「ありがとー!めっちゃ助かるよ!」
ご飯を食べて、ちょっとゆっくりする。
「あ、そういえば先生、今日何時くらいに学校出るのかな?」
「今日ー?えっとね、たぶん6時くらい。どしたの?」
「帰るとこ同じだし、車乗せて欲しいな。あと普通に先生と一緒に帰りたいから。」
最後に可愛いことを言えば、図々しい要求をしても通ると思うなよ!
まあでも減るもんじゃないので別にいいですけど…
「まー、いいよ?でも他の人に見られるとやばいから気をつけてね。」
「先生ありがとう。じゃあその時間まで教室で自習してるから。」
「うん!えらいね!」
「えへへ、ありがとう。」
やっぱり生徒の笑顔はかわいいなあ。これを見るために先生をやっていると言っても過言じゃない。深雪さんが素直に笑うところを初めて見たかもしれない。改めて思うけども、すごい美人だなあ。
「じゃ、私先出るね。深雪さん、電車で行くでしょ?」
「うん。行ってらっしゃい、先生。また学校で会おうね。」
「うん!行ってきまーす!」
家に生徒がいて、学校でも会うのってなんかすごく不思議!これからしばらくこんな生活が続くのかな。全然嫌じゃないし、むしろ助かるからありがたいけど、親御さんは大丈夫なのだろうか。そこだけがかなり心配だ。
もしかしたら、美人局的な…!?それはないか。帰ったらちゃんと聞いてみるか。
いつも通り授業をして放課後。
仕事がひと段落したので、深雪さんが待つ2年1組へ。この教室だけ煌々と電気がついているのでわかりやすい。
「深雪さーん。お迎えです。」
「あ、先生お疲れ様です。」
彼女を車に乗せて、ゆっくりと車を走らせる。速度出すの怖いから。
家に帰ってきた。
早速彼女に家族のことを聞こうと思う。
「ねえ深雪さん。」
「うん?」
「ご家族とはいまどういう感じなの?」
それを聞いた瞬間、いつもは飄々としている彼女が表情を曇らせたのがわかった。こんな顔は見たくないけど、しっかり聞いておかなきゃいけない。
「…大丈夫だよ。もう言ってあるし、先生は心配しなくていい。」
「いや、そうじゃなくて、何があったかを教えてほしい…」
「…いつかね。」
結局私は聞き出すことができなかった。彼女の寂しそうな表情を見ると胸が締め付けられる。
結局核心部分は聞けなかった。
「てか先生、部屋汚い。」
うお、痛いところを突かれた。1人暮らしの部屋なんて汚いものだろう。
実家暮らしの時は、物が多いから部屋が汚いのは仕方ないと言い訳ができたが、1人暮らしで物が少ないのに何故か部屋が散らかる。
「ぐ、い、今から掃除するんです!」
「私がやるよ。先生の部屋入っていい?そっちからやろうかと…」
「ダメー!いや、ダメというか、自分でやります!流石に自分の部屋くらい自分で掃除します!」
生徒に自分の部屋を掃除させるヒモになってはいけない。大人として情けなすぎる。しかも、私の部屋には見られてはいけない物がたくさん…
「わかった。じゃあ、ここを片そう。」
ゴミ箱から飛び出したティッシュや、潰してない段ボール、ラベルを剥がしていない空のペットボトルなど。
あとでやればいいかなーと思っていたらいつのまにか同居人と化しているゴミたちを始末する。
部屋が狭いからすぐ終わったけど、逆にこんなに簡単に終わるのに今まで放っておいた私の怠惰を恥じた。
「はい、終わり。」
「ありがとー…」
掃除をすると何故かかなり汗をかくので、さっさとシャワーを浴びてしまう。
「先生、ご飯作ったよ。一緒に食べよ。」
「わーい、ありがとー!」
おお、かなり助かる。今日1日で生活力が今まで以上に低下して、ヒモ力が向上した。
「ごちそうさまでしたー。」
深雪さんの料理はおいしい。私はすぐに胃袋を掴まれてしまった。
深雪さんと一緒に住んでいることがバレたらアウトだし、彼女の親御さんと連絡が取れてないのもかなりマズイんだけど、とりあえず、いったんここにいてもらおう。
家事してくれるし、おいしい料理を作ってくれるし…
朝起きたら深雪さんがいる生活も悪くはないかな。
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